洋士1回目復活編

第6話 現実世界にて(洋士1回目復活編①~生還~)

 ……何だか、騒がしいな……

 ……耳障りな音がする……

 ……妙にまぶしい気がする……

 ……天国、なのかな……


 ピコーン、ピコーン、ピコーン、ピコーン……

 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ……

 無機質な機械音が、一定のリズムで鳴っている。


「輸血、用意!」

「よーし、横にずらすぞ、せーの!」


 前後左右、いろんな角度から、いろんな音や声が聞こえる。



 ……何だよ、さっきからうるさいな……

 ……頭が痛い、身体が痛い、ここはどこだ?


 洋士は、うっすらと目を開けることができた。

 最初に目に入ったのは、二本の蛍光灯だった。

 まぶしいな、何なんだ、一体……


「先生、伏見さんの目が開きました! 意識回復傾向あり!」

「バイタルは?」

「血圧100ー60、脈拍45、酸素濃度94――」

「よし!」


 不意に、目の前に白衣を着た男が現れた。

 ペンライトのようなものを左右に動かし、洋士の目の動きを確認する。


「伏見さん、私の言っていることが聞こえますか? 聞こえたらほんの少しでいいので、顎を引いてください、よろしいですか?」


 洋士は、微かに顎を引いた。

 声を出したかったが、ささやくことすらできなかった。


「ここは金山大学附属病院のICU集中治療室です。あなたは職場から救急搬送されてここに来ました。わかりますか?」


 洋士は、顎を引くことができなかった。

 混乱していた。


 俺はさっきまで、父さんと一緒に怪物モンスターと戦い、そして誰かに背中を切られて……


 俺は怪我人がいないか確認していて……


 怪我人……怪我人……怪我人は俺……


 何かが違う、何かが変だ…… 


 ひょっとしてここは……


「伏見さん、あなたは救急車で、この病院に搬送されてきたんです。わかりますか?」 


 洋士は、激しく、何度も顎を引いた。

 今の俺は、伏見ふしみ 洋士ようじだ、そうだ、ここは現実の世界だ!

 俺は死んでいなかったんだ!


 いや、生き返った、戻ってきたのかもしれない!


「伏見さん、落ち着いて! 落ち着いてください!」


 落ち着いていられるか!

 しかし、激しく動いたせいか、猛烈に頭が痛い。右腕にも痛みがある。


「あなたは、怪我をしています。しばらくここで安静にしてもらいます。わかりましたか?」


 洋士は軽く顎を引いた。


「よし、ひとまずOKだ。君、鎮静剤セルシンを投与しておいてくれ」

「はい、わかりました。伏見さん、チクッとしますよ~」


 鎮静剤セルシンを投与された洋士は、意識が混濁しながらも、現状を理解しようと頭の中を整理していた。


 ここは現実世界で、俺の名前は伏見ふしみ 洋士ようじ。スノウホワイト製薬の研究開発担当だ。大丈夫、はっきり覚えている。


 頭の中を整理すればするほど、思い出すのも恐ろしい記憶が鮮明によみがえってくる。


 俺は10階の、あの手すりから突き落とされた。俺を突き落としたやつが誰かはわからない。だが、あいつは笑っていやがった。 

 つまり、俺はんだ!


 何故? どうして俺が? 金も持っていないし、誰かの悪い秘密だって握っていやしない。

 人から殺されるほどの恨みを買った覚えもない。喧嘩もしたことがない。

 喧嘩といえば、せいぜい千種ちくさと時々口喧嘩するくらいだ。


 ――千種ちくさ、千種はどうしているだろう?

 ――あいつは、無事に家に帰っただろうか?

 ――まさか、あいつまで襲われていないだろうな?


 洋士は目を閉じた。


 とりあえず眠ろう。今の俺にはそれしかできなさそうだ。現状の把握は身体が回復してからでも遅くはない。もし、犯人が逃げていたとしても、ここにいれば再度襲ってくることはないだろう。


 意識が朦朧とする中、心配とも不安とも違う、形容しがたいもやもやした感情が、洋士の中でぐるぐると回っていた。


 ……そういえば、ヤゴット村は大丈夫だったかな?

 ……父さんと母さんは心配しているかな?

 ……それとも、あの2年は、ただの夢だったのかな?

 ……夢だとしたら、今もう1回寝たら、あの世界に行くのかな?

 ……夢にしてはリアルだったな、最後は殺されたし……

 ……夢なのか? 本当に夢だったのか?


 考える力はここで途切れた。

 洋士は、深い、深い眠りへと落ちていった。




 ―――――――――――――――――――――――


 2023年3月8日

 新しい小説の連載を開始しました。

 よろしければ、お読みください。


「俺は宇宙刑事ギルダー! 公務員さ!」


 https://kakuyomu.jp/works/16817330654159418326















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