第77話 スキュラを倒せ

 ずるっ……ぴちゃっ


 オーガーの上半身に食らいつく異形のモンスター。

 上半身は蒼い鱗に覆われた半魚人に似た姿だが、下半身を構成するのは

 丸太のように太い無数の触手。

 触手は粘液にまみれており、てらてらと光っている。


 その触手でオーガーを拘束し、大口を開けてオーガーにかぶりついている。


「スキュラ……か?」


「うん、間違いないね。

 確か、一度だけ戦ったことがあるよ」


「ほう、このランクの異形どもが現界しておるとはの」


 思い出した。

 魔王ミアライーズとの最終決戦前、修行のためにリーサと潜った魔窟と呼ばれたダンジョン。


 その中層階でコイツに遭遇したのだが、触手による連続攻撃と数々の状態異常を引き起こす粘液に苦労させられた。


「うぇ、気持ち悪いよう」


 顔をしかめるリーサ。

 彼女はうねうねしたものが苦手なのだ。


 防御魔法でガードしたものの、触手に絡みつかれ泣きべそを浮かべていたリーサを思い出す。


「くくっ……あ奴の粘液には強烈な催淫効果があるのじゃ。

 試してみるか、リーサよ?

 余も何度か使ってみたが、悪くないぞ」


 にやり、と小悪魔的な笑みを浮かべるミア。

 魔王様の悪戯心が刺激されたらしい。


「……遠慮しときます」


 触手の感触を思い出したのか、鳥肌を立てるリーサ。


「…………」


 なるほど、だからダンジョンから戻った後リーサはあんなに乱れて……。


「あ、ユウ! いまえっちなこと考えたでしょ!!」


「……すまん」


 リーサに怒られてしまった。


「……あぅ、もう5年だけ待っててね、ぽっ」


 顔を真っ赤にしたリーサは、下を向いて何やら呟いている。

 よく聞き取れないが、恥ずかしい事を思い出させてしまった。


 後で美味しいお菓子を買ってやろう。


「ともかく、アイツが向こうの世界のスキュラと同じなら、状態異常攻撃が厄介だ。

 なるべく散開して……」


 辺りに漂ったピンクな空気を振り払うように、戦闘プランを指示するが……。


 ずるっ……ごくん!


 ずぐんっ!


 オーガーを飲み込んだスキュラが、一度大きく痙攣する。


 ぱああっ


 スキュラの腹が金色に光る。

 オーガーが絶命し、光の粒子に還元されたのだ。


 ずっ、ずもももも!


「なっ!?」


「でっかくなったよ!」


「ほう、喰ったか」


 次の瞬間、一回り膨張するスキュラ。


 ミアの言う通り、オーガーを取り込み成長したらしい。


「リーサ、ミア!

 一気に倒すぞ、全体攻撃だ!」


 ダンジョン内に残るモンスターを捕食されたら厄介だ。

 俺は二人に声を掛け、ダマスカスブレードを抜き放った。



 ***  ***


「ふぅ……」


 ズズンッ


 大きく息をつき、ダマスカスブレードに付着した脂をぬぐう。


「さすがじゃな、ユウ!」


 息ぴったりの戦技リンクの一撃で、スキュラを倒すことは出来たのだけれど。


「スキュラの身体が……」


 通常時、ダンジョン内に出現するモンスターはHPが尽きると光の粒子になって消え去る。

 詳しい理屈はよく知らないが、そういうルールだ。


 まだ気持ち悪いのか、俺の背中に隠れて様子をうかがうリーサ。


「残ったまんまだな」


 つまり……。


「余の世界から迷い込んだ魔物という事じゃ。

「”こちた”の理に反しておるの」


 紅い瞳をギラリと光らせながら、スキュラの死骸に近づくミア。


 きゅぽん


 腰に下げたポーチから、小さなガラス瓶を取り出す。


「なにをしてるんだ?」


 ミアは死骸のそばでしゃがみ込むと、触手の一部を切り取り粘液と一緒にガラス瓶に詰める。


「いやなに、少し調べてみようと思っての。

 それにスキュラの粘液は色々使いでがあるのじゃ」


 たっぷりと粘液が詰まったガラス瓶を顔の高さに掲げると、にやりと笑う魔王様。

 あどけなさの残る笑顔の中に混じるぞくりとするような妖艶さ。


「くっくっく……」


「どきどき」


 ”使い道”を想像してしまったのか、顔を赤くするリーサ。


 ……まったく、スキュラは教育に悪い。

 あの世界でも随一の不埒系モンスターである。


『オリジナルモンスターの消失を確認……ユウさんたち大丈夫ですか?』


「おうフェリナ、楽しみにしておくがよい!」


『???』


 ……魔王様の相手はフェリナに任せよう。

 そう思った俺は、獲得スキルポイントを確認しようとステータスを開く。


 ======

 ■個人情報

 明石 優(アカシ ユウ)

 年齢:25歳 性別:男

 所属:F・アカシアギルド

 ランク:B

 スキルポイント残高:522,300(+510,000)

 スキルポイント獲得倍率:835%(+200%)

 --->増減予測:

   剣技スキル-10%、魔法スキル+25%、被ダメージ-N/10%、与ダメージ+N/10%

 称号:ドラゴンスレイヤー

   災害迷宮撃破褒章

 ======


「………………は?」


 そこに表示されていたのは、驚きの数字だった。

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