第3話 ドラッグマン
さっきまで大声で命乞いをしていた朝鮮人のバイヤーは、何をしても意味は無いと悟って黙ってカルロを見つめる… やはりこの男も今まで何人も殺して来たのだろう…彼も殺す相手が何を言おうが何をしようが助けたりなどしなかったのだ、自分の番が来たと死を受け入れている。
死を受け入れ冷静になったバイヤーは、ナイフを手に震えるカルロを見て自分との違いに嫉妬する…
… こいつ殺しは初めてか!?…震えてる…幸せな奴だ …
殺しに震えるのは幸せや人の優しさを知る証拠だと…それらを知らずに育ったバイヤーは男の過去を羨んだ。
… 俺の時は殺すことに何のためらいも無かった…目の前で死んで逝く人間を何度も見ていた、人が死ぬ事に特別な感情を持たなかった…だか、こいつは違う…
人の死を恐れてる、きっと幸せを知ってるんだろう…でも後ろで操る男は違うな…たぶんこいつを殺しの手駒にでもするきだ…ナイフで殺しの快感を覚えさせようとしてるのか…可愛そうに …
朝鮮人が考える通り、校長はカルロを殺し屋に育てる積もりでいる…ナイフで致命傷を与える技を仕込み殺しのエキスパートに育て、強力な手駒を手にしようとしていた。
日本語学校 校長室
初めての殺人から幾日か過ぎたが、ナイフで人を刺した感触がぬけず殺しの恐怖から逃れられないでいるカルロを校長が呼び出した。
「酒浸りらしいな…」
「…可笑しいか、ナイフで刺した感触が手から離れない…酒で誤魔化すしか無いんだよ…」
「大丈夫だ…すぐに忘れるさ」
すぐに忘れる…それは経験者ならではの言葉だ、カルロは校長がはじめて人を殺した時はどうやってその恐怖から逃れたのか気になった。
「校長は…あんたは、どうだったんだ」
「俺か?俺が初めて人を殺した時は…お前と違い恨みからの殺しだったからな…相手に命乞いをさせて殺した、恐怖は無かった……」
「…でも、そのあと…どんな気分だったんだ?」
「人の生き死にを握り神か悪魔にでもなった気分だったな… お前にも神の素質があると思うぞ」
「人を殺して神だと…」
人を殺してその恐怖か逃げられないカルロにとって、校長の神になった気分と言う言葉は信じられないものだった。
「そうだ、生かすも殺すも俺しだいだ相手は俺に祈るしかない」
「…そうか、そうだな…だが悪魔の一択だろ」
カルロの言葉を鼻で笑うと話を続ける校長…
「お前の時もそうだったろ、お前に祈るしかなかった… まぁ、あの朝鮮人には殺人の初心者だとバレてたが…もしあの時お前が助けてやろうかと持ち掛ければアイツは神であるお前に祈り続けただろう…人を殺せる奴は見逃す事で生かす事も出来る、確実に殺せる状態になった時……それは人を越えた存在…神や悪魔の領域だ」
殺人に苦しむカルロに神の力を手にしたのだと説いて殺しを楽しめる人間にしようとする校長…
カルロは、人殺しの恐怖から逃れたくて校長の言葉を受け入れる…自分は殺されるべき人間を殺したんだ神に代わって裁いた、自分は人を凌駕する悪魔だ、など自分を誤魔化し自らに催眠をかけるようにして殺しの恐怖から逃げた。
いつしかカルロの心は枯れ果て人の生死に何の感情も持たなくなる…そして、自分の命すら軽く思える人間になっていた。
結果的に、校長の狙い通りカルロは殺しを楽しめる殺戮マシーンに育つ…ナイフがどの臓器をえぐったか感触で分かる程に…校長の見立て通りでもともとカルロには人殺しの才能があったのかも知れない。
今日も若い男を殺してゴミの様に海に捨てた。
バイヤーを殺した時の様な恐怖など微塵も感じてない、そして今回の殺しもやはり校長に言われての殺しだ。
数日前…
ホストに売人をやりたいと相談された日に校長にその話をした……
「ホスト崩れが売人をやりたいだと…」
「とりあえず俺の手駒として使おうと思ってる…」
「ダメだ! きっと直ぐに捕まるぞ……」
「大丈夫だよ、俺が責任持って見張るしちゃんとクスリを捌かせるよ」
「まぁ、お前の考える様に最初は上手く捌くだろう……だがそれで金を手にしたら独立したがるぞ、金遣いも派手になって直ぐ警察に目をつけられる…捕まればお前の事なんか洗いざらいしゃべるだろうな…」
手下を持つことに少し誇らしさを感じていたカルロは、校長に反論しようとしたが、やはり自分の考えが浅かったと思い直す。
「……」
「お前もずいぶん変わっただろ…その男も金を手にしたら確実に変わる…あまちゃんな日本人の若僧はとくにな」
「じゃー断るか…」
「もう遅い……きっと、断ったら別の売人を探して売買を始めるだろうな… そいつは売人で金を儲けた夢を見てるだろう…もうダメだ、こっちの素性が割れてる以上そいつは殺すしかない」
校長が言う通りにカルロは男を殺し金を奪った、クスリ漬けにされた女達の怨念が宿る金を…
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