バッタル村 - 1

第16話 メラリーの場合

 ガーレットの妹メラリーは、お屋敷から半日かけてアシナ村へ、さらに半日馬車に揺られてバッタル村へたどり着いた。


 長時間の移動に、メラリーの不機嫌は最高潮に達していた。


「メラリーさま、到着いたしました」


「やっと!?はーほんっと僻地ですわね……」


 御者の声がけにからだを起こして洋服のシワを伸ばすメラリー。


 顔を顰めながら馬車を降りると、一面の畑がひろがっていた。


 メラリーも、他の領地でのパーティにお呼ばれして、田舎道を長時間移動したことはあった。しかしそのときはたどり着いた先にパーティというご褒美があったから我慢できた。


 しかし今回は、たどり着いた先にあるのがただの畑。メラリーにとってはいままで窓から見えた森や林と同じ、何もないに等しい光景だった。


「はぁ……私ここでやっていけるのかしら」


 着替えや化粧道具がパンパンに詰まったカバンを御者に下ろしてもらい、メラリーは重い足取りで村役場へ向かった。


 

「うーん……ここで合ってますの?」


 メラリーはこめかみをおさえながら、地図と建物を睨めっこする。村役場と地図に記された場所にあったのは、普通の民家だった。


 入ろうか迷っていると、扉がガララっと開いて、なかから背丈の大きな女性が現れた。


「あっ領主様のお嬢様ですよねっお待ちしておりました、リーファと申します」


 リーファの長身は影となってメラリーに覆い被さる。メラリーは彼女を見上げた。


 純朴そうな笑顔を浮かべる、緑髪のおさげを揺らす田舎娘。リーファは建物のなかにメラリーを招いた。


「………」


「すぐ片付けますねっ」


 民家のような外観だったが、内装はまさに民家だった。


 テーブルの上には果物の入ったカゴや、編みかけのセーター、拭いたあとのお皿が乗っていた。


 メラリーは少しムッとする。客人を招く準備すらできていない、歓迎されていないのかと。


 しかし、リーファは失礼な振る舞いをしてる自覚はないらしく、片付けをしながら朗らかに口を動かし続ける。


「実はいま村長さんが寝込んでて、うちが村役場となってるんですよあははは」


「うちが……とは?まさかあなた1人で役所仕事をこなしてるとでも……」


「はいっそういうことですっ田舎だからあんまりやることないんで私ひとりでいまはいろいろやってるんですよー」


「………っ」


 リーファはテーブルの片付けの延長でそのままお茶の準備をはじめた。


 メラリーは絶句していた。田舎田舎とは聞かされていたが、まさかここまでとは……。


 そして、わざわざはるばる来たのに、その業務すらも役所仕事のうちのひとつでしかないということに、メラリーは軽い扱いを受けてると感じた。


「はぁ……それで、この村の問題とは?」


 メラリーは、重いカバンを無遠慮に壁へ立てかけると、手作りクッションがくくりつけられた椅子に勝手に座って、さっそく本題に入った。


 リーファは、ティーポットにお湯を注ぎながら、振り返らずに答えた。


「あっはいっえーとシンプルな問題なんですけど……高齢化ですかねっ」


 メラリーは、出されるお茶が相当美味しくないと怒るぞ、と唇を噛んだ。

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