第24話 決意
ボスからの電話で会って話す事になったカルロは指定された渋谷の円山町にある組織が裏で運営するラブホテルに向かった。
カルロがホテルに着いて中に入ると、直ぐにパンツスーツのキャリアウーマン風の女に案内される…
階段で地下に降りると階段とほぼ同じ幅の廊下が10メートル程ある、廊下の先に扉が見えるが灯りは足下の間接照明たけで薄暗い、女に中で待つように言われたカルロは無言で扉を開け中に入った、部屋は何処となく日本語学校の校長室に似ている。
20分ほど待つと50代で特徴が無い男が現れた一見何処にでも居そうな男だが、カルロはその男に裏社会独特のオーラを感じた、カルロはボスを知らないが話し出したその声は電話で話した声と同じだと思った。
ボス
「警察に通報したんですね?」
カルロがホテルに着く前に速報などで事件の概要が報道されていてボスはだいたいの状況を把握していた。
カルロ
「そうです…」
ボスが今回の事をどう評価してるか分からないが、カルロは全て正直に話す事を念頭に置いていた。
「お疲れ様、詳しく聴こうかと思ったけどニュースでだいたい分かったから…」
当初、カルロを甘く見てたボスだが今は一目置いてるようだ。
カルロ
「俺は…どうすれば」
どうすればと尋ねたが、これはボスにどうするつもりだと聞いていた…
カルロは部屋までの廊下に何らかの仕掛けが在ると感じた、薄暗いのはそれを隠すためで女が扉まで着いて来たのは探知機などで武器を持ってないか確認したからで反応すれば部屋に入る前に取り上げるのだろう…
脱出出来ない部屋に通されたカルロには不安があった。
「このまま渋谷で働いて貰うけど…横浜は捨て難いマーケットだ時期に取り戻して貰う」
「もらう? それを俺にやれと…」
「別にペナルティーとかじゃないよ、横浜のトップに成るってことだ悪くないだろ」
カルロとボスの会談は長く続いた。
すでに疑われていたとは言え谷口を失った損失は大きい…谷口には警察を辞めてもらってその伝で後釜を出して貰う予定だったが出来なくなった代わりになる刑事を作るのはカルロの義務だと言う事…
死ぬ前の谷口の情報で、こずえと言う女を特捜が調べていて校長のリョウガ暗殺はそれが原因で阻止されたと言う事…
しばらく渋谷の売買を手伝い横浜のマーケット再開の時に役立てる事…
整形で顔を変えて、国籍も変える事など、最初はこの地下の部屋に不信感を抱いていたがこれらの話をするにはこう言った部屋でなければ話せないと言う事かとカルロは納得した。
警察の建前上、カルロの指名手配は解除されたが先ずは整形をするため地下病院に向かった。
神奈川県警察本部
捜査一課が坂下あきら殺害の幕を引いてから十日がすぎた頃、正式に警視となった矢野口が特捜を立ち上げ取調室から特捜も課として捜査室を持つようになった。
矢野口
「今日からここで働いてもらいます」
佐藤と梶山が矢野口に昇進をねぎらいお祝いの言葉を口にする。
〝 昇進おめでとうございます警視 〟
〝 おおめでとうございます 〟
改めて特捜は麻薬組織壊滅を目指して捜査を始める…
するとリョウガの護衛兼監視をしてる刑事から佐藤に連絡が来た。
「警視…リョウガ君が今、警察官採用試験を受けてます!」
十日前 横浜中央病院
眠っていたリョウガの意識が戻ったのはちょうどカルロが事件の終息を図って警察に通報した時刻だったので特捜のメンバーは病院に集まっていた。
目覚めたばかりのリョウガは激しい時差ボケのような状態だが医師の診断では問題無しで皆が安心してると矢野口に容疑者死亡の連絡が来た、3人が現場に駆け付けた頃には矢野口がキャリアの威光を使っても現場を動かす事が出来ない状態になっていて一課課長に事件の幕引きをされてしまった。
それから三日後、順調に回復したリョウガが退院する事になり、ハッキング事件のリョウガの身元保証人を引き受けた社長が迎えに来た。
社長と挨拶を済ますと、ベッドの上だが正座になって頭を下げるリョウガ…
「すいません!会社を辞めさせて下さい…」
突然の事だが余り驚いた表情をしない社長が理由を尋ねる。
「もしかして、独立か?」
「ちっちがいます、刑事になりたいんです…」
社長はそろそろリョウガほどの才能なら独立させようかなどと考えていたので、最初に辞めさせてと言った時とくに驚かなかったが刑事になりたいにはハデに驚いた!
