第64話 ノーツの謎
「マクライド様。
御覧のように、実験は成功しました」
ここはノーツ財閥が所有するオフィスビルの最上階。
フロア全体を占有する最上階の執務室で、マクライドは研究所の所長から報告を受けていた。
「ラボの解析結果は以上になります」
「それと、ジンからも報告があるそうです。
おい?」
「はっ」
ファイルに綴じた数枚の書類をマクライドに手渡すジン。
「ほう……?」
書類に書かれていたのはダンジョンバスタートーナメントのバトルレポート。
マクライドは、その内容に満足そうな吐息を漏らす。
「…………」
ジンは微動だにせず、直立不動の姿勢を保っている。
肌は青白く、頭髪には白いものが混じる。
30代半ばとは思えない風貌だが数々の”実験”に耐えたこの男の事を、ことのほかマクライドは評価していた。
「オリジナルマインから抽出した魔法の再現は順調か……何か問題はあるかね?」
マクライドの問いを受けて、初めてジンの表情が動いた。
「……はっ」
「いささかスキルポイントの消費が大きすぎる事と……身体にダメージが残る事でしょうか」
シロー夫妻との3回戦で使用した”ダーク・プリズン”。
術式スクリプトはいまだ完全ではないが、シロークラスのダンジョンバスターに効果があるかどうかを確認するため、ジンの部下に使わせた。
その代償は軽い物ではなく、ダーク・プリズンを使った部下は身体を壊し、現在入院して集中治療室に入れられている。
「やはりただのCランクでは厳しかったか?
すぐに補充要員を派遣するからお前は気にするな」
「……は」
僅かに眉をひそめたジンを一瞥し、不穏な笑みを浮かべるマクライド。
「ふん、そう不満そうな顔をするな。
決勝ではウィンストン卿と……魔の子らと当たるのだ。
そこでさらに試せばいいだろう?」
「……?」
まだ準々決勝も始まっていないのに、この方は何を言っているのか?
疑問の表情を浮かべるジンだが、マクライドはもうジンの方を見ていない。
窓から見える大阪の摩天楼を見下ろしながらつぶやいた声は、誰の耳にも届かなかった。
「くく、早く上がって来い……ユウ、フェリナよ」
*** ***
「はぁ。
……その噂は、残念ながら事実よ」
「我としても大変遺憾だがな」
数日後、我が家のリビングにはさらに大物ダンジョンバスターの姿があった。
「やはりですか……」
「某公社の赤字の肩代わりをしますと言われちゃ、利権を持つ議員どもが賛成しないはずないものね。まったく……ノーツはいつの間にロビー活動をしてたのかしら」
俺の淹れた紅茶をしかめっ面で飲み干すブレンダ。
「ブレンダおねーちゃん、はいっ」
お茶うけのシュークリームが一瞬でなくなったので、おかわりを配膳するリーサ。
「……ありがと」
「えへっ」
頬を染めてリーサを撫でるブレンダの様子は尊いが……。
(お、俺んちに世界ランク1位と3位が……)
仲良くコタツに入っている光景というのは、なかなかにシュールなモノである。
シローさんの提案で、ウィンストン卿とブレンダをウチに招いたのだ。
もちろん目的は噂の真相を聞きだすためだ。
残念ながら噂は本当だったようだが……。
「マクライド氏が補修させた後のオリジナルマインの姿がこれだ」
ウィンストン卿……ルークさんが一枚の写真をテーブルの上に置く。
「これは……」
写っているのはオリジナルマインの最奥にあるコアオーブ。
「問題は……ここね」
ブレンダが指さしたのは、コアオーブの裏側。
ちょうどミアが隠れていた通路がある場所だ。
「なんだ? これ」
クリスタルの割れ目に沿って瓦礫が堆積していた場所は綺麗に片づけられ、大きな扉が取り付けられている。
「ノーツの説明では、安全のために崩落を補修したとのことだったけど」
「私の推測では。
魔王……ミアライーズがこちらの世界に現れた際に出来た”ひずみ”の様なものを利用して、リーサのいた世界の情報を集めているんじゃないかと考えているんだけどね」
「!!!!」
「……ほう?」
思いもよらなかったブレンダの言葉に、ぴくんと耳を動かすリーサとミア。
「確かに、余ほどの魔族が世界を渡ったら、少々の歪みが残るのは致し方ないが……それを利用してくるか」
「そんなことが出来るなんて……正直、信じられないよ。
でも、そうでもしないと術式を作れないよね~?」
眉をひそめるリーサ。
リーサほどの大魔導士でも驚くほどのことらしい。
「……私の推測は当たっていそうね。
こんど政府の監査があるんだけど、その時にひずみについて調べたいのよね。
手伝って頂けるかしら? ミアライーズ」
「心得た。
余の痕跡を陰謀に利用されるというのは、我慢ならんからな」
にやり、と不敵な笑みを浮かべるミア。
どうやらもう一度オリジナルマインに行く必要がありそうだ。
「そうなれば、ノーツの手の者……ジンといったか。
ヤツの事をもう少し調べたいところだが」
乗り気なミアの様子に安心したルークさんは、大きく息を吐くと座椅子にもたれかかる。
「たぶん準決勝で当たるでしょ、ダディ?
私の”魔術”で調べてみるわ」
「……そうだな」
「できれば」
ブレンダの双眸がきらりと光る。
「ユウたちにも手伝ってほしいのだけれど……決勝まで上がって来て下さらない?」
「……は?」
「ふお?」
ブレンダの言葉に目が点になる俺とリーサ。
なんとか準々決勝に進出したとはいえ、対戦相手には世界ランク8位と25位のダンジョンバスターがいるのだ。
普通に考えれば勝ち上がれるはずがないのだが……。
「まだ何か隠し玉があるでしょ貴方たち」
「うっ……」
「ふふん♪」
やはりブレンダには見抜かれていそうだ。
「頼むわよ?」
ブレンダは期待してくれるものの、やはり厳しい……そう思っていたのだが。
2日後に行われた準々決勝で、俺たちはあっさりと準決勝に進出してしまったのだ。
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