第7話 仲直りのしるし
噛んでもいいって、何て変態じみたことを言っているんだろうか?
言ったあとに盛大に後悔した。よりによって
だが男に二言はない……! それにこれからは不安にさせなければいいんだ。うん、きっと、多分……。
「それじゃ、見えないところに……失礼します」
そう言って外されていくシャツのボタン……そしてネクタイが緩められ、胸元や鎖骨が顕になった。
いつ誰が来てもおかしくない状況で、なんて危ないことをしているのだろう。いくら彼女の痛みを思い知るためとはいえ、これは───……。
「希一さまの肌……、あァ、綺麗……ッ、」
悠衣の表情が、艶美に紅潮して火照り出した。さっきまで涙を流していた人とは思えないくらい、興奮しているのが手に取るように分かった。
彼女の指がゆっくりと背中に周り、上半身がピタリとくっついて、そのまま首元に顔が埋められた。
荒くなった吐息が、肌を掠める。
心臓が、バクバクと騒がしくて口から出そうだ。
「見えないとろこだから……ここはダメですよね?」
彼女はわざと首筋に舌を添えて、挑発してきた。そもそもそんな箇所を噛まれたら、致命傷で死んでしまう。
僕はまだ死にたくない。
「それじゃ……ココ?」
焦らすように舌が這い、今度は鎖骨の辺りに。そして上目に覗き込んできた目が、意地悪に笑ってきた。
「出来ればもう少し……痛くなさそうな場所で」
「希一さまも我儘ですね。それじゃ、ここに」
彼女は肩に甘噛みすると、少しづつ力を込めて言った。上下の前歯が皮膚にのめり込む。思っていたよりも痛い、意外に遠慮知らずに噛むんだと希一は後悔した。
「ン、うぐ……ッ、ァ……」
声が漏れる度に力が強くなる。
痛い痛い痛い……っ、歯を食いしばって堪えていると、ふと痛みが和らぎ、開放されたのを感じた。
「痛かったですか?」
荒い息を整えようとしていると、悠衣の顔が近づいてきて、そのまま唇を塞いでいた。
今度のキスは触れるだけのではなく、興奮をぶつけるような、荒々しいモノだった。
もう、何の涙かも分からない。
「希一さま、とても官能的な表情ですよ?お仕置なのに……悪い人」
「お仕置って、違うよ? 別に僕は悪いことをしたわけじゃ」
「悪いことですよ? だって私が嫌な思いをしたんですから。───あぁ、可哀想。噛んだところから血が出ちゃった……」
それは君が遠慮なく噛むから、と言いかけたが止めた。これが彼女が味わった痛みなら、僕は耐えなければならないんだから。
「でも希一さま。私、痛みを与えるよりも、気持ちをぶつけられる方が嬉しいんですけど」
「え、気持ちをぶつけるって……?」
ど、どういう意味ですか?
「───もう、分かっているくせに、意地悪な希一さま」
恥じらいながら顔を赤らめる彼女を見て、流石に悟った。こんな変態じみたことをしてなんだけど───それはもう少し、お互いのことを知ってからにして欲しいです。
「……でも、希一さま。私、近道だと思うんです」
「近道……?」
「そう、きっとお互いを知るための、手っ取り早い行為。だって私は希一さまのことを知りたくて仕方ないんですもの。アナタを私のものにしたくて堪りません」
いや、僕は───!
と言いつつ、きっともう、手遅れなんだろう。彼女を助けたあの時から、僕たちの運命は決まっていたんだ。
「希一さま、アナタに私の全てを捧げますから、私のモノになってくださいね。これからは私だけを見て、私にしか触らないでください」
「いや、それは流石に難しい……」
「それじゃまた噛みます」
「え、ちょっと、待っ───!!」
僕らの日々はまだまだ続く……。
きっと、これからも、ずっとずっと。
———……★
第一章、お読み頂きありがとうございます。
とりあえずここまでが前回と同じで、次回からが心機一転で新しく執筆になります。登場人物の設定なども変わりますので、一度読んだ方でも楽しめる内容になると思います。
また、応援や★、フォローなどを頂けると嬉しいので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
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