第10話 派遣

 貴族用の豪奢な馬車に乗って、貴族の姉妹ガーレットとメラリーはまずアシナ村へ向かっていた。


「お姉様はいいですわよね。お屋敷からすぐ着いて」


 メラリーは不貞腐れていた。彼女が行くように命じられたバッタル村は、アシナ村よりさらに半日以上かかるのだ。


「アシナ村もお屋敷から5時間はかかるから近くではないわ」


「そうですけど……」


 機嫌の悪いメラリーとは対照的に、ガーレットは、窓から自然を眺めてゆったりと過ごしていた。


 ガーレットはこういった静かな時間を好む性格なのである。


 お屋敷の近くには、ゴルドーという市場のある大きな街があったが、彼女はそういったところにはほば足を運ばず、庭で本や紅茶を楽しむ過ごし方ばかりしていた。


 一方で、メラリーは都会的なものを好む性格をしていたので、選べるならば農村であるバッタル村よりも、アシナ村の方へ行きたかった。


 アシナ村は冒険者の集う街であり、夏至の祭りは大変賑わうと昔、お屋敷に来ていた商人から聞いたことがあったのだ。


 メラリーはぼやく。


「行程上、私もアシナ村で一泊する予定ですけど、もうそのまま居座ってしまおうかしら」


 すると、ガーレットは窓の景色から一旦視線を外し、メラリーのほうへ顔を向ける。


「あら、勝負を降りるのかしら?」


「……勝負?」


 メラリーは怪訝な顔をする。ガーレットはフフっと笑う。


「姉妹同時に試練を受けさせるのだから、結果に差が出るのは当たり前でしょう?次の領主には、やはり姉である私が相応しいようですわね」


「……っ!


 ガーレットの挑発的な言動に、メラリーはつい火がついてしまう。


「やってやりますわよ!」


 メラリーがやる気を出したのを見て、ガーレットはまた窓の外を眺めるのを再開した。





 昼過ぎにアシナ村へ着いたので、ガーレットは荷物を下ろしはじめる。


 メラリーも今晩アシナ村で一泊するため、続いて馬車を降りるが、村の光景を見て、ポツリとつぶやいた。


「……どうやらどっちを選んでもあまり変わりはなかったようですわね」


 ガーレットはそれを聞いて肩をすくめた。


「それでは私は村長さんにごあいさつに行ってきますわ」


「ごきげんようお姉様」


 メラリーは姉と別れて、宿へと向かった。


 

 そして翌朝、メラリーはアシナ村を出発して、自身の担当することとなるバッタル村へ向けて、また半日馬車に揺られるのだった

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