第16話 Cランクダンジョンに挑戦

「はじめてのCランクダンジョン……腕がなるね!」


「ああ!」


『ふふっ、ユウさんにリーサちゃん、頑張ってください』


 翌日、リーサが改修してくれたダンバスアプリを検証する為に、俺たちはとあるビルの地下に来ていた。

 さすがにCランクダンジョンともなると依頼主は個人ではなく企業だ。


「地下の電源室にダンジョンが出現……だったか」


『はい、そのせいでビル全体が閉鎖中、なるはやで退治して欲しいとの依頼です』


 このビルは大型デパートが入る15階建のビル。

 1日の損害がどれだけになるのか、想像するだけで背筋が寒くなる。


 それだけに……報酬も良い。


「こんなおいしい案件を取ってくるとか、さすがフェリナだよな」


「お姉ちゃん凄い!」


『ふふっ、ちょっとツテを使いまして♪』


 にっこりと笑うフェリナはとても頼もしい。


『あ、でも水面下で動いている大型案件のせいで、ベテランのダンバスさんの数が不足してる、ってのはありますね』


 大型案件となると、やっぱり国がらみか?


『それに最近ダンジョンの発生件数が増えてますからね……中堅クラスのダンバスはむしろ取り合いです』


「なるほど」


 報酬が高くなるのはいい事だ。


 俺は市場原理に感謝しながら壁に浮かぶ魔法陣に触れ、ダンジョン内に転移するのだった。



 ***  ***


「Cランクダンジョンには”オリジナルボス”が出現する事がある。

 ステータス配分と装備はしっかりするぞ?」


「らじゃー!」


 オリジナルボス、とはダンジョン固有のボスモンスターの事だ。

 低ランクダンジョンのボスは、オークで会ったりガーゴイルであったり。

 少し上位のダンジョンで雑魚敵として出現するモンスターであることが多い。


「……強いの?」


「というか、固有スキルが厄介だな」


 例えば、水場に近いダンジョンなら水系の攻撃魔法を使ってきたり。

 ダンジョンが出現した”場所”がボスモンスターに影響しているのでは、というのが一般的な説だ。


 例えばここは巨大ビルの電源室……電撃系の魔法を使って来たりな。


「びりびり」


「ということで、ちゃんとした準備が大事なんだ」


 俺はステータスを開き、スキルポイントを割り振っていく。


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 ■個人情報

 明石 優(アカシ ユウ)

 年齢:25歳 性別:男

 所属:F・ノーツギルド

 ランク:C

 スキルポイント残高:5,500(-8,000)

 スキルポイント獲得倍率:---%

 口座残高:3,910,800円

 称号:ドラゴンスレイヤー


 ■ステータス

 HP  :500/500

 MP  :200/200

 攻撃力 :300(+100)

 防御力 :300(+100)

 素早さ :150

 魔力  :100

 運の良さ:100


 ■装備/スキル

 武器:チタンブレード+(100×5回)

 防具:チェインメイル+(100×5回)

 特殊スキル:ヒールLV3(100×5回)、攻撃強化技10%(100×3回)

      スタン回復(50×5回)、マジックシールド(100×2回)

 固有装備:増幅の腕輪+

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 ■個人情報

 アカシ リーサ・レンフィード

 年齢:11歳 性別:女

 所属:明石 優のパートナー

 ランク:H(ダンジョンバスター見習い)


 ■ステータス

 HP  :300/300

 MP  :300/300

 攻撃力 :200(+100)

 防御力 :300(+100)

 素早さ :200

 魔力  :200

 運の良さ:100

 武器:チタントンファー(100×5回)

   チタンボウガン(50×10回)

 防具:ファイバーブレザー2+(100×5回)

 特殊スキル:ファイアLV3(100×5回)、ブリザードLV3(100×5回)

 固有装備:増幅の腕輪+

 ======


「ふおお、強い!」


 俺が前衛と補助魔法、リーサが後衛と攻撃魔法という構成だ。

 今回は現金報酬が美味しいため、スキルポイントは赤字を許容してぜいたくに使っている。


「ユウ、”固有装備”は使わないの?」


「ボス戦までは温存だ。 切り札だからな」


 固有装備はダンジョンをクリアしても消えないが、1ダンジョン当たりの使用回数が決まっているものが多い。

 ボス戦で使うのがセオリーだ。



 オガオガー!


「さっそくお出ましか」


 さすがはCランクダンジョン。

 雑魚敵がオーガーである。


「リーサ、牽制を頼む!」


「うんっ!」


 リーサの射撃を皮切りに、オーガーとの戦いが始まった。



 ***  ***


「ふう、思ったより敵が多いな」


 俺は回復魔法で自分とリーサのダメージを治療する。

 ダンバスアプリに内蔵されたダンジョンバスターの”保護”機能は昔に比べて格段に進化しており、鎧の防御力を超えるような大ダメージを喰らわない限り極端な痛みを感じることは無い。


「あいたた、トンファーの振り過ぎで腕がしびれたよぉ。

 ユウ、また攻撃回数を使いきっちゃった……」


「俺もだ」


 雑魚敵の数が多く、俺もリーサも武器の使用回数と攻撃スキルの使用回数を早々に使い切っていた。


「チャージしておこう」


 攻撃やスキルの使用回数はスキルポイントを追加チャージすることで回復できる。


「そろそろボスがいるはずだが……」


 最上位ランクのダンジョンを除き、ダンジョンは基本的にワンフロアで構成される。

 ダンジョンに入ってから10回近くの戦闘をこなしており、このダンジョンが大きめのサイズだったとしてもそろそろ打ち止めだろう。


 ヴンッ


「!!

 あぶないっ!」


 通路の先はL字型にカーブしている。

 その奥から強大なモンスターの気配を感じた俺は、リーサを抱いてバックステップする。


 バチバチッ!


