シェスタ誕生~幼年編

第1話 ヤゴット村にて(シェスタ誕生編)

「おめでとう、可愛い男の子だよ!」


「よくやった! よく頑張ったぞ! シェーラ!」


 ―――――――――――――――――――――――



 どこからだろう……


 大きな声が聞こえる……


 身体がヌルヌルしているのがわかる。


 荒々しい息づかいが、顔にあたっているのがわかる。


 目を開こうとして気づいた。


 目が開かない。


 何となくだが、周りが明るいのはわかるが、それだけだった。


 病院なのかな、ここは。


 ひょっとして、奇跡的に助かったのか、俺は?


 洋士は、命が助かったことに安堵しながら、同時に不安を覚えた。


「おめでとう」ってどういう意味だ?


 俺が、「可愛い男の子」?


 シェーラ? 外国人の看護師さんか?


「ここはどこですか? 俺は助かったのですか?」


 質問しようと、力の限り声を出してみたが、出た声は、叫び声とも泣き声とも形容しがたい声だった。


「オギャッ! ホンギャッ! オゲアッ! オギャッ!」


 ダメだ、上手くしゃべることができない。


 声帯をやられているのだろうか?


 ―――――――――――――――――――――――


「あなた、私、嬉しくて……」


「ああ、シェーラ、本当によく頑張った! 本当に可愛い子だ! こいつは俺に似て女にもてるぞ、きっとな! ガ-ッハッハ!」


「まあ、あなたったら、ウフフ」



 洋士は、何となくだが状況がつかめてきた、そう思った。


 それが、大きな勘違いであることには気づかずに。


 ここが病院であることは、確かだ。


 しかし、なぜかはわからないが、隣のベッドでお産があったらしい。


 可愛い男の子が生まれたようだ。


 俺は、何らかの理由で、産婦人科のベッドに寝ているのだろう。


 ひょっとしたら、救急の病床が満床のため、臨時で産婦人科のベッドに運ばれたのかもしれない。


 スノウホワイト製薬の近くには、大病院は無いからな、仕方がないか……


 それとも、これは全部夢なのかもしれない。


 でも、夢じゃない方が、やっぱり嬉しいな。


 少なくとも生きているんだから。



 ―――――――――――――――――――――――



 洋士は、不意に自分が抱きかかえられたのを感じた。


 間違いない、今、俺は抱きかかえられている!


 夢じゃない、肌が布の感触を感じている!


 おいおい、俺は怪我人だぞ、そんなに雑に――



「実はな、シェーラ、もうこいつの名前は決めているんだ」


「なんて名前?」


「シェスタって名前だ! カッコいいだろう!?」


「フフ、素敵な名前ね」


「ようし、今日からお前は、カニー・シェスタだ! シェスタ、俺が立派なヤゴット村一番の魔法狩人マジックハンターにしてやる! ガーハッハッハッハッハ!」


 耳元で、大爆笑が聞こえる――



 ようやく、洋士は理解した。


 どうやら、俺は生まれ変わったらしい。


 しかも、今名付けられたところだ。


 さっきから俺の顔にショリショリ当たっているのは、大喜びの上、大爆笑している、俺の(新しい)父の髭だろう。


 生まれたばかりの俺に、髭を当てるんじゃない! 不潔だろ!



 生まれ変わったことは理解した。


 どういう理由で、何のために生まれ変わったのかはわからない。


 前世でこれといった悪いことをしていないので、神様が慈悲を与えてくれたのだろうか?


 それにしても、前世の記憶をそのまま引き継ぐものなのか?


 疑問は、いくらでも湧いてくるが、現状、どうしようもない。


 この状況を受け入れるしかない。


 目が開くようになれば、もう少し状況が理解できるようになるだろう。


 洋士は頭の中で、今まで聞こえた情報から、現状を整理した。


 今までの情報でわかったことは5つ。


 俺の新しい名前はカニー・シェスタ、歳は生後1時間、母親の名前はシェーラ、住所はヤゴット村のどこか、これからは、魔法狩人マジックハンターとかいうものになるための教育を受ける。


 そんなところか――


 これ以上は、今考えても仕方がない。


 もうやけくそだ、なるようになれ。


 赤ちゃん特有の、急な睡魔に襲われたシェスタ洋士は眠気と同時に、ある強い欲求に襲われた。


 その欲求を感じたシェスタ洋士は何とかしようと、力一杯叫んでみた。


ホンゲッ! オギャッ!煙草ありませんか? ギャッ! オギャーッ!メンソールじゃないやつ!


「ガーハッハッハッハッハ! 本当に元気な子だ! もうままのおっぱいが欲しいのか?」


 吸いたいのは、おっぱいじゃなくて煙草だよ……


 ダメだこりゃ。


 シェスタ洋士は早々に諦めて眠ることにした。



 ―――――――――――――――――――――――


 2023年3月8日

 新しい小説の連載を開始しました。

 よろしければ、お読みください。


「俺は宇宙刑事ギルダー! 公務員さ!」


 https://kakuyomu.jp/works/16817330654159418326



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