第9話 試練

 父親はコホン、と咳払いをした後、詳細を語り始める。


「我が家がこの広い地域一帯を治めていることはふたりも理解していると思う。しかし領地内にある遠く離れた村へ足を運んだ経験はないだろう」


 ガーレットとメラリーは頷く。たしかにふたりは、普段からこのお屋敷で過ごしており、遠出することは滅多にない。


 せいぜい屋敷から近い都会的な街ゴルドーへ遊びに行く時や、他の領地で行われるパーティへ出向くことがあるくらいである。


「領地の実態を把握せずに、領主になることはできない。そこで、現在とくに課題を抱えてる、領地内のこのふたつの村へ、それぞれ出向いて問題を解決してきてほしいのだ」


 父親は、名門貴族の家を背負うに相応しい実力を見せるよう、試練に挑んでほしいのだと説明した。


 ガーレットは手を挙げて質問する。


「非常に筋の通った話ではありますわ。しかし、それは私たち経験の浅い若輩者の手に負えるような課題なのでしょうか?」


 父親は、しばらく黙った後答える。


「……難しいだろう。本音を言えば、二つの村のどちらも、抱えている課題は解決困難だ。ゆえに取り組みの姿勢を見せてくれればそれでいい」


 メラリーは、つい心の中で舌打ちをする。舐められたものだ、と。


 もっともらしい説明を並べているが、つまりは自分たちを嫁がせるときに、領地運営の実績がある有能な女性であることを、相手方へアピールするためにやらせるのだろうと裏の意図を読んだのだ。


 どうせ家を継ぐのは、男。どこかから連れてきた養子になるのは周りの貴族の一家を見れば明白だった。


 ガーレットは、苛立ちを見せるメラリーの肩に手を置き、落ち着くように促す。そして再び父親に尋ねる。


「理解しましたわ。それで、私たちが向かう村と言うのはどちらになるのでしょう」


 ああ、と父親は村の名前を口にする。


「ガーレットはアシナ村、メラリーにはバッタル村へ向かって欲しい」


 時代の潮流が10年前とは変わった現在、この2つの村はそれぞれ大きな問題を抱えているのだった。

 


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