第5話 負け犬確定……?
私は一体、どうしたんだろう?
男子にチヤホヤされるのも初めてじゃない。グラビア写真部のメンバーだって、私のことを甘やかしてくれるし、とっても姫扱いしてくれる。
なのに、なんで……どうして高橋希一に手を差し伸べられた時、胸の奥がキューっと締め付けられたんだろう。
「変なの……こんな腑抜けた顔、私じゃない」
真っ赤になって、口元もだらけていてニヤニヤして、全然可愛くない。こんなの、私にメロメロでエッチぃな目で見てくる男子と同じ顔じゃない……!
やだ……ヤダヤダヤダヤダ、嫌だ。
私が高橋希一を意識してるってこと? そんなの絶対に許せない。
「私が高橋希一をメロメロにさせたいのに、なんで私がなってるのよ!」
鏡に額を押し当てて、ぷくぅーと頬を膨らませ、哀奈はセンチメンタルに悩んでいた。
▲ ▽ ▲ ▽
「今日はこの衣装を着て、写真を取らせて欲しいでゴザル」
グラビア写真研究部、部長は地下アイドルが着ているような、安価で作りもデザインもチープな衣装を持ってきた。
『ってか、短……っ! これじゃ、パンツ見えちゃうじゃん!』
しかも
「哀奈キュンは可愛いでござるから、きっと本物のアイドルよりも完璧に着こなすでゴザルよ!」
そう、コイツらは煽てるのが上手いのだ。だからついついリクエストを聞いてしまう。
「可愛いでゴザル! 最高でゴザルよ!」
「やっぱり哀奈キュンが一番だね」
「もっと、こう……オシリを高く突き出して!」
五人くらいの部員がカシャカシャとフラッシュを浴びせてくる。ほら、四つん這いになって猫のポーズとか、ガチのグラビアポーズで恥ずかしい。
虚しいな、何だか……この間までは楽しかったのに。
『これが高橋希一だったら、少しは嬉しいのかな?』
ゴザルの顔で妄想した瞬間、ジュンと下半身が熱くなって、とても恥ずかしい気分になった。やだ、私……!
「哀奈キュン、その発情した表情、とても良いでゴザルよ」
───違う、こいつらは高橋希一じゃない。高橋希一はそんなこと言わない!
そう自覚した時、私の中で何かが壊れ始めた。もう
▲ ▽ ▲ ▽
「ふふん、昨日の二人の様子を見ていれば、まだ深い仲ではないのは一目瞭然! それなら私が奪ってやるわ!」
スタートラインは似たようなもん、私にも勝ち目はあるはず。そう意気込んで教室に向かっていたのだけれど、中を覗いた瞬間に絶望的な光景が飛び込んできた。
「希一さま、お腹空きませんか? 飴を召し上がりませんか?」
「い、いいよ。そんな気を遣わくても……」
「何を仰ってるんですか。好きな人のことを気遣うのは当たり前ですよ」
話してる会話は大して変わらない───が、二人の雰囲気、表情、何よりも東悠衣の余裕が!
二人の間に何かあったのが一目瞭然だ!
ヤッたの? もしかして事後なの!?
「ヤダ、ヤダァ……っ!」
私だって、好きなのに……高橋希一のことが好きになったのに!!
ズルい、ズルい! 東悠衣ばかりズルい!
我慢できなくなった哀奈は、悠衣の前に立って指を差し、宣戦布告を言い放った。
「東悠衣、私と勝負してよ! そして勝った方が高橋希一の彼女になるのよ!!」
「───は?」
ガヤガヤと騒然となった。
喧嘩を売られた悠衣も、不機嫌を露にした。希一も何が起きたのか理解出来ず、パニックに陥っていた。
「あ、あの、いきなり何を……」
困惑した希一の顔を見て、自分がしでかした失態の大きさを痛感した。でも、だってこのままじゃ、私が入り込む機会がないじゃない!
「す、好きになったの……! 高橋希一、アナタのことが好きになったの!」
もう一歩も引けない───……哀奈はもう、前に進むしかなかった。
▲ ▽ ▲ ▽
一体僕の人生は、何処で分岐を迎えたのだろう?
