第62話 思わぬ不覚
「ふい~、疲れた……」
学園から帰ってきたリーサが、制服のままコタツに入って寝転がる。
脱いだタイツはランドセルと一緒にソファーの上だ。
几帳面なリーサにしては珍しいが、それだけ疲れているのだろう。
「お疲れさま、リーサ」
俺は牛乳たっぷりのホットココアをコタツテーブルの上に置いてやる。
「やたっ! ホットココア!!」
漂う甘い香りに飛び起きると、耳と尻尾をピコピコさせながら美味しそうにココアを飲むリーサ。
超可愛い。
「はふぅ、癒される……」
「くくっ、大魔導士と学生……二足のわらじは大変なようじゃな?」
「ミアちゃんも一応学生だよ?」
コタツに肩まで潜り込んでゲームに興じるミアをジト目で見つめるリーサ。
がうがうっ♪
同じく首までコタツに潜り込んだドレイクが気持ちよさそうに応答する。
「ふむ……単位取得済みの余は、足繫く学園に通う必要はないのでな。
くうっ♪ かように素晴らしい暖房器具があったとは……最高じゃな!!」
携帯ゲーム機を持ったまま、蕩けた声を上げるミア。
魔王様とレッドドラゴン(犬化済)は、あっさりとにコタツの魔力の前に屈していた。
とても微笑ましい。
「ユウも大会中はお仕事おやすみしてるんでしょ?
忙しいのはわたしだけだよ~」
ココアを飲み終えるとぺしゃりとテーブルに突っ伏すリーサ。
代表選手には協会本部からスキルポイントと日当が支給されるからな(しかも4人分だ)。スポンサーがたくさんついたおかげで無理に大会中に働く必要はない。
だがリーサは小学5年生なわけで……いくら学園が出席日数に便宜を図ってくれるとはいえ、週に数日は登校する必要があった。
「今日は絶対リーサと一緒に寝てね♡
えいえいっ」
自分だけ忙しい現実に憤慨したのか、甘えた声を出すとコタツの中で脚を絡めてくるリーサ。
むにむに
ぷにぷにの素足が俺の太ももやお腹を刺激してくる。
……変な気分になっちゃうからやめような?
「すぴ~♪」
我関せずとコタツで爆睡するギルドマスターさん。
「……大会関係のニュースでも見るか」
可愛い娘二人と美人ギルドマスターと同じコタツに入っている。
その事実に妙にドキドキしてしまった俺は、誤魔化すようにテレビをつける。
*** ***
『……さあ! 3回戦最終試合も佳境に入ってきました!
トップを走るのはもちろん世界ランカーのシロー夫妻ですが……』
テレビをつけた途端、アナウンサーの興奮した声が耳に入る。
ちょうどダンバストーナメントの中継をしているようだ。
「あ、レミリアお姉ちゃんだ♪」
『いえ~い☆ みんな見てる~?』
あいかわらず、卓越した身のこなしで相手の攻撃をかわすレミリアさんがカメラ目線で手を振っている。
「よ、余裕あるな」
バトルの最中、カメラの位置を気にするとか、俺にはとてもできそうにない。
3回戦ともなると、相手に上位ランカーも含まれて来るはずだけど。
「ね、決勝で対戦できるかな?」
「……俺たちが勝ち上がる必要があるだろ?」
「えへへ~」
昨日行われた3回戦で、俺たちはなんとか準々決勝進出を決めた。
上位争いしていた二組のAランクダンジョンバスターたちが潰しあう隙を突いて……という薄氷の勝ち上がり方ではあるが。
「そろそろ相手のマークがきつくなってくるからな……簡単にはいかないぞ?」
「ユウとわたしたちなら大丈夫だよ!!」
自信満々なリーサの様子に口元が綻ぶ。
準々決勝からは使用できるスキルポイントの上限が10000になる。
勝負所まで温存している”秘密兵器”が鍵になるかもしれない。
「にひ☆」
不敵に笑うリーサが可愛すぎるので、なでなでしようと思った瞬間、テレビから慌てた様子のアナウンサーの声が聞こえた。
『お~っと、レミリア選手、どうしたことだ!?
動きが止まっているぞ!!』
「……え?」
テレビ画面に視線をやると、信じられないシーンが映されていた。
「れ、レミリアお姉ちゃんが!?」
『くっ、なにこれ!?』
膝をつくレミリアさんの周りを、黒く光る檻の様なものが囲んでいる。
ガッ!
バシュッ!
檻を破壊しようと、手持ちの武器や魔法で攻撃するレミリアさんだが、魔法で構築されたと思わしき檻はびくともしない。
「オリジナル魔法……か?
あんなの見たことないぞ?」
『レミリア!』
窮地に陥ったレミリアさんを助けようと、シローさんが駆け付けるが……。
ザッ
それこそが敵の狙いだったようだ。
レミリアさんが囚われている場所は、周囲より一段低くなっている。
シローさんたちを囲むように現れたのは、2位と3位のチーム。
どうやら協力してシローさんたちを罠にはめたようだ。
「……って、陣さん!?」
2位のチームは世界ランク10位のアメリカ代表。
トリッキーな戦い方でトリックスターの異名をとるダンジョンバスターコンビだ。
だが、3位のチームのリーダーは見慣れないダンジョンバスターふたりを引き連れた陣さんで……。
『シロー、逃げて!』
『ちっ!?』
囲まれたことに気付いたシローさんがその場を離れようとするが……。
『”ダーク・プリズン”!!』
ガシイッ
レミリアさんを捕らえているものと同じ漆黒の檻が、シローさんを閉じ込める。
「馬鹿な……」
動きを止められたシローさんたちはアメリカ代表と陣さんのチームにタコ殴りにされ……。
3位に転落してしまうのだった。
『し、信じられません!
世界ランク3位のシロー夫妻が3回戦で敗退!!
世界ランク10位のチーム・ラズベリーはともかく、共同戦線を張ったこのチームは何者だぁ!?』
「…………」
優勝候補であったシローさんたちの敗退。
俺の受けた衝撃は相当なモノだった。
世界ランク10位のチーム・ラズベリーはランキングこそ上位だがそれは莫大なスキルポイントを持つ
陣さんのチームに至っては皆B~Cランクである。
隔絶した実力差があるはずなのだ。
「これは……」
「似とるな」
だが、リーサとミアが受けた衝撃は少しベクトルが違うようだ。
「どうした、二人とも?」
いつの間にか携帯ゲーム機から手を離したミアが難しい顔をしている。
リーサもシローさんたちを捕らえた黒い檻を食い入るように見つめている。
「光を抑え、闇に封じる禁呪……古文書で見たことがあるかも」
「そんな大層なモノじゃないぞ、大魔導士?
いにしえの魔族が、天界に攻め入るときに行使した呪縛法じゃ」
「いやいや、じゅーぶん大ごとだから!?」
ミアとリーサには心当たりがあるようだ。
それにしても、またもや俺が転生していた世界の秘術……。
「詳しく話を聞かせてくれるか?」
それをノーツ配下となった陣さんたちが使ったのだとしたら。
俺はテレビを消すと、リーサたちに向き直るのだった。
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