第70話 ブレンダの報告
「どう? ブレンダおねーちゃん?」
「ちっ……情報は殆ど取れなかったわね」
チーム・陣が失格になった後、俺たちは手近なエイドステーションに移動し、回復がてらブレンダが収集した情報の確認を行っていた。
ブレンダは自身のスマホに集めた”解析情報”を見ながら舌打ちをする。
「パーティメンバーのふたりは、予想通りグンマ・プリフェクチャにあるノーツのダンジョンバスター育成組織の出身。”ブレイク・インパクト”の前後に生まれているわね」
「……ふたりとも孤児? わざわざ選んだのかしら?
経歴に特に目立った点は無し、と」
「…………」
ノーツのダンバス育成組織は、そういった出自の人間を集めている?
俺自身20年前のブレイク・インパクトで家族を失い、異世界に転生した経験を持つので気になってしまう。
「3人目は補欠、なんだよな?」
「そうね……」
シローさんらと戦った3回戦で、陣さんと共同でオリジナル魔法である”ダーク・プリズン”を使ったダンジョンバスター。
なぜか彼の姿は準々決勝ではパーティから消えていて、代わりに別の女性ダンバスが出場していた。
「公式には”開発途上のオリジナル魔法を使ったことによる反動があり、念のため療養中”と発表されたけど……多分ウソね」
こちらに情報を漏らさないために隠したのだろうか?
「う~ん、流石に私の”魔術”に感づいているとは思えないけど……ああでも、アイツらしょっちゅうウチにハッキング仕掛けてくるのよ!」
「Fxxk'n Noots!」
……少々お下品な言葉が聞こえたが、聞かなかったことにしよう。
「肝心なジンの情報だけど……1つだけ気になる点があったのよね」
「どういうものだ?」
「ふむふむ」
「ほう」
回復を終えたリーサとミアが俺たちに引っ付いてくる。
とても微笑ましい。
「ふふっ。
これよ。 ステータスの一部なんだけど」
「……な!」
ブレンダのスマホに表示された文字を見た途端、思わず叫び声をあげてしまう。
表示されていたのは陣さんのステータスだ。
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■個人情報
陣 雅人(ジン マサト)
年齢:37歳 性別:男
所属:ノーツラボ・第13ギルド
ランク:B
スキルポイント残高:102,750
スキルポイント獲得倍率:1025%
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「こ、これって……!」
リーサも驚きの表情を浮かべている。
そう。
スキルポイント獲得倍率がバグった俺を除いて、通常のスキルポイント獲得倍率は世界最高レベルの因子を持つ人間でも5倍程度。
陣さんは平均より少し多い1.8倍の倍率を持っていた(自分で自慢していたのでよく覚えている)
それが、10倍以上なんて……。
「まるでユウ、お主のようじゃの」
「そうね。私の推測なんだけれど……」
スマホの画面を消すと、腕を組んだブレンダが眉間にしわを寄せながら話し出す。
「ユウ、貴方がノーツの傘下にいた時、貴方の活動情報をラボに渡していたのよね?」
「あ、ああ」
「そこで得た情報を元に、ジンを……人為的に強化したんじゃないかと考えているわ」
「!!」
ブレンダの言葉に、思わず目を見開いてしまう。
『そ、そんなことが出来るなんて!』
聞いたことがない。
それはフェリナも同じようで、狼狽した彼女の声がイヤホンから聞こえてくる。
「判断するには情報が不足しすぎているわね……ダディの権限を使ってジンをイギリス大使館に召喚しようかしら。”親善”目的という事で……いい考えね♪」
……権力を使おうとしているブレンダが少し怖い。
他に分かったことはないのか、そう彼女に声を掛けようとした時、巨大な影が俺たちの背後から現れる。
「……ジンらはわざと失格になったようだな」
「ダディ!」
「エイドステーションを借りるぞ?」
ルークさんの鎧は傷だらけであり、激しい戦いの跡が伺われる。
そういえばルークさんは一人でチーム・ドーンを足止めしていたんだったな。
「ごめん、ダディ。
情報収集は不十分だわ」
「ふむ……マクライド氏がこちらの意図に気付いていたのかもしれんな」
エイドステーションに蓄えられたスキルポイントを使い、武器と鎧の使用回数を回復させるルークさん。
傷だらけだった鎧が見る見るうちに補修されていく。
「ダディの方は?」
「ああ!!
もちろん私一人で片づけたぞ!!」
「「「「えぇ……」」」」
ふんっ!
と暑苦しいポーズを取るルークさんに、少々引き気味の俺たち。
ルークさんの表情に疲労の色は無い。
ピッ
スコア速報が更新される。
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■決勝戦 スコア速報
チーム・ウィンストン 472
チーム・ドーン 233 全滅 リスポーンまで1025秒
チーム・アカシア 221
チーム・陣 0 失格
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「ほ、本当に全滅してる……」
世界ランク7位のジョナサン擁するチーム・ドーンをひとりで全滅させたのか。
やはりダントツ世界ランク1位のダンジョンバスターは伊達ではない。
「さて……ジンらが失格したのなら、現時点で出来るのはここまでだな」
「そうね」
「……ならば!」
ブアッ!
ひょいっとブレンダを肩に乗せたルークさんの纏う雰囲気が変わる。
「……え?」
「あとは”競技者”として、全力を尽くすのみ!!
ユウ、君の戦技リンク……期待しているぞ!!」
「……ま、こうなるわよね」
「え、ええええええええっ!?」
これがダンバストーナメントの決勝であることをいままで忘れていた。
「え~と、リーサたちが戦うんだよね? ルークおじさんと?
……マジでしゅか?」
「くくっ、腕がなるのう!」
強気なセリフを吐くミアの額にも汗がにじんでいる。
「このまま終わっては観衆も退屈であろう。
良い勝負をしよう! チーム・アカシア!!」
こうして俺たちは、世界ランク1位のルークさんたちとタイマンを張ることになったのだった。
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