ファンタジー序章

夕日ゆうや

王立魔王学院

 畑道を一台の幌馬車が行く。

 新しい道、新しい草木の香り。

 ここから俺の学院生活が始まる――。

「お。見えてきたぞい」

 御者のおじさんが微笑みを零す。

「俺にも見えてきた。あれが」

 城壁都市クエンタガ。

 王立魔王学院メリッサがその城壁を主張している。

 深いやさしさと鋭い洞察力を持つ、真のスターシアン。

 彼らが作った魔王を育成するための機関。

 一つ山の上にある学院だが、その前には中央広場が広がっており、街道の両脇に露店が建ち並ぶ。

 音楽家が、広場の真ん中で音楽を披露している。

 その音に耳を傾けながら、俺は串焼きを頬張る。

 学院まではあと少し。

 はやる気持ちを抑えて、俺は街道を走る。

 それがいけなかった。

「きゃっ」

 ドンッと肩がぶつかり、相手の人が尻餅をつく。

「す、すみません」

 俺は手を伸ばし、彼女を引っ張り上げる。

 あるいは、この出会いが世界を変えたのかもしれない。

「もう走らないでよ」

 文句を言いつつ、立ち上がった彼女は微塵も不快にさせない声音だ。

 赤い髪を腰まで伸ばし、サファイヤのようにキラキラとした蒼い瞳。

 少し垂れ目で困り眉をしている。

 全体的にスレンダーで胸も控えめ。

 服装は学院のものだ。

「もう、前はちゃんとみなさい!」

「す、すみません!」

 俺はそう言い、彼女に道を譲る。

 もう会うこともないかもしれない。

 惜しい出会いだった。

 そう思うくらいには可愛かった。

 また出会えることを祈って俺は学院に向かう。

 そこで俺はこの世界を学ぶつもりだ。

 魔王が生まれる理由を。

 俺たちが生きる意味を――。

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ファンタジー序章 夕日ゆうや @PT03wing

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