第8話 ガーレットとメラリー

 それから10年が経った。


 


 大きな屋敷のバラ園を歩く、可憐な女性がいた。


 サラサラとした金色の長髪、まつ毛も長い。気品がありながらも、どこか憂いたような目元をしている。


 ドレスの裾が、土で汚れないように少し持ち上げながら、彼女は散歩をしていた。


 そこへメイドがやってくる。


「ガーレットさま、ご主人様がお呼びです」


 女性は、ガーレットと呼ばれた。彼女は、ふぅとため息をついた。


「もうそんな時間なのね。もう少し静かな時間を楽しみたいものだわ」


「妹さまはもう来られているようでした」


「あら、そう。待たせるのもかわいそうね。仕方ないわ…」


 ガーレットは、気だるげにバラ園をあとにした。



 バラの香りを纏って、ガーレットは父親の部屋へ訪れた。


 彼女の父親は、この地方一帯をおさめる大地主であり、爵位を持つ貴族である。


 長い髭を撫でながら、深く椅子に座って、父親は待っていた。


「やあ、ごきげんようガーレット」


「ごきげんようお父様」


 ガーレットは貴族の娘らしい丁寧なお辞儀をした。彼女は齢20を超える。このような振る舞いはお手のものだった。


「お姉様、時間は守ってくださいませ」


 不機嫌そうに、ソファで腕を組む小柄な娘がガーレットを咎める。


 銀色の縦ロールを小刻みに揺らす彼女は、ガーレットの妹、メラリーだった。2歳年下で現在は18歳である。


 彼女は、時間にルーズなガーレットを10分前から待っていた。


「ごめんなさいね、メラリー」


 ガーレットは、素直に謝罪する。非があることは認める性格なのだ。


「……っ、いいですわ、わかってくだされば」


 すぐに謝られたせいで、これ以上追及できなくなったメラリーは、グッと口をつぐむ。そして父親の方へ目配せをする。


 姉妹を部屋に呼び寄せた本題に入るように、と。


 父親は頷いて、口を開く。


「うむ、そろそろ跡取りを決めねばならないと思ってなり2人には試練を受けてもらう」


「試練?」


 父親の言葉に、ガーレットとメラリーは、同時に首を傾げた。

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