第4話 確かめ合った気持ち
あれからどれくらいの時間が経っただろう?
無事に彼女を発見できたのはいいもの、一向に離れる気配はないし、離れてくださいとも言いづらい。
だが、だからと言ってこのまま旧校舎にいるわけにもいかないと、希一は頭を悩ませていた。
「それにしても……」
「え?」
「まさか希一さまがそんなことで悩んでいるとは思いもしなかったです。私が幻滅するんて、見くびらないで欲しいです」
まさか怒っているのか?
「いやいや、悠衣さんは僕の名前も知らなかったじゃないか! 全然知らない相手に幻滅しない保証はないでしょ?」
むしろ嫌われ要素が有りすぎて、不安ばかりなんですけど?
「それに関しては私も詰めが甘かったです。こんな素敵な人を見落としていたなんて、節穴にも程がありますもんね……」
「いやいや、それは過大評価です」
そして、それが恐ろしいんです! やめてください!!
「でも、希一さまがおっしゃることも一理ありますね。私たち、あまりにもお互いを知らなすぎている。だから……少しだけお時間を下さいませんか?」
そう言って悠衣は、窓際の古い壊れかけた机に腰を掛けた。
月明かりだけが照らす旧校舎で二人きり。この日常では味わえない雰囲気に飲み込まれていた。
「でも、悠衣さんのご両親も心配しているんじゃないですか?」
億した希一は口篭るように尋ねたが、返ってきた答えは予想外なものだった。
「私の両親は離婚していて、父も海外赴任で家を空けてます。だから心配する者はおりません」
寂しく微笑む彼女を見て、失言したと後悔したが、そんな希一を慰めるかのように手を差し伸べた。
「そんなに気を病まないでください。でもそうですよね。あまり遅くなると希一さまのご家族も心配しますし、少しだけにしましょう」
「いや、僕はいつも塾に行ってるから、多少は遅くなっても問題ないよ」
せっかく彼女の方から帰るタイミングを切り出してくれたというのに、自ら逃げ道を断ってしまった。だが後悔はしていない……。
「僕も、ちゃんと悠衣さんのことが知りたいから、教えてよ」
招かれた手を取り、二人は腰を下ろした。
───が、どうしてこうなった!?
確かに教えて欲しいと頼んだし、まだ一緒にいたいと口にしたのも僕だけど、何でこの体勢?
座り込んだ希一の前に座って「よいしょ」と身体を丸ごと預けてきた。密着する背中と腹部。下腹部、下半身までピッタリで、まるで恋人同士の甘い語らい!
「気にせずに、どんどん話してください。私も希一さまのことを沢山知りたいですし……なんなら全て、産まれてからの記憶や思い出、全部を存じ上げたく思っております」
「いやいやいや、いきなりこの勢い! 僕は少しづつ、お互いのことを知って、友達から始められたらいいと思って!」
「まぁ、ちゃんと私との
掴まれた両腕をギューっと握られ、まるで僕から抱きしめているようなシチュエーションに胸の高鳴りを隠し切れなかった。
それに掌が悠衣さんの胸に押し当てられて、とても悪いことをしている気分になる。
「もっと堂々と触ってもいいんですよ?」
「なんで僕の心を読むんですか? もしかしてダダ漏れですか?」
ふふっと笑うだけで、上手くはぐらかされてしまった。
「でも本当に……冗談じゃなくて、本当に悔しいんです。こんなに近くに
「悠衣さん……その気持ちはとても嬉しいです。けど悠衣さんは僕にとって、その、高嶺の花の存在で、すごく怖いんです。僕は本当に大したことない人間だから」
身長も高くない、細身で女の子に間違えられやすい顔立ちは、よく同級生にバカにされてコンプレックスになっていた。
最近では隠すようにメガネをしていた始末だ。
けど彼女は、厚く隠していた前髪とメガネを外して、真っ直ぐに見つめてきた。
「そっか、希一さまが隠していたから、今まで気付かなかったんですね。とても可愛いくて凛々しい顔ですよ? 私だけの王子様……私だけの希一さま」
彼女の赤みを帯びた唇が、またしても近付いて唇に重なってきた。けど今度は逃げずに受け止めよう───。
だがそんな覚悟とは裏腹に、あの時の官能的な快感は襲ってこなかった。その代わり満たされるような愛しい気持ちでいっぱいになった。
「これからは時間がたっぷりありますから、ゆっくりと……ですよね?」
「悠衣さん……!」
いや、これは大分先に進んでると思うのは僕だけだろうか?
普通、友達同士ではキスしたりしないはず。少なくても僕は友達とキスなんてしない。
しかし昼間のように無理やり襲ってこなくなっただけでもマシなのだろうか? 分からない、何が正解なのか恋愛経験が乏しい僕には分からない。
正直に言うと、僕自身も悠衣さんに惹かれ始めている。こんな綺麗な人に好きだと言われて意識しない男子なんて、ヤンデレを考慮しても少数派だと思う。
『悠衣さんは大丈夫だと言っているけど、気持ちなんて簡単に変わってしまうし……。僕だけでも気持ちにストッパーを掛けとかないと』
込み上がる感情を押し殺して、必死に自制心を保とうとする希一。その一方で、悠衣は着々とアプローチを続けていた。
「希一さま、暗くて足元が見えません。もっとくっついてもいいですか?」
組んでいた腕をギューっと胸元に押し付けて、魅惑的な武器でふんだんに魅了を続けた。
それはダメだ、ズルい! 頭が真っ白になる! 自然と前屈みになる姿勢。
僕はこの誘惑に耐え続けることができるのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます