第9話 たまには甘いだけの時間を……♡
「希一くん、今度の週末は一緒にデートをしましょうね」
帰り道、突然のデートのお誘いに希一は吹き出した。
そうか、お付き合いしているのだから、デートをしたりするのか……!
当たり前のお誘いだが、女子と一緒に出かけたことがなかった為、焦りしかなかった。
「あ、あの悠衣さんはデートってしたことありますか?」
恋多きヤンデレ、悠衣のことだから経験豊富なのではと心配になった。下手なプランを考えて「やっぱり前の彼氏の方が良かったわ。希一くんとお付き合いしたのは間違いだったかもしれないですね」なんて言われたら僕は生きていけない。
「デートですか? 恥ずかしながら実際にしたことはございません……。
意外な言葉に思わず吹き出してしまった。悠衣ほどの美少女も妄想したりするんだ。別世界の人間のように思っていたけど、案外同じようなことを考えているんだと親近感が湧いた。
「ちなみに希一くんとのデートは、最後までシュミレーション済みです。どんな事態にも対応できますので、ご安心して下さいね?」
「どんなシチュエーションでもって……!」
一体、彼女はどこまで妄想済みなのだろうか? 思春期の男子の妄想なんて下衆なことばかりだけれども、そこまで妄想済みなのだろうか?
「希一くんの望みなら、海外まで手配いたしますわ♡」
「いや、流石に初デートでそこまで考えてませんから!」
こちらと貧乏学生! お小遣いなんて月に五千円だ!
しかし悠衣とはもうキスまで済ませているわけで……そのさきを望むのもおかしくないのだ。しかも彼女の場合、今すぐにでもイチャイチャしたいと宣言してる程だ。
もしかしたら僕の脱童貞も夢ではないかもしれない……!
「あら、希一くん。もしかしてどこか行きたいところがございますか?」
「え! いや、まぁ……ちょっと服とか見てみたいなーとは思ったんだけど」
「まぁ、お洋服ですか? 素敵ですね! 私も希一くんの私服姿拝見したことがないので、ぜひご一緒したいです」
その時、希一は重大なことに気付いた。
申し訳ないが僕は、非モテ男子だ。オシャレのセンスなんて壊滅的にないのだ。一方、悠衣さんは校内でも上位を占める美少女だ。そんな人と一緒に出掛けて隣を歩くなんて、自分のダサさを皆にアピールするようなもんじゃないか!
ワナワナと震える希一を心配した悠衣は必死に目の前で手を振ったが、全く反応がない。
「希一くん? 大丈夫ですか?」
「ゆ、悠衣さん……どうしよう。僕、着て行く服がないです」
「まぁ? そうなんですか? 服がないのは困りましたね」
まさか初デートに制服を着て行くわけにもいかない。どうしたらいいのだろう?
流石に悠衣さんにダサ男とは思われたくない……!
「それなら今から一緒に服を見に参りませんか? 週末と言わず、今からデートを致しましょう?」
「今から?」
うん、今なら制服だ。悠衣さんに恥ずかしい思いをさせずに済むかもしれない。
財布の中には一万いかないくらいしか入っていないが、これは必要出費だ!
