第7話 不審者の正体は幽霊?
*** 天使の家 ***
美羽は孤児院『天使の家』にいた。教会の仕事の手伝いが終わり、裏にある孤児院で子供たちの世話をしていた。
子供たちの楽しそうな顔を見たり、
子供たちと一緒にお昼を食べ終えて大広間に行くと、中学生の子供たちがテレビの前を
「どうしたの? 何か面白いことでやってるの?」
美羽が不思議に思って声を掛けた。
「犯人捜しをしてるんだよ!」と一番年上の男の子が振り向いた。
「犯人って?」
「ほら、これ何回もワイドショーでやってるんだけど、この俳優さん、ひき逃げされて死んじゃったんだ。その犯人は誰かって推理、もし当たったら凄いでしょ?」
「まあ……、誰かが亡くなったのに、そんな面白半分にいけないわ」
美羽はそう言いながらワイドショーで大写しになった生前の若手俳優の写真を見て言葉を無くした。
<
「え……?」
美羽は子供たちの間を分け入ってテレビの前まで来ると、『
「こ……これ、この俳優さんって亡くなったの?」
「そうだよ! さっきから言ってるじゃん! この人ひき逃げに遭って死んじゃったんだって。それにさ、さっきテレビに映ってビックリしたんだけど、この教会の礼拝堂でお葬式をしたんだよ」
「ウチの礼拝堂でお葬式を? 嘘! そんな……そんなわけないわ」
美羽はフラフラと後ろに下がった。
「だってテレビや新聞で毎日言ってるよ。この人、鎗ヶ崎交差点でひき逃げされたって」
近くの女の子の言葉で、美羽は再び青ざめてしまった。
「……やりがさき、交差点? そう言ってるの?」
「そうだってば! それが変なんだって。ひき逃げは事故じゃなくてもしかしたら殺人かもしれないんだってさ」
さっきの男の子の言葉で、美羽はよろよろとその場にへたり込んでしまった。
「この人、何をしてる人なの?」
「もう、美羽お姉ちゃん、さっきからちゃんと聞いてないんだから! この人、朝ドラにも出ていた俳優の坂口将太さんだって。あ、なんか最近事務所を独立して
あ、でも、恋人がいたよね。あのヒットしたドラマ、『僕らはここで愛を見つけた』で共演した女優の
ませた中学生の女の子が美羽に教えてくれた。
「そ、そうなんだ。でも、似てる人ってたくさんいるから、きっと……」
美羽が独り言を言うと、「似てる人が他にいたら大変だよ! こんなイケメンに似てたら、逆に有名になっちゃうよねー! 学校の友達も坂口くんが亡くなって悲しんでる女の子たちが大勢いるよ」
子供たちが口々にあんなイケメンは二人といないという言葉を聞いて、益々美羽は頭から血の気がスーッと引いて行くような衝撃を受けた。
――あの人……ヤリガサキさんはもしかすると、この坂口将太さんだったというの?
美羽は震えが止まらなかった。まさか、自分が会っていた人物がもう既に亡くなっていた人だとは一概に信じがたかった。
しかし、冷静に考えてみると、あの高級そうな指輪もネックレスも芸能人なら持っていても不思議ではなかった。
それに……、あのとき、他の人たちが歩道で苦しそうにうずくまっていた彼に気付かなかったのも、カフェの店員がコーヒーを一つしか出さなかったのも仕方のない事だったのではないかと思えてきた。
彼らには坂口が見えていなかったのだ――。
美羽は震える指で裕星へ電話を掛けた。
裕星はいつにもましてすぐに出てくれた。それもそのはず、裕星は今日一日は美羽のためにと時間を取って待機していたからだった。
<美羽、どうした? あいつが来たのか?>
「裕くん、大変なことがわかったの。でも、まだ信じられないわ。ただ似てるだけなのかもしれないし……」
裕星は、美羽の言葉に要領を得なかった。
<美羽、実は今すぐ近くまで来てるんだ。会ってもう少し詳しく話を聞きたいが、美羽の方は時間が取れるか?>
「う、うん、孤児院の園長先生に訊いてみるけど、たぶん大丈夫よ」
裕星は教会の前に車を付けしばらく車内で待っていた。するとほどなくして美羽が出てきたが、顔は青ざめて少し震えているようだった。
「美羽、どうかしたのか?」
美羽が助手席に乗り込むなり、心配になって裕星が訊いた。
「――あ、あ、私、どうやら幽霊と会っていたみたいなの」
美羽が
「幽霊? なんのことだ」
裕星は日頃から非現実的なものは信じない主義だった。
「あの人よ、私が身元を調べてあげようとしていた人。あの人、坂口将太さんという最近亡くなった若手俳優さんだったらしいの」
そういってケータイに撮したワイドショーでも取り上げていた雑誌の写真を見せた。
「あ、この人、俺も今朝、情報番組で観たよ。いや、少し前からニュースでもやっていたな」
「この人が私が会っていた人よ。ただのソックリさんならいいけど……」
「今度そいつと会う約束はしてるのか?」
「ううん、でも、これ、この指輪を預かってるので、また会えると思う」
美羽はバッグから赤い箱に入っている指輪を取り出して裕星に見せた。
裕星は指輪をあちこち調べていたが、裏のイニシャルを見て声を上げた。
「確かに、『SからMに愛を込めて』とあるな。Sは将太のSで、Mは相手の女性だろうけど、その女性に聞いたら何かわかるんじゃないか?」
「それが、どうやら坂口さんは生前お付き合いをされていた女優さんがいて、その方の名前が
「美羽、きっとそうだよ! じゃあ話は早い、その佐々木澪に会おう!」
「裕くん、相手は朝ドラで有名な人気若手女優さんよ。会えるわけないわ」
「美羽、俺を誰だと思ってるんだ? むしろ、その女優はまだ若手の駆け出しだし、俺から見たら芸能界では後輩になるんじゃないか?」
あっ、と美羽は片手を口に当てて裕星を見た。
「や、やだ、裕くんのことすっかり普通の人だと思ってた。そうよね! 裕くんは日本でも世界でも有名なバンド、ラ・メールブルーのボーカルだったわ!」
アハハと笑ってやっと気持ちが
「やっと元気になったな。よし、後は俺に任せろ。幽霊だろうが
頼もしい裕星の言葉に美羽は思わず肩をすくめて微笑み返したのだった。
その日、裕星と美羽は佐々木澪の芸能事務所に向かっていた。
その間に裕星の車の助手席で、美羽は彼女の素性を知ろうと、ケータイで調べていたが、次々と噂が出てきて収支がつかず、訳が分からなくなってしまっていた。
「裕くん……、澪さんは一体どなたとお付き合いされてるのかハッキリとは分からないわ。
記事によると、坂口さんはもちろん他の俳優さんの名前も出てくるの。
ええと……
それに、坂口さんは事務所を独立する時に元の事務所とだいぶ揉めたと書かれてるわ」
美羽がケータイで調べた記事を読みあげると、裕星は苦い顔で言った。
「あいつ、坂口は誰かに恨まれてそうだな。もう少し詳しく調べてみよう。きっと何か出てきそうだ」
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