第12話 追跡者

ここは

件のマンションから

2キロほど離れた丘陵地


見晴らしは良いが

別に、

ピクニックに来たわけじゃないので


仮にも、

シートを広げるとか

弁当を広げてーとか

目立つ事は避けたい


実際、今、

俺は穴蔵の中にいる


天井にはカモフラージュの為

そこらに自生している

草花を生けた

ギリーシートを張っている


はっきり言って

居心地は悪い


通気性は

それ程良くないのに

雨が降れば漏ってくる


もっと良い環境を求めるべきだが

状況を鑑みれば、


件のマンションが狙える場所が

近くにあって

かつ、ここ何日かは

マンションから見て風下


これ以上の場所は

早々ない


加えて、

ウザったい奴らからの催促も

これ以上延ばせない




生憎、

贅沢は言えない


ふと足音が近付いて

その足音の正体は

最早見なくても

理解していている


だけど、

染み付いた習慣からか

無意識に身構え

拳銃を手に取る


使い慣れた

回転式拳銃リボルバー

口径は大きく、その為反動も大きい

こんな銃などは

軍人どころか、

“ならず者”でさえ

今は使わない


ほぼ骨董品とも言える

その銃を

俺が使うのには理由がある


それは、わざわざ

マガジンを外さなくとも

残弾数が一目で分かり


仕組みが単純で

何より、セーフティが

【付いていない】からだ


ほんの一瞬の判断が

生死を分ける


そんな死線を幾度となく

くぐり抜けてきたからこその

一つの【解答】だ



そうして、

ギリーシートが捲られる

その瞬間、一体、

俺がどんな顔をしていたかは

自分では知りようもないが


見知った顔は、

一つ苦笑し

冗談まがいに

言葉を投げ掛けてくる


「おい、

 俺を撃ち殺す気か?」


そんな笑えない冗談を溢したのは

【今の】俺の相棒だ


小柄な体躯


身長なら、

まだ14歳になったばかりの俺と

さほど変わらないが


こいつは、俺と違い

れっきとした大人だ

たしか、歳を36と言ったか


実に俺の

2倍以上の年月を生きている


今の世界で、

その職業なら

十分に大往生だ


仮に真面目に従軍していれば

下士官は間違いなく、運が良ければ

将校クラスも成り得ていただろう


何せ、

こうなった世界での軍人の

昇格の判断基準は

【どれ程の、長い時間

 軍人として生きたか】

だからだ


この者の従軍期間は

短く見積もっても10年以上

勘も運も悪くない、

加えて【ただの人間にしては】

頭の出来も悪くない



しかしながら、

その軽い性格が

“功を奏したか”


俺と組むなんて

【死へと片道切符】を

掴まされた


曰く

『抜擢された』

らしい


それは、それで

御愁傷様だ



まぁ、でも

【今までの】相棒【達】に比べれば

断トツで、長生き、だがな


けれど

いくら長い時間を共にしたとして

信用に値しないのは事実だし

情を掛けるのも禁物だ


明日にも


いや、今日中や

次の瞬間にも

【死んでる】かもしれないからな


だからこそ


「あぁ、悪い」


俺は言葉だけの

実に薄っぺらい謝罪を口にする


見透かされてようが

正直、どうでもいい


たとえ、間違って誤射し

死なせてしまっていても

俺の吐いた言葉は

一語一句変わらなかっただろうし


込めた感情さえも

1ミリたりとも変わっていなかっただろう


“今まで通り”

代わりが補充されるだけ


だからな



俺の返した言葉を聞いて

激昂したか、落胆したか


答えはー


「今、一通り見てきたが

 もしかしたら、

 今回は“当たり”かもしれない」


どちらでもなかった


その上で、装ったわけでない口調

その言葉は

俺を無意識の内に奮い立たせる


「本当か?」


コイツがそんな嘘を言う訳がない

そもそも、嘘を言うメリットがない


わかってながらも


俺の口は

自然と、そう問ていた


「あぁ」と

目の前の相棒が

嬉々として答える


“当たり”


つまりは、今の

最優先標的である


【don't touch】との

異名で呼ばれた


【触らずの悪魔】の事だ






彼女は、

俺がまだ

施設にいた時の


……、

言い方はどうかと思うが


同窓生


彼女が

まだ人らしい名前



呼ばれていた頃の話だ


勿論、

彼女が俺の事を知らなくても

無理はない



彼女、いや

彼女達か


それと

俺達は


ともかく

全てが違った



処置は勿論

待遇や能力までも


まぁ、

【汎用】と【特別製】じゃ

違って当たり前だけどな


先に断っておくが

俺達を、俗に言う

“children”なんて

呼びぶのは止めてくれ


実際、

俺の年齢、14は、


こんな世界では


もう

children《こども》

じゃない



何て呼べば?

…そうだなー、

単に輝琉ひかるでいい



それじゃ、俺からは

重要じゃない事は全部

すっ飛ばして

話をするとしようか



まず、

俺個人の話だが


俺は元々は

孤児だった


あ?いや、

正確には違うな

俺は捨て子じゃない


両親…、産みの親は確かに居るし

俺が施設に入った時も

存命だったよ



ただ、まぁー、

少しばかり変わってはいたけど…

お前の時代の言葉を借りれば


何だ、“毒親”?

変わった言い回しだなー



………


あ?、あー…

そんなの良いから

謝る事もないし、同情もいらない


ともかく、

あの日、朝

自宅に大勢の大人達が押し掛けて

俺を“保護”した


これ以上ないって程

荒れ狂う産みの親達が

その後どうなったかは知らない


何せ、あれ以来

会ってないのだから


ん?あぁ

良いって

気にするな


同情とか哀れみの言葉なら

保護された時、色んな大人から

一生分以上貰ったから


ともかく、

俺は保護されて

国が運営する施設に入る事になった


施設に来た時の

俺の年齢?


あやふやだけど

確か、4歳とか5歳とかだったか


他にも同じくらいの子供達は

大勢いたから、別段

不安は感じなかったな



最初…、そう最初は

大人達は優しかった


初めて食べた

温かい料理、


汚れのない服

ちゃんと、お湯が出るシャワー

ふかふかで寝心地の良いベッド


天国の様な

ってたら過剰表現かもしれないけど

その時の俺には

正に、そう思えたんだ


但し、

それは長くは続かなかった


施設に来て暫く経った頃

つまり、環境に慣れだした頃か

俺等には、学習が義務付けられた


そうは、言っても

何も難しい事はない


年齢的に字も書けない子もいたし

実際俺がそうだったけど

そんな年齢層にも合った学習


例えば、

林檎がいくつ?とか

平仮名、片仮名と

十画までの漢字の書き取りとか


そんな言ってしまえば

幼児教育みたいな物だった


俺は元々、

勉強は苦じゃなかったし

学ぶ事自体、どちらかと言えば

好きな部類だったから


そうだな、

誤解を恐れずに言えば

楽しかった、かな


けれど、

勿論、そうじゃない子等もいた


俺が、施設に対して

最初に違和感を覚えたのは

丁度、この頃だったな





ある日、突然

俺と仲の良かった子が

施設で見当たらなくなったんだー






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不感触の女神 そら @00G-SORA

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