第3話 ヤゴット村にて(シェスタ幼年編②)
2歳の誕生日の前日、カニー家では家族水入らずの誕生日パーティーが開かれた。
ガステルは怪しい緑色の酒を飲んで、大声で歌を歌った。
恐ろしく音痴だった。
シェスタは原曲を知らなかったが、歌詞を聞いて身震いした。
「俺は~
赤髪でマッチョな2メートルの大男が、目を閉じて熱唱している。
何だ、このジャイアンリサイタルは…
助けて、母さん……
しかし、シェーラは、美しい金髪を振り乱し、青色の瞳をギラつかせて、これまた大声で「フワッフワッ」と合いの手を入れながら、皿をスプーンで連打している。
母さん……
「どうした、シェスタ、ノリが悪いぞ。楽しくないか? うん? わかった、それじゃあ、新曲を歌ってやるぞ、この欲しがり屋さんめ♪」
シェスタの返事を待つこともなく、瞼が痙攣しているかのようなウインクをした後、ガステルは再び大きな声で歌い始めた。
「俺の~
ガステルは、自分の頬に人差し指をつけて、うっとりした表情で歌っている。
まったく可愛くない上、相変わらずの音痴なため、シェスタは少しだけ腹が立った。
母さん、母さん、助けてよ……
しかし、シェーラはいつのまにか両手にスプーンを持ち、5枚の皿を激しく打ち鳴らしている。頭を激しく前後に揺らしながら。
いつまで続くのだろう、この
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「さあ、そろそろ寝る時間だぞ! 楽しかったな!」
ガステルは満足げな笑顔を見せながら、シェスタにベッドへ行くよう促した。
「本当に楽しかったわ。久しぶりに、はしゃいじゃったわ」
シェーラは瀧のような汗をかきながら、微笑んでいる。
「おっとそうだ、シェスタ、お前にプレゼントだ」
ガステルは部屋の奥から、ガサガサとリボンのついた布袋を取り出し、シェスタに手渡した。
「開けていい?」
「ああ、いいぞ」
中には、ベージュ色のシャツ、緑色のベスト、茶色のズボン、ベルト、ブーツが入っていた。
「うわあぁ……すごい……着てみてもいい?!」
「ああ、いいぞ」
もらった服を着たシェスタは、とても嬉しく、泣きそうになった。
新しく転生したこの世界で、こんなにも優しい両親に恵まれ、サイズぴったりの素敵な服までプレゼントしてもらえた自分は幸せ者だ。
この服や靴は、きっと、自分が寝ているときにサイズを計ってくれたのだろう。
「お父さん、お母さん、ありがとう!」
「よく似合っているな、カッコいいぞ、シェスタ」
「ええ、素敵よ、シェスタ」
両親は、二人とも暖かい微笑みを浮かべながら、シェスタのことを見つめている。先ほどまでの宴会が嘘のようだ。
「よし、今日はここまでだ。みんな寝るぞ!」
「うん、お休みなさい、お父さん、お母さん」
シェスタは嬉しさを噛みしめながら、ベッドに潜り込んだ。
同じくガステルとシェーラもベッドに入っていった。
リサイタルはきつかったけど、本当にいい両親だ。この世界は前世よりもいい世界かもしれない。
明日からは、前世でできなかった分も合わせて、親孝行しよう……
そんなことを考えながら、シェスタはすぐに眠りに落ちていった……
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「あなた、いよいよ明日からですね」
「ああ、2年か……、あっという間だな、時間が過ぎるのは……」
ベッドに入って少しの時が経ち、両親のベッドからつぶやく声が聞こえてきたシェスタは、少しだけ目を覚ました。
半分寝ぼけているシェスタの耳に、両親の小さな声が聞こえてくる。
「不安だわ、最近は隣のアカイケ村にも
「なあに、大丈夫だ。俺がついている。それにヤゴットには、もう5年以上も
「そうかしら……そうよね……大丈夫よね……」
「ああ、シェーラは心配性だな。大丈夫、シェスタは強くなる。あいつには才能がある。俺にはわかるんだ」
「わかった……ごめんね、あなた、変なことを言って……」
「気にするな。すべては明日からだ。俺たちはシェスタを信じよう」
半分寝ぼけながら聞いていたシェスタは、その内容を半分以上聞き逃していた。
両親のつぶやきを聞きながら、シェスタはぼんやりと考えた。
俺は明日2歳になる。
明日からは、俺も外に出ていいのかな。
外は、どんな世界なんだろう…
煙草、売ってるかな……
いつの間にか、また、深い眠りに、シェスタは落ちていった。
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2023年3月8日
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