第15話 暁は親友
悠衣と出会って、全てが順調にいっていると思っていた矢先のことだった。久しぶりに届いた親友からの手紙に、希一の思考は停止した。
「暁が……戻ってきたんだ」
それは希一にとって、唯一無二の親友の帰国の通知だった。
小学卒業とともに両親の仕事の都合で海外へ行った親友、
▲ ▽ ▲ ▽
「まぁ、希一くんの親友ですか?」
「うん、暁っていうんだけど、本当にカッコいい奴ですごく女子にモテててたんだ」
「そうなんですね。その方が希一くんを悪の手から守ってくださってたと」
どこをどう解釈すればそうなるかは分からないが、悠衣が興味を持ってくれたのは嬉しかった。
手紙を貰ったことをきっかけに、再び連絡を取り合った希一は、今度の休みに会うことになったのだ。その時に彼女も見たいと言われたので、悠衣に同行を頼んでいるところだった。
「勿論です。希一くんのことは全て知りたいですから! 何なら小学生の頃のお話も詳しく伺いたいです」
「あはは、小学生の頃のか……。正直、僕はコンプレックスまみれだったから、あまり知られたくないけどな」
苦笑をこぼす希一に、悠衣はハッと気付かされた。
好きが昂り過ぎて全てが知りたいと、希一くんの気持ちも考えずに私は……!
自分勝手な考えに嫌気がさした。今、こうして一緒に入れるだけでも十分なのに、私ったら……。
「ごめんなさい、希一くん。でも私は過去のあなたがいたから今の希一くんがいると信じています。だからそんなに落ち込まないで下さい」
「悠衣さん……!」
「私はどんな罪を犯していても、どんなブサイクでも、どんなに馬鹿で頭の悪かった過去があっても、希一くんを見捨てたりはしませんから!」
流石にそこまで悪くはないけど———それでも好きだと言ってくれる悠衣に甘え、希一は笑った。
「それじゃ、今度の土曜日に。悠衣さんも予定を空けててね」
この時の希一達は、まさかあんな事態になるとは思わずに……何も考えずに約束を交わし合っていた。
そして当日、悠衣と待ち合わせをした希一は、暁が待つカフェへと向かった。珈琲が有名な昔からある老舗で、あまりにも大人っぽい雰囲気に入るのを躊躇ってしまった。
「アカネ珈琲店……ここだよね?」
貰った住所や店名を確認したが、間違いない。普段、ドートルカフェとかスタタしか行かない希一にとっては敷居の高い店だったが、勇気を出して入ることにした。
カランカランと来客を知らせる音が響いた。珈琲の良い香りとコポコポと湯を沸かす音が、軽やかにリズムを刻んでいた。
「とても良い雰囲気ですね。希一くん、奥の席に座りましょう?」
「あ、うん。でも、もしかしたら暁が来てるかもしれないから、ちょっと聞いてみるね」
レジスターの側にいた店員に声を掛けると、まだ来ていないとのことだった。希一達は伝言を伝え、奥の席に座ることにした。
薔薇の模様の入った、レトロな壁紙に木製のテーブルと椅子。アンテイークな人形達が並べられた棚を、悠衣は興味深そうに眺めていた。
「こんな素敵なお店が近くにあったなんて、存じておりませんでした。すごく素敵ですね」
「そうだね。ねぇ、悠衣さん。ここはパンケーキがオススメらしいから、一緒に食べようよ」
一緒にメニューを眺めていると、先ほど聞いた鐘の音が再び鳴った。
ドアに視線を向けると、そこには深々とキャップを被った人の姿が目に入った。
その人は店員と話した後、奥の席を見て向かってきた。
スラっとした長身に、無駄のない筋肉質の手足。もしかして———……?
「暁……? 暁なのか?」
「はは、久しぶりだね、希一」
数年ぶりに会った親友は、前よりも更にカッコよくなって現れた。刈り上げた髪も赤く染められていて、とても同じ歳とは思えない大人っぽい雰囲気を漂わせていた。
最近、自信が持てるようになった希一だったが、やはり暁を前にすると自分が未熟だと恐縮してしまう。
「あ、もしかして君が希一の彼女の悠衣さん? 初めまして、僕は希一の友人の宝条暁です」
「———初めまして。希一くんとお付き合いさせて頂いています東悠衣です。よろしくお願い致します」
ニコッと微笑み合う二人を見て、希一はモヤっとした気持ちを感じた。あれ、僕……もしかして暁に嫉妬してる?
それくらい美形な二人が絵になっていた。案内してくれた店員も、暁に見惚れるように頬を染めているし、心なしか悠衣も表情が穏やかな気がする。
「希一、こんな美人と付き合ってるなんてズルいじゃないか。相手が希一じゃなければ僕が交際を申し込みたいくらいだ」
「まぁ、お上手ですね。そうやってたくさんの女性を口説いてきたんですか?」
普段、希一以外の人には毒舌の悠衣さんが、なんだかマイルドになっている気がする!
しまった、僕は……暁を悠衣さんに会わせるべきじゃなかったのかもしれない。
「どうしました、希一くん。どこが具合が悪いんですか?」
まさか親友に嫉妬してますなんて、口が裂けても言えやしない。
希一は「大丈夫だよ」と無理矢理笑顔を作って、再びメニューを見始めた。
———……★
いよいよ暁編スタートです。前作を見ている方はアレっと思うかもしれませんが、春巻同様別物だと思って見ていただけると嬉しいです。
また、暁は「可愛い後輩の大好きが、俺にだけ伝わらない」に登場する暁と同一人物です。
もしよろしければ、そちらもご覧下さい! 宣伝でした★
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