第4話 流される女


   【流される女】



午前5時


翌朝 本牧埠頭に死体が上がった。

鑑識の調査がだいたい終わるのを見計らったかの様に梶山警部が現れる。


梶山警部

「害者の身元は?」


「害者は坂下あきら27才腹部をナイフでひと刺しプロの仕事ですね」



殺人事件として捜査一課の捜査が始まった。




坂下の仕事はホストだが休みがちであまり出勤していない…捜査員達は日頃の交遊関係を洗い出す。





捜査本部


「梶山警部、坂下はクスリやってた見たいです…」


「Sか?」


「そうです」


「殺されたのはその線か…」


「可能性は高いですね…」


「やれやれ、またクズの尻拭いか」





午前11時


坂下あきらの殺害報道を見た薬漬けにされてる女達の1人ユウミが同じく坂下に薬漬けにされてる女レイナに電話をかけた。


「あんた…ニュース見た?」


「ううん…今起きたから見て無いよ、何で?」


「あきらが殺された…」


「はっ…?」


寝起きのレイナにはユウミの言葉が伝わらない。


「…あきらが殺されたのよ」


現実とは思えない予想外の出来事を寝起きの頭で無理やり理解したレイナ。


「嘘っ!」


「本当なの…ナイフで刺されて港に捨てられてた見たい」


「あきらが…殺された… 」


「今、テレビでニュースやってるから見て」


ユウミの話を聞いて、テレビをつけると坂下あきら殺害のニュースが流れてる… 寝起きで現実味の無いレイナだが事実だと知って愕然とすが何か違和感を感じる…そして、それがユウミの冷静さだと言う事に気付く…


「ユウミちゃん…なんか冷静だけど、あきらが殺されたのよ!?平気なの?」



レイナとユウミはお互いが坂下の女だと認識を持っている…本来ならライバル関係になるが、なぜかユウミは〝私は二番で貴女が一番よ〟とレイナと揉めない様に接していた…その為か、二人は友達としても付き合いが成立している。


「何でだろう…あきらを愛してると思ってたのに悲しく無いの… 最初にこのニュースを見た時は慌てて坂下あきらを検索したけど…本当に殺されたんだって分かったら…悲しいとかじゃ無くて…あぁ~これでクスリを止められる…そう思った…」


自分達の現状を直視したのか、しばらく無言になる二人……


「…私達の恋愛って、異常だよね…きっと」


「そう、きっと…クスリに踊らされただけなのよ…貴女も何となく気付いてると思うけど…」




その日のうちに、ユウミは警察に引っ張られ取調室に入れられた。


梶山警部

「最近、坂下さんに変わった事は何か無かったですか?」


坂下の女 ユウミ

「変わったと言うか…どうしてもと言われて…2百万貸しました」


「Sを買う金か?…」


「何に使うかは教えてくれなかった…」


「言いにくいですが、坂下には他にも女が居ます…」


「知ってます…」


「知ってた!? なのに、そんな男に理由も聞かずに大金を貸したのか?」


質問に答えず、質問を返すユウミ…


「ねぇ…あたし捕まるんでしょ」


警察で薬物検査をされればユウミは確実にSの常習者とバレるだろう。


「…!? 捜査に貢献してくれれば何とかなるかも知れない」


警部は女達に薬物検査をして捕まえるなんて気はさらさら無かった、そんな事で殺人の捜査を遅らせたく無いからだが… 

しかし本人が逮捕される事を恐れているなら、見逃すのを条件として口を割らせようと警部は考え何とかなるかもと答えたがユウミが予想外の事を口にする。


「いや!…捕まえて!!」


「なにっ!?」


「止められないのクスリが…でも止めたい…」


どうやらユウミは刑務所に入ればクスリを止められると考えて捕まろうとしていたようだ。

警部は、その心情を察して優しく話し掛ける。


「安心しろ…捕まえ無くても専門の施設に入れてやれる…そこでヤクを断ち切るんだ」


現実にクスリを止められなくて自首する者は多い… Sを個人の意思だけで断ち切るのは難しい…止めるには環境が大事だ。


「うん…」


「坂下が誰からヤクを買ってたか知ってるかな?」


「日本語の上手いフィリピン人からと言う事しか分からない」


「フィリピン人とのやり取りは携帯?」


「知らない…話してるのも聞いた事が無いから…」


「他に、坂下が付き合っている子とか知ってますか…?」


「…1人、知ってます…」



警察は、ユウミの証言と他の証言を照らし合わせ坂下の別の女を家宅捜査し麻薬所持で警察署に連行した。



取調室


「坂下さんにお金を貸しましたか?」


レイナ

「…150万、貸しました」


… どうやらヤクの取引で間違いないな …


「坂下さんはその金でSを買うと言ってませんでしたか?」


「どうしても必要だからの一点張りで、何度聞いても、何も教えてくれなかった…」


… この女も何も知らないか…ホスト崩れのジャンキーにしては以外と用心深いな …


「…坂下さんにフィリピン人の友達が居るのは知ってますか?」


「友達かどうか分からないけど…クスリはフィリピン人から買ってると言ってました」


「そのフィリピン人に心当たりは…」


「…そんな事より、私はどうなるんですか?クスリは坂下から預かっていただけで私は何も知りません…」


「…お嬢さん、検査すればSの常習者だってすぐに分かる… 隠しても無駄だ、知ってる事を全部聞かせてくれ…彼氏の敵討ちをしようと思わないか?」


「…なにそれ…それでお金が帰って来るの!」


最初こそ坂下あきらの死に動揺していたレイナだが時間がたつにつれ冷静さを取り戻したのか、S漬けにされていた状況を客観的に考えられる様になっていた。


「それは分からないが…これは、たぶん物取りの犯行じゃないから、犯人がまだ金を持っている可能性は高い…」


「本当に! …でも、彼の事で知ってる事はあまり無いの…私…捕まるんですか…」


「心配するな…君はしかるべき施設でクスリから更正するんだ…」



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