第76話 ダンジョンの異変
ぴくん
「ユウ、これは……」
「ああ」
「くんくん、なるほどの」
ダンジョンに転移した途端、耳と尻尾を動かすリーサとミア。
異変を感じ取った時の反応だ。
『どうしました? 皆さんのバイタルが乱れてますが』
「ああ、大したことじゃないんだが。
ちょっとな」
フェリナに返事をしつつ、俺も全身に鳥肌が立つのを抑えきれなかった。
「匂う、ね」
リーサの言葉に頷く俺。
匂いは一番記憶に残るらしいからな。
リーサの魔法素材集めに付き合い、初めて潜った王都近くのダンジョン。
極大魔法を完成させるために挑戦した、魔窟と呼ばれる上位ダンジョン。
漂うマナとモンスター共の体臭が混じった匂い。
自身が発するアドレナリンと、全身を覆う緊張感。
あの世界のダンジョンと同じ”匂い”がはっきりと感じられる。
「フェリナ、いつもより詳細に記録を取っていてくれ」
『!! 分かりました』
俺の言葉から、俺たちが感じている違和感を察したのだろう。
『ログ採取モードを”詳細”に設定。
探索を開始してください』
「リーサ、ミア、慎重に行くぞ」
「うんっ! ふふ、なんか昔を思い出すね。
腕がなっちゃうな~」
「この匂い……これこそ戦場じゃな」
バトルジャンキーの様な事を言うふたりを連れ、俺はダンジョンの奥へ足を踏み入れた。
*** ***
「リーサ、次は魔法を頼む!」
「うんっ!
ファイアLV3!!」
ゴオオッ!!
リーサの爆炎魔法が、クモ型モンスターのアラクネを焼き尽くす。
「よしよし」
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■個人情報
明石 優(アカシ ユウ)
年齢:25歳 性別:男
所属:F・アカシアギルド
ランク:B
スキルポイント残高:12300
スキルポイント獲得倍率:520%(+75%)
--->増減予測:
剣技スキル-10%、魔法スキル+25%、被ダメージ-N/10%、与ダメージ+N/10%
称号:ドラゴンスレイヤー
災害迷宮撃破褒章
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ダンジョンは気になるが、今回の探索の主目的はスキルポイントの確保。
スキルポイント獲得倍率を意識した戦い方をする必要がある。
ピッ
スキルポイント獲得倍率:520%
--->増減予測:
剣技スキル+10%、格闘スキル+20%、与ダメージ+N/10%
「おっ」
増減予測値が更新される。
「リーサ、ミア!
次は同時に物理攻撃だ!!」
タイミングよく、1体のオークが瓦礫の影から姿を現す。
「行くぞ!」
「おっけ~!」
「心得た!」
俺の合図に合わせ、リーサとミアが左右に展開し、オークに向かう。
オ、オクッ!?
ターゲットとなったオークは、どの相手に対処していいか迷ったのだろう。
醜悪な豚面に焦りの表情を浮かべている。
オクッ!
ひとまず魔王であるミアを最大脅威と判断したのか、粗末な剣をミアに向かって振りかぶる。
「うしろが、がら空きだよっ!」
だんっ!
その隙を見逃すリーサではない。
「ていっ!」
大きくジャンプしたリーサ。
空中でクルリと一回転すると、ローファーの踵をオークの脳天に叩きこむ。
ドガッ!
一撃で気絶し、倒れ込もうとする先にはミアのハンドファングの爪が。
ドシュッ!
「どどめは……ユウじゃな!」
「ああ!」
間髪入れず、ダマスカスブレードを突き出す。
ザシュッ!
パアアアッ
オーバーキルもいいところだが、俺たちの同時攻撃を食らったオークは悲鳴を上げる間もなく光の粒子になって消えた。
スキルポイント獲得倍率:635%(+115)
--->増減予測:
被ダメージ-N/15%、与ダメージ+N/10%
「よしっ!」
スキルポイント獲得倍率の調整は順調だ。
「じゃが……」
構えを解いたミアがわずかに眉間にしわを寄せている。
「先ほどのアラクネといい……」
「リーサたちの世界のモンスターだね」
「…………」
一部のオリジナルモンスターを除くと、ダンジョンに出現するモンスターの種類はそんなに多くない。
ゴブリン、オークをはじめとする亜人型。
ガーゴイルやゴーレムなどの非生命型。
ドラゴンやリザードなどの爬虫類型。
後はせいぜいスライムくらいだろうか。
先ほど戦ったアラクネなどの”凝った”モンスターは、ほとんど出現事例がない。
何より、俺が転移した世界でリーサと共に戦ったことのあるモンスター。
「やはり」
ミアの存在をきっかけとした”ひずみ”が、こちらの世界のダンジョンに影響を与えているというのは本当なのだろうか。
『もうすぐダンジョンの最奥です。念のため警戒してください』
「了解だ、フェリナ。
ふたりとも、念のため回復しておくぞ」
「は~い」
「腹が減ったの」
詳しい分析は、ダンジョンをクリアしてからだ。
俺は気を取り直すと予備のスキルポイントを皆に補充し、回復魔法で受けたダメージを回復する。
はらぺこミアには持参したおやつを渡してやるのを忘れない。
「うまっ♪」
「10分休憩したら出発な」
このダンジョンのランクはBランク。
ボスはせいぜいオーガーの亜種レベルだろう。
俺の想像は、悪い意味で裏切られることになる。
「な、なんだアレは……」
休憩後に足を踏み入れたダンジョンの最奥。
そこで見たのはボスモンスターであるオーガーを捕食している、異形の怪物の姿だった。
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