第69話 消極策

『チーム・ドーンがこちらに向かっています……直線距離で230メートル。

 チーム・陣はドーンの後方50メートルの距離をゆっくり移動中』


 フェリナが随時相手のポジションを連絡してくれる。


「はぁ、ウチのオペレーターはまだ敵影をとらえてないんですけど?

 チートかしら」


『ふふ♪ どうでしょう?』


「まったくこの子は……」


 フェリナとやり合うブレンダの様子に口元をほころばせたルークさんだが、すぐに眉間にしわを寄せる。


「ふむ……シローたちと戦った時は初手でデバフ魔法を使ってきたが」


「やっぱりこちらを警戒してるみたいね、準決勝と同じよ」


 ルークさんのチームと俺たちが手を組んだことをチーム・陣が把握しているかは分からないが、2対2に持ち込まれることは向こうも想定しているだろう。


「ドーンを迂回したいが……そうもいかないか」


 相手も世界ランク7位のダンジョンバスターである。

 無視してチーム・陣を補足するのは難しいだろう。


「それならば……」


 肩に乗っていたブレンダを地面に降ろすルークさん。


「ダディ?」


「ドーンは私が足止めしよう。

 貴公らはブレンダちゃんを頼む」


「え、ルークさんだけでですか!?」


 いくらルークさんが世界ランク1位のダンジョンバスターとはいえ、チーム・ドーンには世界ランク7位のジョナサンがおり、パーティメンバーもランク入り常連の魔法使いだ。

 一人で抑えるのは大変なのでは。


「ふふ、私を誰だと思っている?」


 にやりと不敵な笑みを浮かべるルークさん。


「ぐっ……はあああああっ!!」


 どんっ!


「!?」


 咆哮と共に、ルークさんの全身が金色のオーラの様なものに包まれる。


「……ダディの”プーカズ・ブレス”。

 全ステータスを一時的に30%上昇させるオリジナル魔法よ。

 術式スクリプトは私が組んだんだけど」


「ふおっ!?」


 チートにもほどがある。

 むしろ教えて欲しいんだが。


「発動させるにはベースとして強靭な肉体が必要だから……貴方たちにはちょっと無理じゃない?」


「うっ」


 俺は中肉中背の一般体型だし、リーサとミアはまだ少女だ。

 ……ミアが成長すればわからないが。


「ふふ、ということだ。

 なにより……世界7位のジョナサンとは前からやり合いたいと思っていた。

 今までは望んでも叶わなかったからな、滾るよ」


「うおおおおおおおおおおおおっ!!」


 ルークさんのオーラがひときわ輝く。

 大きく叫び声を上げたルークさんは、巨大な両手剣を構えたまま走り去ってしまった。


「えっと……」


「つよつよ」


「豪鬼、じゃな」


 普段は冷静なルークさんのバトルジャンキーっぷりに思わず呆然としていると、やれやれと肩をすくめたブレンダが話しかけてくる。


「ダディのスイッチが入っちゃったわね。

 それで……どなたかに運搬を頼みたいのだけれど?」


 ”魔術”を発動中のブレンダは自力であまり動けない。

 誰かが運んでやる必要があるのだが……。


 ただ、年頃な人様の娘さんを抱き上げていいものか……。


「ふむ、それなら余が運んでやろう」


 躊躇しているとミアが名乗り出てくれた。


 ひょいっ


 軽々とブレンダをお姫様抱っこするミア。

 彼女は見た目に似合わず力が強いのだ。


「まさか魔王様に抱かれるなんてね」


「天にも昇る心地よさであろう?」


「……なんでよ」


 頬を染めて横を向いてしまうブレンダ。


「ブレンダおねーちゃんだけずるいなぁ。

 ねえミアちゃん! 今度はわたしもお姫様だっこして!」


「おお、もちろん良いぞ。

 余に抱かれて、果ててしまわぬようにな?」


「そ、そこまで!?」


「あのね、あんた達…………悪くないケド」


『はうっ……素晴らしいです』


 美少女たちによる尊み空間が出現してしまったが、もしかしてこのシーンも全国中継されているんだろうか?


『はい……この数分で、うちのちゃんねるフォロワーが3000人ほど増えました』


 思わぬ副産物を手にした俺たちは、急いでチーム・陣を追うのだった。



 ***  ***



「リーサ! 足止めを!!」


「うんっ!

 ブリザードLV4!!」


 バキバキッ!


 逃げる相手の進路をふさぐように、リーサの魔法が氷の壁を作る。


「逃がさない!!」


 ヒュッ


 氷の壁を迂回し、逃げようとする陣さんの足めがけチタンボウガンを撃つリーサ。


 上手い!

 リーサのコンビネーション攻撃が、陣さんの足を止めてくれそうだったが……。


「……!」


 どしゅっ!


 魔法使い役と思わしきダンジョンバスターが、身を挺して矢を受ける。


「な!?」


 そしてそのままこちらに突進してくる。


「捨て身の攻撃!?」


 攻撃魔法を乱発しながら突撃する相手に、思わずこちらも足が止まる。

 ミアはブレンダを抱いたままなので、どうしてもカバーが必要だ。


「くっ……攻撃強化技15%!!」


「くらえっ!!」


 ザシュッ!


 バフスキルを掛けた一撃で、魔法使いを打ち倒すが、その隙に陣さんたちは隣のフロアに逃げ込んでしまった。


『迷宮ゾーンですか……厄介ですね』


【チーム・陣、タケシメンバー戦闘不能】

【消極的行為により、”指導”を宣告します】


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 ■決勝戦 スコア速報

 チーム・ウィンストン 231

 チーム・ドーン    173

 チーム・アカシア   153

 チーム・陣      0 指導□

 ======


 ジャッジから警告を受けるチーム・陣。

 スコアも全く稼いでないし、勝つ気が無いのだろうか?


 ルークさんとチーム・ドーンは一進一退のようだし、早く陣さんを補足して”調査”を終えないと。

 焦る俺たちはその後もチーム・陣を追うのだが……。


【チーム・陣、消極的行為により、”指導”を宣告】

【累積3回目の指導……チーム・陣を失格とします】


 その後も陣さんはパーティメンバーを盾にして逃げ続けた結果、3回目の指導により失格となり、決勝用ダンジョンから退出させられてしまうのだった。

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