つい数日まで全く女性と縁がなかったのに、学校でもハイランク美少女(ただし、極度のヤンデレ)の悠衣さんに好意を抱かれたり、ドジっ子で有名な林田さんに公開告白されたり。あまりの急展開に頭がついてこなかった。
正直、嬉しいよりも何故が勝る。
だって林田さんも悠衣さん同様、僕のことなんて何一つ分かっていないだろうから。
「えっと、勝負と言われても……彼女は僕が決めるものなんじゃ?」
「だから、その、違っ! 私は……このまま気持ちも伝えられないままは嫌で……!」
……うん、林田さんの言い分は分かった。
だけれどもやっぱり何か納得できない。
なんで最近の女子は、たった数分で恋に落ちて、相手の気持ちを考えずにグイグイ迫ってくるのだ?
お願いだから、普通に告白してきて! そして僕にも選択権を下さい!! そしたら僕も素直に喜べるのに、残念で仕方ない。
「……アナタは林田哀奈さん、でしたよね?」
ツートーンは落ちた声を聞き、辺り一帯が凍りついた。黙り込んでいた悠衣が、やっと口を開いたのだ。
明らかに悪い雰囲気、邪悪な黒いオーラが立ち揺らぐ。只でさえ強い目力が更に凄みを帯びて、一睨みだけで命を奪われそうだ。
「希一さまは私の運命の人なの……。赤の他人が余計なことをしないで?」
怖い怖い怖い怖い……!
隣を見るのも恐ろしい、よく
「そもそも勝負……? 一体何を競うというの? 希一さまへの想い? 愛? 彼の良さを知らないペーペーが出しゃばらないでくれます?」
「いや、その言葉をそのまま、結衣さんに言いたいけどね」
どんぐりの背比べだと喉先まで出掛けたが、そのまま飲み込んだ。
「だ、だけど……時間なんて関係ない! 確かにアナタの方が先に出会ったかもしれないし、私は高橋希一について何も知らない。でもドキドキするの! 彼のことを思うと胸が苦しくて、切なくて、黙っていられなかったの!」
哀奈の真っ直ぐな気持ちに、希一も胸を貫かれた。この子の気持ちも素直に嬉しい。
本当に短い時間だし、僕は手を差し伸べただけなんだけどね……。優しい人なら誰でもいいのかな───と心配にもなってきた。
「ダメよ、私の希一さまにふしだらな気持ちを抱くなんて、絶対に許せない。二度とそんな想いが芽生えないように、徹底的に地獄を見せてあげましょうか?」
あぁ、こっちもこっちで恐ろしいことを呟いている。僕は平穏な日常を求めているのに、どうしてこんな展開になるのだろう?
「希一さまも私のことを裏切ったりしないですよね? 昨日あんなに気持ちを交わしあったんですから」
「え、あ、その……!」
「もちろん、他の女に浮気なんてしないですよね?」
あ、愛が重すぎる!
せっかく昨日の出来事でいい雰囲気になったかと思ったのに、また
恋愛経験が乏しい僕に、恋愛は無理ゲーだったのか? 浮気とか、そういう前に二人ともまともに会話ができていない。
「───あの、僕……無理です」
「「え?」」
二人の声がダブった。しかし若干、悠衣の声が低くて狂気を含んでいたのは、気のせいではないだろう。
「だって……そもそも僕は、お二人のことをよく知らないし」
「───え?」
「だからまずはお友達から始めて、お互いのことを知ってからでもいいんじゃ……」
だが、それ以上の言葉を続けられなかった。悠衣がボロボロと泣き始めて、激しく取り乱し始めた。
「───ったのに!」
あまりに小さな声で、上手く聞き取れなかった。だが聞き返したのは悪手だった。
「あんなに激しく交わったのに!? 酷い、希一さま……っ、私はハジメテだったのに!」
「ゆ、悠衣さん!」
「私の純情を弄んで、酷い! 酷すぎます!!」
まって、悠衣さん! そんな誤解を招く言葉を叫んだら、勘違いするから!
案の定、周りの級友たちの視線が、どんどん冷たくなっていく。痛々しい視線、容赦ない虚言、美少女の涙……希一もタジタジになり、瀕死状態で最上階で迷宮入りした絶体絶命の冒険者のように、絶体絶命の立場追い込まれた。
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