第8話 狙いは、俺⑦

 腰が、全身から力が抜ける。


「怖かったぁ」


 よしよし、と直道が俺の頭をなでる。

 「これ、男女逆だったら、差別だぞ」

 俺よりでかい、身長の高い女。

 そう、直道は、男の名前に悩む、女、だからこそ、妖怪は「彼女」を拒否した。


「弱いんだから」

「そもそも、ここの、第一高等学校に妖怪が集まるからいけないのよ」

 わたしは、男の仮面を脱ぐ。


「進学校って窮屈。制服がないから私服の選定に時間がかかるし、

 選ぶ方法が下手だとバッシング、陰口だし、いやんなっちゃう」


私は、呪いを解いてくれた直道の顔を見る。


「それにしても、あんたがセリフ言えば?うまいんだし」

 直道が、子役劇団でそれなりの地位を築いているのを、私は知っている。

「見たことないけど、うまいんでしょ」

「シェイクスピアはなぁ」

「ちょっとあんた、話聞いてんの?!」

「日本と違って、女形が演じる前提で書いてるんだよ。

 要するに、声変わり前の少年が演じる前提。

 あんた、声変わってないでしょ」

「高いけどけして声変わりしなかったわけじゃない!これでも半音下がっているわよ」

「へー、俺は2オクターブ下がったけど」

「女子にもあんのぉ?声変わり」

「1日2回外郎売りと、五十音と真似し小僧と、松岡和子版ロミオとジュリエットとあとなんだったかな、 

 それ続けてたらある日喉が死んでた」

「はぁ」


 それをやりすぎ、いや、疲労だろう。

「宮本浩次さんだって、声変わり前と今じゃあ随分違いますし」

「もういい!クレープおごってあげない」

「最近できたあそこのケーキ屋さんの?! 

 今行く、走って行く」

「時代考証が、違うと思うんだけど」

「気にし、ない!」


 普段通りの、吃音まじりの直道に戻ったところで、この話はいったん閉じる。

 僕はワトソンじゃない。

 おそらく、この日記も、更新しないので、キリ番の人、よろしくお願いします。

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