第21話 最終話 幸せな失恋の歌

『LOST LOVE SONG』


「あのとき、何も言わずに姿を消してごめんね。僕はもうここにはいないんだ。君と同じ世界には。


 どうしてあのとき言えなかったんだろう? 君といた日々はもう終わったのか? 僕はもうあの日に戻れないのか……」



 裕星のセリフが入ると、会場はしんみりと聴いていたが、もうすでに歌詞の意味を察したのか、あちらこちらでハンカチで涙を拭い鼻をすすっているファンの姿も見えた。


 セリフを終えると裕星のアコースティックギターがメロディを奏でた。それはどこかゆっくりとしたはかなげで切ない音階だった。





 僕はどこに行けばいいのか

 君のいない真っ暗な世界で


 潮風がこのさざ波の上を撫でている  

 僕はまだここにいる

 教えてよ なぜ君に逢えないのか


 あの日、僕は君に伝えようとしたん だ 愛していると

 二人で走ったこの渚 転んでは捕まえた愛しい君


 行かないで 逝かないで どこにも逝かないで 君はそう言って泣いていた


 サヨナラ 僕は言うことも出来なかった 誰にも見えない僕の姿 君だけには見えているかな


 あの日、君に言えなかった 君が好きだよと

 あの日、僕は訊けなかった 僕を好きなのかと


 だけど今やっと分かった

 君は僕を愛していたんだね 

 すれ違いLost love song


 君がここにいるだけでよかった


 あの雲のように もうすぐ僕は消えていく だけど 僕の愛は死なないと誓うよ


 僕はどこに行けばいいの?  

 君のいない真っ暗な世界で

 Lost Love song 哀しい男の愛の歌




 裕星がギターを弾きながら、死んでも尚恋人を愛する悲しい男の歌に、会場からはすすり泣く声があちこちで聞こえてきた。

 歌い終わって裕星は目を閉じて立ち上がると、会場に向かって深く頭を下げた。ファン達は裕星の初めて書いた失恋の歌詞に涙していた。



「ありがとうございました。僕のソロ曲『LOST LOVE SONG』でした。

 大切な人を失ってから気付くのではなく、今、傍にいるその大切な人をもう一度見つめ直し抱きしめていてください。それがこの曲に込めたメッセージです」

 裕星が舞台袖にけるまで拍手が鳴りやまなかった。




 この後はラ・メールブルーの最新ナンバーが披露される。陸のサイドギターがスポットライトを受けながら力強く鳴り響いた。光太のベースギターがビュンビュンと切れのある低音を奏でた。リョウタがスティックを振り上げ躍動感あふれるドラムパフォーマンスをしている。


 そこへ早替えして出てきた白いスーツの裕星がギターを抱えたままステージ下から勢いよくポップアップして出てきた。


 ファンの興奮の中、会場は益々盛り上がりをみせていた。ラ・メールブルーのライブは、後半にかけてまだまだ熱くなって行こうとしていた。



 ドーム中二階の関係者席の一番後ろで、佐々木澪はラ・メールブルーのライブを観ていた。JPスター芸能事務所の社長、浅加から試写会招待状のお返しにと贈られたチケットでマネージャーと観に来ていたのだ。


 澪の目には涙が止めどなく流れ頬を伝っていた。涙が流れるままに任せ、マネージャーが澪に気づいてハンカチを渡すまで、我を忘れて裕星の歌に聞き入っていた。


 澪は裕星のソロが終わるとそっと席を立って、残りの曲を聴かずにドームを後にした。

 マネージャーが慌てて追いかけて行くと、澪は真っ暗な空を見上げて、ポツリと言った。


「私、後悔していないよ。きっと幸せになるから見ててね」


 笑顔を見せると、また前を向いて街灯りの歩道へとまっすぐ向かったのだった。






 運命のツインレイシリーズPart10『失恋ゴースト編』終









 <あとがき>


 都内の明るい夜空には星はひとつも見えませんよね。しかし、忘れないでほしいのです。夜空の星たちは消えてしまったのではないことを。

 いつも遥か遥か遠く空の果て数万光年向こうから、無数の星たちが光を届け続けていることを。


 もし生きて行くことに不安になったときは、星になった愛する人たちにどうか思いを馳せてください。どんなときでもあなたを優しく見守ってくれているかもしれません。




 愛するということは、その人にすがり付いたりしばり合うことではなく、その人の幸せを一番に考えられることだと思います。

 相手のことを強く想う時、どうしても全てを知りたくて束縛してしまうこともあります。でも、そうしてしまうのは本当は不安だからかもしれません。


 不安は恐怖を生み、そして疑惑を生みます。相手を信じていても裏切られることもあるからでしょう。

 でも、そんな負のスパイラルが幸せを生み出せる訳がありません。


 不幸にも不慮の死を遂げた坂口が一番幸せだったのかもしれないとすら思えました。亡くなった坂口は、澪に一度も会うこともなく天国へ。会いたくなかったのではなく、澪の未来まで考えていたからではないでしょうか?

 そして、澪は心変わりした自分を責めなかった坂口の温かい愛に気づきます。そして、幸せになろうとします。

 裕星のソロ曲に涙したのも、後悔よりも希望がもてたからかもしれません。

 坂口の愛に応えるために、自責の念に駆られるより新しい幸せを選んだのです。それこそが坂口が望んだことだからです。



 皆さまには、いつも私のお話をお読みいただき、本当にありがとうございます🙏

 皆様の日常にほんの少しでも温かい愛をお届け出来ましたら、それが本望です。

 数年前から別サイトにて書き貯めてきたお話はまだまだございます。


 来月はまた新しいお話を投稿させていただきたいと思いますので、ぜひぜひまたお越しくださり、お読みいただけると嬉しいです!





 皆さまが今日も明日からも幸せな時を過ごされますよう祈っています🙏✨✨















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運命のツインレイシリーズPart10『失恋ゴースト編』 星の‪りの @lino-hoshi

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