第63話 シローの証言

「はあぁぁ~、マジで油断したっての~」


 べしゃりとコタツテーブルに突っ伏すレミリアさん。

 さすがにお疲れモードなのか、いつもの元気がない。


「よしよし」


「ぬほっ!? リーサたんよしよし来たっ!!」


「ほれほれ」


「うはっ!? ミアたん尻尾ぐりぐりまでっ!?」


 気を使ったリーサとミアがもふもふ癒し攻撃を仕掛けている。


「へぶんいずひあー!?」


「……」

「チーム・ラズベリーは私たちも警戒していたんだが、な」


 レミリアさんの奇行を止めることもなく、俺の淹れたコーヒーを飲むシローさん。

 その表情が歪んでいるのは、コーヒーの苦みが原因ではないだろう。


「陣さんたちのチームが使ったオリジナル魔法ですね」


「ああ」


 大きくため息をつくシローさん。


「バインド系の定型魔法を術式スクリプトで改造したのだと思いますが……」


 定型魔法の術式スクリプトは公開されており、フェリナの言うとおり改造する事は可能だ。


「けど、それにしては」


 ふたりのもふもふ攻撃でHPが回復したレミリアさんが会話に加わる。


「リーサたんミアたんの世界に存在する魔法に似すぎてるってワケね」


「そうじゃ、見るがよい」


 うさぎさんパーカーを着てコタツに潜り、寝ころんだままのミアが両手を宙に伸ばす。


 ……これが世界を恐怖に叩きこんだ魔王様の姿だとは、あの世界の人たちは信じてくれないだろうな。


 ヴィンッ


 ミアのちっちゃな手のひらの上に、魔力の渦が出現する。


「ちょ、ミア!?

 ほ、ほどほどで頼むぞ」


 あまり豪快に魔力を使われるとミアに食べさせるスキルポイントがマッハ→財政ピンチである。


「くふ、心配するなユウ。

 心得ておるぞ?」


 にやりと口の端を釣り上げたミアは大丈夫だというように、ネコミミをピコピコと動かす。


「あ奴の使った”ダーク・プリズン”は、魔力を使ってマナを変質させる呪術の一つでな? 属性的には”闇”になるのじゃ」


 ぷ~ん


 ちょうど、小さな羽虫が開いた窓から部屋の中に入ってくる。


「この檻が」


 ブオッ!


 ミアの紅い双眸が光ったと思った瞬間、魔力の渦は黒い檻に変化する。


 ぱしっ!


 生み出された檻は大きく広がったと思うと羽虫を包み込んでしまう。


 しゅううう……


 せわしなく羽根を動かしていた羽虫は力尽きたように檻の中に落ちる。


「……とまあ、対象の活力、すなわち生命力を吸い取るのじゃ」


「ふむ……」


 たったこれだけの魔力でこれほどの威力を……俺はふと疑問に思った言葉を唇に乗せる。


「こんな強力な呪術があるのに、なぜ俺たちとの最終決戦で使わなかったんだ?」


「相手の動きを止め、呪うなど卑怯であろう?

 余は正々堂々と勝負をしたかったのじゃ」


「まったく」


 こともなげに言い放たれた魔王様の言葉に、俺はミアの頭をぐりぐりと撫でる。


「うむ、くるしゅうないぞ♪」


 すっかり座敷猫ならぬ座敷魔王様である。


「す、凄いねミアちゃん……ゴキブリ退治に使えそう」


 異世界経験のないフェリナには、この呪術の凄さは少し違って感じられたのかもしれない。

 コンビニなどにある電磁虫取り機みたいな感想だな。


「いやいや、フェリナお姉ちゃん。

 これって人間界的にはマジでヤバい禁呪だからね?

 ……って、お部屋にゴキブリが出るってこと!?」


「ふあっ!?」


 掃除をサボっていたことがバレたらしいフェリナは置いといて、陣さんたちが使ったオリジナル魔法がミアが見せてくれた呪術に近いのなら。


「シローたちはマナ……もといスキルポイントを吸い取られたのかもしれんな」


「確かに、あの檻に捕まった瞬間力が抜けちゃったね」


「私たちは予備のスキルポイントを残していたんだが、アプリのログを見るとそれが失われている」


 シローさんがダンバスアプリのログを見せてくれる。


「これって……」


 似たようなログを、つい最近見たことがあった。


「大阪湾トンネルプロジェクトの時の?」


 あの術が、スキルポイントを吸収する災害ダンジョンに似た効果を発揮したというのだろうか?


「余としては、どうやってあ奴らが呪術の術式を再現したのかが気になるのじゃがな」


「たしかに! わたしも知らなかったやつだし!!」


「ふ、そうそう人間に再現できるものではないぞ?」


「むきー!!」


 ミアの言う通り、元の世界でも俺たち人間の魔法使いが使えなかった術の術式を、なぜ陣さんたちがスクリプト化できたのかという謎が残る。


「……これは上位ランカーの間でのウワサなんだが。

 ノーツ財閥がオリジナルマインの補修を請け負い、運営権の一部を握ったと言われていてね」


「……え!?」


 シローさんが投下した特大の爆弾に、驚きを隠せない俺。

 あの時マクライド氏がイギリスにいたのは、もしかして……?


「一度ルークさん……ウィンストン卿に話を聞いてもいいかもしれない」


 シローさんの提案に、頷くしかない俺なのだった。

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