第14話 大人の撮影会

 神橋に連れられてスタジオに入ったが、そこは完全防音の本格的な部屋だった。

 いつものチープな部室の撮影会とは全く違う。反射板とか、ライトとか、ドラマや映画でよく見る撮影現場の道具が一杯だー!


「紹介するね、哀奈ちゃん。彼らは俺と一緒にチームを組んでいる奴らなんだ。メイクとか色々担当してくれているんだ」

「そうなんですかー♡ 皆さん、私の為に……、哀奈、感激です♡」


 そんな浮かれた哀奈をニヤニヤ見つめる男性メンバー。神橋はソファーに哀奈を座らせると、徐ろに肩や二の腕を揉み始めてきた。

 普段味わうことのないいやらしい手つきに、ビクっと震えた。


「いやー……、いいね、哀奈ちゃん。素質あるよ?」

「そ、そうですか? 神橋さんにそう言ってもらえて嬉しいですー」


 その手がどんどんと際どい場所に移動する。たまに指先が、胸元を擦る。


「———っ、ン……っ!」


 わざとなのか確信が持てなくて、拒めない。これもまた、撮影のためには必要な行為かもしれないし……。


「それじゃ、哀奈ちゃん。撮影するから服を着替えてくれるかな? 持ってきてくれたんでしょ?」

「え、あ……はい!」


 この服も、お気に入りのワンピースなんだけど、これじゃダメなのかな? 前以まえもって準備するように言われていたのはビキニの水着。グラビア同好会でもよく使用するものだった。


「………仕方ないよ、グラビア同好会でも同じようなことをしてるし」


 哀奈は衣装を着替え、神橋達の待つ部屋へと入った。

 だが、そこに待っていたのは馬や牛、犬などの覆面を被った、下半身丸出しの変態達だった。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ———ッ‼︎」


 衝撃的光景! 4、5人ほどいた変態に、思わず扉を閉めた!

 嫌だ嫌だ嫌だ! 撮影会って、そういうの⁉︎


 縮こまって怯えていると、乱暴にドアを叩く音が哀奈を責め立てた。


「哀奈ちゃん、早く撮影しようよ? 君もある程度覚悟してきたんでしょ? これは同意の上だからね? おーい、早くー! スタジオも時間があるんだよ?」

「ひっ、い、嫌!」


 まさか、こんなにもあからさまな撮影会だとは思っていなかった。まだ学校の同好会活動の方がまともだ。神橋達のはセクハラか性犯罪だ!


 哀奈は急いで飯山達に連絡した。早く、助けを呼ばないと! 


「誰か助けて!」


 するとドアの向こうで大きな物音が聞こえ出した。中には悲鳴らしき声まで混じって聞こえ、一体何が起きたのだろうと覗き見るようにドアを開けた。

 そこにはロケット花火やネズミ花火、爆竹などに驚いて喚く神橋達の姿が見えた。フルチンのまま逃げまとう様子は滑稽だった。


「っ、林さん! 大丈夫⁉︎」


 そしてドアの隙間から覗いていた哀奈を見つけたのは、意外な人物だった。哀奈が恋心を寄せている高橋希一。


 なんで、ここにいるの……?


「いや、悠衣さんと一緒に買い物してる最中に飯山くん達を見かけて。声をかけたら助けてって頼まれたんだよ。林さんが危ないって」


 そうだったんだ……。まさか飯山ゴザルや木下くんと高橋希一が友達同士だと思っていなくて、驚きを隠せなかった。

 そしてこんな恥ずかしい場面を、好きな人に目撃されるショックも拭えなかった。


 私は恥ずかしい。簡単に騙されて、いろんな人に迷惑を掛けて。


 でもそれと同時に嬉しかった。高橋希一が助けに来てくれたなんて、これぞまさに白馬に乗った王子様だ。


「飯山くん達が引き付けてくれているうちに、早く逃げよう!」


 そう差し伸べられた手を掴みながら、私は高橋希一の手を強く握りしめた。状況は悲惨なのに、まるで漫画の主人公のような境遇に、胸が高鳴って抑えきれなかった。


 わたし、やっぱり高橋希一が好き———‼︎


 ▲ ▽ ▲ ▽


 無事に脱出成功した哀奈達は、後から飯山達と合流を果たした。もし彼らがいなかったら、どうなっていたことか……想像しただけでゾッとする。


「あの、高橋くんも、飯山くんも木下くんも、本当にありがとう! 私、皆がいなかったら、きっと今頃アダルトな世界に売られていたかも」

「本当でゴザルな。何がともあれ無事で良かったでゴザル」


 深々と下げていた頭をあげ、笑みを浮かべたその時だった。

 ビキニの紐が解けて、ヒラリと胸元が顕になってしまった。


 アガガガガ、だ、誰にも見せたことがない、生まれた時の姿(上半身ヴァージョン)!


 皆は急いで目元を覆い隠しがた、時はすでに遅し。こうして三人の男子は、思いもよらない形でご褒美を貰ったのであった。


「そ、そういえば高橋くんは大丈夫? 東さんと出かけてたんじゃないの?」


 空気を変えようと質問した木下だったが、すっかり悠衣の存在を忘れていた希一は、顔面蒼白になってスマホを確認した。悠衣からの着信が山のように来ている。やらかしてしまった。


「ごめん、僕はもう行くね! 林さん、これからは自分のことを大事にしないとダメだよ? 今のままでも十分、林さんのことを可愛いって言ってくれる人(飯山や木下とか、グラビア同好会メンバー)がいるんだから自信を持って!」


 そう言って立ち去った希一を見て、キュンと高鳴らせていた。


「高橋希一が私のことを可愛いって言ってくれた♡」


 だが希一の心の声は届かず、哀奈の勘違いは継続されていくことになった。そして命を張って助けたわりにはあまり感謝されなかった飯山達だったが、意外にもご満悦の顔でニヤニヤしていた。


「拙者達は哀奈キュンのTKBがご褒美でゴザったな」


 こうしてグラビア同好会は、今日も無事に活動を終えたのであった。


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