第22話 始まりのふ頭


神奈川県警察本部


梶山は署に戻ると矢野口が居る取調室に向かう、仮の特捜課は取調室を利用している…矢野口と佐藤が警察内部のスパイを詮索していると梶山が入って来た。


佐藤

「お疲れ様です」


梶山の顔を見た矢野口は最初にリョウガの容態を尋ねた。


矢野口

「リョウガ君はどうですか?」


梶山

「脳に損傷は無いそうですが、医者も意識が何で戻らないか分からないそうです」


矢野口

「そうですが…しかし異常が無いと言う事は、いつ目覚めてもおかしくないと…」


「…はい」


矢野口の慰めの様な言葉は誰の心も明るくは出来なかった、皆一応に責任を感じている。


梶山

「じつは、さっきこずえと電話で少し話したんですけど、気になる事があって…」


矢野口

「興味深いですね、聞かせて下さい」


「はい、こずえに電話でリョウガ君を見殺しにしたと言ったら〝私は奴等が何でリョウガに興味があるか知りたかっただけ〟って言ったんです」


「なるほど、奴等ですか…」


奴等イコールこずえが追っているのは複数と言う事になる、従って単にドラッグマンを追っているのではない。


「ドラッグマンを追っているのは組織にたどり着くためかもと…」


自分の推理を矢野口に投げ掛けると矢野口がそれに同調する。


「私も日本語学校を調べて分かったんですが、リョウガ君に関するものがPCで閲覧されたハッキング事件の履歴だけなんです…それだけで襲撃すると言う発想になるには組織を知らなければあり得ない…」



2人はこずえがドラッグマンを追ってるのではなく、組織を追ってると認識する。


梶山

「同感です、こずえは…組織を追っている」


佐藤

「しかし…友達を死なせてでもたどり着きたいなんて」



危険な麻薬組織を若い女が追っている…いったいなぜ?

しかし、そんな感情に矢野口は思い当たる事がある…復讐だ、もしそうなら理解出来る…

矢野口が必要に組織を追っているのも、かつて片想いだが愛していた人を死なせた元凶が組織だからだ。


「1つだけ考えられる事が有ります」


梶山と佐藤の視線は矢野口をとらえ、その耳は矢野口の言葉に集中する。


「復讐…」


2人とも、矢野口が麻薬組織壊滅を望む理由を知っている、大切な人が殺された!それが矢野口の原動力、そんな矢野口だからその言葉に重みがある。

重い言葉を聞かされ各々がこずえの心を想像して押し黙る中、梶山が話し出した。


「もし、警視のように組織の壊滅を望むなら警官になるはず…」


矢野口

「だが、こずえは個人的に動いている…」


梶山

「それはきっと、法を犯す復讐をするためです…」


矢野口

「目的は殺害ですね」


佐藤

「まさかそんな…」


梶山

「任意の聴取でこずえの家に入った事がある、その時は驚いた…何も無い部屋で窓には遮光カーテンが引いてありとても若い女の住む部屋じゃなかったが…今なら納得出来る」


梶山はこずえの部屋に疑問を持っていたが復讐の鬼として生きているならば納得の部屋だと感じた。


矢野口

「梶山さん、所轄と組んでこずえに張り付いて下さい…護衛も兼ねるので拳銃を所持です」


〝覗く者は覗かれる〟こずえは組織を覗き過ぎてる、なので既に組織もこずえを狙ってる可能性がある、これ以上犠牲者を出したくない矢野口は梶山にこずえの監視兼護衛を頼んだ。






梶山は所轄の寿警察署に行くと協力を要請して若い刑事と覆面パトカーでこずえのマンション近くに張り込んだ。


車内でこずえの写真を見ながら所轄の若手佐野刑事が梶山に訪ねる。


「こんな若い女が殺人の容疑者なんですか?」


「そうでは無い…たぶん、護衛がメインの張り込みになると思う」


佐野は少しほっとした様な顔をしたが、梶山はこずえが確実に復讐の為に動くと考えていた。









13:05


校長がカルロを本牧の倉庫に呼び出した。


カルロはリョウガ暗殺を校長が失敗した事や組織に暗殺される可能性などを警戒して対策を取っていた。





校長に指定された倉庫はカルロが坂下あきらを殺害したふ頭にある…

 

一連の事件はここから始まった、そんな事を考えながらふ頭に並ぶ倉庫で一番海側の指定された倉庫の扉を開けた、中にはもう使われて無いと思われるサビの目立つコンテナが乱雑に置かれている。

ここまで誰にも会って無いカルロは倉庫内で校長を呼ぶ。


カルロ

「校長着いたぞ、どこだ!」


倉庫内でカルロが叫ぶと呼び掛けに応じて校長が姿を表した。


校長

「すまなかったな、こんな所に呼び出して」


カルロ

「どうするつもりだ、ボスには報告したのか?」


校長

「…まだだ、お前に相談したい事があってな」


カルロ

「相談…なんだ?」


「城山を殺すのは失敗した、だが何故襲撃がバレたかだ…あり得ない」


「それで俺を疑ってるのか?」


「まさかお前には何時やるか知らせてない、知ってたのはボスの犬だけだが谷口が裏切る事はない…」


リョウガの出現だけでも想定外の出来事だった校長にとって襲撃がバレたのは信じがたい事だった…


しかし、こずえが当日に日本語学校を調べ襲撃を予想したのも偶然にすぎないのだから校長に予想出来る筈もなく、警察に追い詰められてしまった分けだ。


「すでに、学校のブツは押さえられた…」


指名手配された校長は、組織からすると始末の対象…

何らかの形で殺害すれば組織まで警察の手が伸びる事はない。


カルロ

「校長を始末すれば組織は安泰か…」


「俺はもう狙われてるかもな、お前も狙われるかも知れないぞ」


「あぁ、俺も指名手配されてるしな…じゃなきゃあんたに会いに来ない、どうやって逃げるんだ」


「船だ…一緒に行くか、俺とお前なら何処でもやって行けるどうだ?」


カルロは冷めた視線で校長を見つめると話し出した…


「あんたは確かに終ったな、でも俺は違う…今は身を隠してボスの連絡を待つ」


坂下あきら殺しはドラッグマンと思われてるが、警察は誰がドラッグマンかは知らない…

組織が校長に罪を背負わせて殺せば事件は闇の中、校長が警察に捕まればカルロがドラッグマンとして手配される可能性はあるが校長が自分で1から育てたカルロを警察に売ることはない。


「分かった…ならこれでお別れだ」


校長が倉庫の出口に向かおうとするとドアから拳銃を構えた谷口が表れた。






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