「悠衣さん、yとろしくお願い致します! 僕の服を選んでください!」
「喜んでお選びいたします♡」
こうして二人は駅ビルのファッションモールへと向かった。
学生の味方、ユニシロやジーユーユーも入っているので、ここなら予算内で足りるかもしれない。
「まぁ、希一くんにお似合いの服がありますよ! 是非ご試着を!」
そう言って悠衣さんが選んだ服は1着数万する服だった。
高っ、ブランドショップってこんなに高いの⁉︎
「悠衣さん、ごめんなさい! 僕の予算は一万以内です……! こんな高い服はちょっと」
「そうですか? こういうのは生地も作りもしっかりしてるので長持ちするのですが」
たしかに見た目もオシャレでモノもいい。この考え方で、自分と悠衣の格差を思い知らされた。
「それなら私が希一くんにプレゼント致しましょうか?」
「えぇ! いやいや、こんな高いのダメだよ! 僕なんかには勿体無い!」
「そんなことはありません! 希一くんはもっと自分に自信を持って下さい! 希一くんほど素敵な男性、見たことないですから」
それは色眼鏡の贔屓っていうんです、悠衣さん……。
あまりのべダ褒めに店員も不審な目で見ている。中には嘲笑する客の姿も見え始めた。
「———ちょっとアナタ。何を笑っているんですか?」
コソコソと笑う客を睨みつけ、鬼の形相で凄ませた。美人のキレ顔ほど恐ろしいものはない。野次馬だった店員もコソコソと隠れて距離を取り始めた。
「い、いいよ、悠衣さん。このお店は僕には相応しくないから、他のお店に行こう?」
少しでも早く立ち去りたくて、必死に彼女の腕を引っ張った。
服とかセンス以前の問題だ。僕みたいな男と付き合ってる時点で、悠衣さんの格を落としてしまっているかもしれないと激しく後悔した。
「希一くん………っ、そうですね。ここは希一くんには相応しくありません。あんな失礼な態度をとる店員や客がいるお店なんて、こちらから願い下げです」
そうして悠衣は希一の腕にしがみ付き、満面の笑みで歩き出した。
「大丈夫ですよ、希一くん。お金を払えばいいってものじゃないですから。私がきっと希一くんに相応しい服を選んで差し上げますから」
そんな使命感に燃えなくても、ユニシロで選んでもらえればいいです。
「そうなんですか? ユニシロ……私、行ったことがないんですが?」
「嘘、行ったことない人なんているの⁉︎」
「服はいつも父が選んでくれるので……。なので偉そうなことを言って申し訳ないのですが、私もあまりセンスに自信はないんです」
そうだったのか……。てっきり鬼レベルのセンスも持ち主だと思っていたので緊張していたが、僕が勝手に身構えていただけなのかもしれない。
それでも高級な物を身につけていることには違いないかもしれないが、僕も僕なりに自信を持って選ぶしかない。
「僕、モノクロの服しか持ってないんだけど……大丈夫かな?」
「まぁ、素敵です! 大人っぽい希一くんを見れるんですね♡」
白と黒を選んでいれば、とりあえず無難に纏まるって記事をみただけなので、そんなに褒められたものではないんだけど。
「悠衣さんはどんな服を着てくる? その、悠衣さんの隣を歩くのに、僕だけ浮いてたら恥ずかしい思いをさせてしまうかなって思ったんだけど」
「まぁ、そんなことを心配していたんですか? それなら私もモノクロの服を選んできますね。まるでペアルックのようで素敵です」
あんなに悩んでいたのがバカらしくなるほど、悠衣の提案に安心を覚えてた。こんなことなら、最初から相談しておけば良かった。
「あ、そうだ。悠衣さんさえ良かったら、一緒にこれを買わない?」
希一はアクセサリーショップにあったペアのネックレスを指差した。
銀版にアスタリスクが刻まれているシンプルなデザインで、ゴツいデザインじゃないし、これなら女性の悠衣が身につけても変ではない。
「ふふっ、お付き合い記念ですね♡ 早速、今度のデートのときにつけましょうね♡」
こんなに愛されていいのだろうか?
あまりの幸福感に涙が溢れる。涙腺が壊れてしまいそうだ。
「あと、もし希一くんが見た目にコンプレックスを抱いているのなら、私に少しだけ協力させてもらえませんか?」
協力? 何だろう?
首を傾げると、悠衣は唇に人差し指を当ててウインクをした。
「今は秘密です。今日、私達を笑った愚民共を一泡吹かせてあげましょう」
ウインクも愚民って言葉も、絶世の美女である悠衣だから許される行為なんだろうなと希一はしみじみと考えていた。
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