第11話 先輩登場

 週末、楽しいデートをした希一達は幸福感に包まれながら月曜を迎えた。


 何よりも垢抜けて美少年になった希一に、皆は慌てて振り返り騒然とした。


「ふふふっ、当たり前です。希一くんは素敵な人ですから。今更気付くなんて、遅すぎるくらいです」


 そういう悠衣も希一の存在を認識したのは最近のことなのだが、敢えて言わずに口を詰むんだ。


 そんな悠衣は相変わらず希一の隣、最後尾の席を陣取り、桃山を最前列に追いやってニマニマと笑みを浮かべていた。


「希一くん、本当に幸せです♡ こんな日がずっと続けばいいのに」


 彼女が幸せそうだと自分まで嬉しい。ニヤニヤと微笑みあっていると、何やら廊下が騒がしいことに気付いた。


 何だろうと覗いてみると、3年の先輩がこっちに向かってくるのが見えた。

 あの人は……見覚えがある。


「東悠衣の教室は、ここだったかな?」


 自信に満ちたその顔は確か、前に悠衣に好意を寄せられて屋上封鎖の騒動を起こした先輩! 確か名前は———「きみ、俺は3年の春巻だが、東さんを呼んでもらえないかな?」


 そう、春巻 火澄はるまき ひずみ先輩。整った顔にどこか気怠そうにしている一部の女子に大人気のイケメン先輩だ。


 間近で見たのは初めてだったが、確かにカッコいい。


「どうした? 呼んでもらえないのか?」

「す、すいません! 悠衣さん、先輩が呼んでるよ?」


 希一が悠衣に声を掛けると、火澄はすかさず満面の笑みで膝をついた。


「悠衣ちゃん! この前はゴメン! あれから君のことを理解しようと一生懸命ヤンデレについて勉強してきたよ。今の俺なら君の愛を受け止めることができる! だから、さぁ! 俺に愛をぶつけてくれ!」


「はァ?」

「え———⁉︎」


 突然の公然告白に皆が固まった。

 何を言ってるんだろう、この人は! 悠衣さんは僕の彼女なのに!


 当然受け取ってくれると信じていた火澄は、自信たっぷりに手を差し伸べていたが、悠衣は容赦無く足蹴りをした。


「ぐわぁぁぁ……っ、ゆ、悠衣ちゃん! 何をするんだ!」

「それはこっちのセリフですよ……。理解? 愛? 何をおっしゃってるんですか?」


 まるでゴミ屑を見るかのような視線に、ゾクゾクと悪寒を感じた。


「そんな、あんなに俺のことを好きだ、愛してると言ってくれていたのに! 心変わりが早すぎるよ、悠衣ちゃん!」

「そんなのとっくに冷めてますから。今、私には希一くんという素敵な彼氏がいるんですから、誤解を与えるような発言は控えてもらえませんか?」

「希一? 誰だ、それ! はぁん、わかったよ。そうやって俺の気を引こうとしてるんだね。俺もちゃんと勉強したよ? そんな嘘をつかなくても、もう俺は君を」


 全く聞く耳を持たない火澄に、悠衣の堪忍袋の尾が切れた。

 ヤバい、あれはヤる目だ! 彼女に暴力を振るわせるわけにはいかないと即座に間に入り、火澄の代わりに衝撃を喰らった。


「なっ、なんで希一くんが! ゴメンナサイ、私としたことが!」

「僕は大丈夫だよ。悠衣さんの手も大丈夫かな?」


 オロオロと焦る悠衣を見て、火澄も何かを察したらしく、見る見るうちに怒りを露わにし始めた。


「君、何なんだ? せっかく悠衣ちゃんが俺に愛をぶつけてくれたっていうのに! 横取りするとは、どういうつもりなんだ?」

「あ、愛?」


 どこをどう解釈したらそうなる? あったのは殺意だけだ。


「希一くん、気にしないでください。この人は頭がおかしいんです」

「おかしくないよ! 悠衣ちゃん、一体どうしたんだ? 何でそんなに素っ気ないんだ? 前まであんなに熱烈に愛を伝えてくれていたのに!」


 どんどん暴露される黒歴史に、流石の悠衣も恥かしくなったのか、顔を真っ赤にしてワナワナと震え始めた。


「そんなのとっくに忘れました! 大体あなたが私を振ったじゃないですか! ヤンデレなんて無理って! 私の愛が重いと言ったくせに、何を今更!」

「だからこうして勉強してきたんじゃないか! 今の俺なら君の愛を受け止められる! 俺が悠衣ちゃんに一番相応しい‼︎」


 そう言って改めて悠衣の手を取って、甲にキスを落とそうとした。


「だから遠慮なく愛をぶつけてくれていいんだよ? 悠衣ちゃん、アイラブユー……」

「そんなの認められるかー‼︎」


 勝手に繰り広げられた三文芝居に終止符を打とうと、思いっきり体当たりをした!

 ふざけるのもいい加減にしてほしい。何なのだろう、この人は! 悠衣さんも嫌がっているのに、勝手なことばかり言って。


「くっ、君も何なんだ! 邪魔しないでくれ!」

「しますよ! だって僕は悠衣さんの彼氏ですから!」

「は? 彼氏……?」


 希一の言葉にうっとりと惚気顔をした悠衣は、即座に腕を組んでこれよがしと幸せアピールを始めた。


「そうです、私の最愛の彼氏、高橋希一くんです♡」


 突然の強敵の登場に、流石の火澄も豆鉄砲を喰らった鳩のように固まったが、すぐに不敵な笑みを浮かべ出した。


「ふっ、そんなチンチクリン……俺がいなくて寂しかったから代用していたんだろう? もうそんなことする必要はないんだよ? 俺がちゃんと受け止めるから」

「だから、受け止めるならこの現実を受け止めてください。私はこの世で一番希一くんをお慕いしていますので」


 そう言って希一の顔を掴んで、濃厚なキスを見せつけた。あまりにも唐突な行為に周りが騒然と慌ただしくなった。


「あばばばば……っ、そ、そんな悠衣ちゃん……、俺の愛を試そうと、そんな———っ!」


 そう言葉を残して、火澄は気を失った……。



 ———……★

 春巻火澄、変態教師から自惚れバカ先輩に転生です。

 初見の方も訂正前をご覧の方も、お読みいただきありがとうございます! もし面白いと思っていただけましたら、応援や★など……ぜひ、よろしくお願い致します!

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