第17話 夢の新居

「ふっふっふ、これが何か分かるかねリーサくん!」


「ふおおおお!?」


 俺は真新しいセキュリティカードをリーサの目の前にぶら下げる。


「ユウとリーサの……電子婚姻届け!」


「なんでやねん」


 ぺし、とリーサの頭にチョップを落とす。


「あうっ……愛の巣に至るキー、だね!」


「…………そだな」


 まあ間違いではない。


 サンダートロールが出現したCランクダンジョンを討伐した俺たち。

 クライアントから危険手当と追加報酬まで貰った俺は……ついにあの計画を実行に移すことにしたのだ!



 ザ・持ち家!!



 娘を持つパパ、夢の到達点である!!

 貯金の8割を頭金にぶっこんだ上に30年ローンだがな!


「やった~~!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねるリーサの笑顔。

 この笑顔ですべてが報われるのだ。


「じゃあ、新居に向かうか」


「うんっ!」


 すでに荷物は引っ越し業者に運んでもらっている。


 俺はレンタルしたワンボックスカーに貴重品などを積み込む。

 ……やっぱ車もあった方がいいよなぁ。


「あ、そのまえに」


「?」


 助手席に乗り込もうとしたリーサは何かを思い出したのか、今まで住んでいたボロアパートに向き直る。


「今日までありがとう、アパートさんっ!」


 ぴょこんとかわいく一礼したのだった。


 そうだ、リーサがこちらの世界に産まれ落ちてから10年間……嬉しい事も楽しい事も大変なことも。色々な思い出があった我が家である。

 俺もリーサに倣い一礼を捧げることにした。



 ***  ***


「すすす、すっご~いっ!!」


 新居に到着するなり、庭を走り回るリーサ。


 まず目を引くのは広い庭だ。

 クルマの駐車スペースを除いても20メートル四方ほどのスペースがある。


「ふかふか!」


 ローファーとタイツを脱いだリーサは、素足になって芝生の上を駆けまわる。


 リーサが学校に行っている間にこっそり整備したのだ。

 芝生ゾーンの脇には畑に使えそうなスペースがあり、野菜を育てるのもいいだろう。


 敷地の周囲は木々に覆われており、木の香りが心地よい。


「ふっふっふ、驚くのは庭だけじゃないぞ?」


「ご、ごくっ」


 ひとしきりはしゃいだリーサを抱きあげると、カードキーで玄関を開ける。


「わあっ♪」


 目の前に広がった光景にリーサが歓声を上げる。


 50畳ほどの大きなリビング。

 リフォームはバッチリで、白い壁とフローリングが高い天井から取り込まれる日光でキラキラと輝いている。


 南側にはソファーとテレビが置かれ、くつろぎスペースに。

 その後ろには2つのベッドとリーサの勉強机が置かれている。


 もちろん、仕切りを動かしてリーサの部屋を作ることも可能だ。


 こだわったのは一体感。

 家のどこにいてもリーサと共に過ごせる平屋の家。


「これが……ユウとリーサのおうち」


「ああ。 ずっと一緒に、幸せに過ごそうな」


「……ぐすっ……ユウ、ありがとう!!」


「わたし、ユウに出会えて本当によかった。

 ユウの娘としてこちらの世界に来られてよかったよぉ!」


 感極まって抱きついてきたリーサを優しく抱き返す。

 俺の目からも涙がぽろぽろとこぼれ、リーサの銀髪を濡らす。



 ぶろろろ……


 と、外から軽快な軽自動車のエンジン音が聞こえてくる。


「これは……フェリナお姉ちゃん?」


「ああ、ぜひ引っ越し祝いに来てくれとお願いしたんだ」


「やった~~!」


 大喜びのリーサ。

 少し年の離れたお姉ちゃんとして、リーサはフェリナをとても慕っている。


 もしかして実家と上手く行ってないんだろうか?

 仕事の合間に見せるフェリナの表情が気になっていた俺は、息抜きになればとフェリナを誘ったのだ。


「おじゃまします。

 わあっ! 素敵なおうちですね♪」


「フェリナお姉ちゃん! いらっしゃい!!」


 お土産を手に現れたフェリナに、思いっきり抱きつくリーサなのだった。



 ***  ***


「美味しいね、フェリナお姉ちゃん!

 ユウのごはんは最高なんだよ!」


 しっかりと塩こうじに付け込んだ、焼き鳥をぱくぱくと口に運ぶリーサ。


「ホントに美味しい……ユウさんはお料理上手なんですね」


「でしょ? ちなみにリーサは全然できない!」


「リーサは昔から火加減が苦手だからな。

 その分掃除とかは得意だが」


 異世界での話になるが、一度リーサに料理をさせて大変なことになった。

 いやでも、女子力向上のため、ちゃんとトレーニングした方がいいんだろうか?


「……くんくん、フェリナお姉ちゃんも同じ匂いがする」


「そ、そそそそそそ!?

 そんなことありませんよ!?」


「…………」


 フェリナのオフィスの片隅に積み上げられたデリバリーの空き箱。

 まあそんな予感はしていた。


「わ、わたくしだって!

 カップヌードルにおしょうゆを垂らして味変できますから!!」


「……フェリナお姉ちゃん、それお料理じゃないから」


「はうっ!?」


「あ、今度お仕事部屋のお掃除、手伝ったげるね?

 お弁当ガラはちゃんと捨てないとアリさんが来るよ?」


「ぐはっ!?」


 スーツ姿のフェリナは完璧お仕事お姉さんだが、実情は生活力低のおっちょこちょいエルフさんだ。


「はうううう、やめてくださいリーサちゃん」


「にひひ~♪」


 デザートのケーキと紅茶をテーブルの上に並べる。


「そういえばフェリナ。 仕事の話もあるって、どんな案件なんだ?」


 すっかりリーサの玩具になっているフェリナに助け舟を出してやる。


「はっ!? そうでしたそうでした」


「ノーツ財閥がJV(ジョイントベンチャー)として参加している国家プロジェクトがあるのですが。 ウチのギルドに参加オファーが来たんです」


 ピッ


 タブレットを操作し、壁に映像を投影するフェリナ。


「大阪湾……海底トンネルプロジェクト!?」


 数年前から始まった国を挙げてのビッグプロジェクトだ。


「当然というかなんというか、本格的な掘削が始まった途端ダンジョンの出現が増えまして。 ウチにはC工区……メイン部分の警備を任せたいとのことです」


「すげぇ……」


 工事の規模の大きさと先方から提示された報酬に頭がくらくらする。


「そ、それに……」


 壁に映る資料には、同じくC工区を担当するダンジョンバスターの名前が並んでいる。


「まじか」


 その一番上に記されていたのは、日本でトップと言われるSSダンジョンバスターの名前だった。


「こんなビッグプロジェクトに、俺が?」


 思わず唖然とするのだった。

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