「なっなに…?バカな事を!」
「真剣に考えての事何です」
「君の事情は理解しているつもりだ、警察に協力してるのも知ってた…だけど、事件は解決しただろ」
「いま、あたしは生きてるけど死んでても不思議じゃなかった…今回の事件でも何人も人が死んだ、社長のお陰であたしは裕福な生活が出来てる、でも…」
「私のお陰ではない、リョウガ君の才能だむしろ私が君のお陰で儲かっている」
リョウガはどうやって説得するかと思ったが、恩のある社長の理解を得るのは本心て訴えるのが礼儀だと本音を話す。
「…今回、人の生き死にを痛感したんです…あきらが殺されて本当に辛かった…あたしに本当に才能があるならそれで人を救いたいんです」
リョウガの言葉は重い、実際死んでいても不思議ではない経験をしたリョウガ…
ギリギリで救われた命で誰かを救いたいと言う使命感にも似たリョウガの決意を社長は否定出来ずにその日は気まずい空気のままリョウガを家まで送り届けた。
そして数日が過ぎてもリョウガの決意は変わる事なく…いや、むしろ固い決意となって今日の警察官採用試験を受けている。
特捜課
リョウガが、警察官採用試験を受けていると言う事は彼が警官になると言う事だ…
それは、助かった命がまた危険な目に会う事を意味する、リョウガが特捜に入れば戦力的に申し分ないが皆一応に複雑な思いを巡らせていた…
すると、それぞれの思いを理解したのか矢野口が話し出した。
「確かにリョウガ君を危険に晒した負い目が私達にはあります…ですが、全ては彼が決めた事…私は命を掛けて悪と戦う事を決めたリョウガ君を警察の一員として歓迎しますよ」
矢野口の楽観視とも思える発言に梶山が異議を唱える。
「本当にそれで良いのでしょうか…捜査の協力をさせた私が、彼の…リョウガ君の人生を変えてしまったんじゃないか不安です」
矢野口
「そうですね…人生の道しるべは常に他人によるものだと私は思います」
「道しるべ…」
「そう、貴方と言う道しるべにたどり着く前には、リョウガ君はあきら君と言う道しるべに会っていた…」
矢野口は梶山が捜査の協力を頼んだのは坂下あきらが殺されたからで、それはリョウガが坂下に出会ったからであって梶山の責任では無いと言う含みを話した。
「それはそうですが、協力を頼んで警察に入る切っ掛けを作った責任は私です…」
「勿論解釈の仕方はイロイロありますが、人は皆他人に左右され生きてます…
でも決めるのは本人だけ、沢山の人に影響されても最後に決めるのはいつも本人の意志です。
だから、本人の…リョウガ君の意志を皆で歓迎してはどうでしょう」
人は皆、他人に左右され生きている…矢野口自身も特捜を立ち上げ組織の壊滅を目指すのは愛してた人が殺された復讐から始まっている…それも他人の影響だ、しかしこの不幸な出来事を忘れないと誓ったのは紛れもない矢野口自身の強い意志だった。
18:50
リョウガ自宅
試験を終えてマンションに帰って来たリョウガは合格を確信しているので不安も安堵感もないが、自分を護衛していた刑事が居なくなった事に安心していた…
何故なら、警護されなくなったのは、警察官採用試験を受けた事を知って警官なら護衛は要らないと自分が刑事になる事を特捜の皆が認めたと判断したからだ。
そんな、少し気持ちが楽になったリョウガを顔を変え中国人李鄭(リ・テイ)になったドラッグマン(カルロ)が怪しく眼を光らせていた。
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