 ついさっきまで俺たちが立っていた場所に、まばゆい電撃が直撃した。


 ズズン……


 地響きとともに現れたのは、全身に稲妻を纏わせたトロール。


「ちっ、やはりいたか!」


 電撃を操るサンダートロール、とも呼ぶべきオリジナルボスだ。


「フェリナ! モニターを頼む!」


「リーサ! アイツの電撃は”貫通攻撃”の可能性がある!

 決して奴の間合いに入るなよ?

 後衛から俺を支援してくれ!」


『承知しました!』


「わかった!」


 異世界では背中を預けて戦った仲である。

 俺の指示にトロールから大きく距離を取るリーサ。


「行くぞリーサ!」


「うんっ!

 ファイアLV3!!」


 ゴオオッ!


 俺の合図と共にトロールが激しい炎に包まれる。


 ウオオオオンッ


「効きが薄いか……!」


 ヤツに纏わりついている稲妻が、防壁のような役割を果たしているのだろう。

 爆炎魔法のダメージが相殺されている。


「たあっ!」


 トロールを包む炎が消えないうちに、俺はヤツの懐に入るとチタンソードで切りつける。


 ドシュッ!


 ガアアアアッ


 苦悶の叫びを上げるトロール。


 まだだっ!


 ドシュッ、ドシュッ!


 2度3度と切りつけるが、致命傷には至っていないようだ。


「ユウ!」


 いったんトロールから間合いを取る。


「たぶん、あそこ!」


 てててっと走り寄って来たリーサがトロールの頭を指さす。

 額に黄色の宝玉が埋め込まれている。


 バチバチッ


 トロールの怒りに反応したのか、電撃のスパークが宝玉に纏わりつく。


「”外”から電気をもらってる!」


 見る間にトロールの傷が塞がっていく。


「な!?」


 リアルタイムでダンジョンの外からエネルギーを補充し、回復を!?

 いくらオリジナルモンスターとはいえ、そんな個体聞いたことがない。


 オオオオオオオンッ!


「くっ!」


 チタンブレードの攻撃回数はあと1回。

 再チャージしてもいいが再生スピードが速く、倒しきれないかもしれない。


「よし、アレを使うか!」


「”攻撃強化技10%”!」


 ヴィイインンッ


 俺のチタンブレードとリーサのボウガンが紅く光る。


「”増幅の腕輪+”!」


 キイイインッ


 身に着けた腕輪が白く光る。

 ここが固有装備の使いどころだ。


『全ステータスが……+30%!?

 す、すさまじい効果です!』


「ま、マジかよ」


 フェリナに鑑定してもらった増幅の腕輪+の効果は、基礎ステータスの割合強化。

 強化度合いは使うたびにランダムとのことだったが……30%という数値は超破格だ。


「ユウ、マナの流れがあの宝玉に集中してる。

 宝玉を割れば、倒せるよ!」


「! リーサ、分かるのか?」


「むふ~」


 少し知識を取り戻したことで、魔法のスキルが復活したのかもしれない。

 大魔導士リーサが言うのなら本当だろう。


「ヤツに肉薄する!

 ボウガンで援護を!!」


「うんっ!!」


 だっ


 俺はトロールに向かって突撃する。


 リーサの放つ矢が、的確にトロールの手足に命中し動きを鈍らせる。


「くらえっ!」


 俺は大きくジャンプすると、チタンブレードを両手で持ち額の宝玉に突き刺そうとする。


 ガアアアッ!


 バチイッ!


「ぐううっ!?」


 宝玉から放たれた電撃が腹に直撃する。

 鎧では防げない貫通攻撃にHPをだいぶ持ってかれてしまうが……。


「これで……終わりだっ!」


 ガッ……パキイイイイインッ!


 ガラスが砕けるような音がダンジョンに響きわたり……。


 ウオオオオオオオオンッ


 雄叫びと共にサンダートロールは光の粒子になって消えたのだった。


『残りのステータスを清算し、スキルポイント320が返却されました。

 現金報酬1,800,000円 スキルポイント報酬:9,200(獲得倍率:230%)』


「ユウ、大丈夫!?」


 まだ全身に残る痺れのせいで膝をつくと、心配そうに駆け寄ってくるリーサ。


「いてて……ちょっと痺れただけだから心配すんな。

 だが、手ごわかったな……」


「ユウ~」


 抱きついてきたリーサの頭を撫でながら、俺はフェリナに通信をつなぐ。


『モンスターの情報を収集しました。

 B~B+ランクのオリジナルモンスターです。

 それに、”ダンジョンの外”からエネルギーを補充するなんて……』


 そう、俺の知る範囲では聞いたことのないタイプだ。


『ラボの方にも問い合わせてみます。

 体にダメージが残るかもしれませんから、今日はゆっくり休んでくださいね?』


「ありがとう、フェリナ」


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 ■個人情報

 明石 優(アカシ ユウ)

 年齢:25歳 性別:男

 所属:F・ノーツギルド

 ランク:C

 スキルポイント残高:11,200(+9,200)

 スキルポイント獲得倍率:230%

 口座残高:5,710,800円(+1,800,000)

 称号:ドラゴンスレイヤー

 ======


 戦いに集中しすぎてスキルポイント獲得倍率を気にする余裕がなかった。

 報酬は美味しかったが、検証はもっと低ランクダンジョンでした方がよさそうだな。


 くらっ


 そう思った瞬間、僅かな立ち眩みを感じる。


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 ■個人情報

 @石 優(アカシ ユウ)

 年齢:25歳 性別:&

 所属:F・ノーツギルド

 ランク:C

 スキ@ポイント残高:11,200(+9,200)

 スキルポイント獲得倍率:250%

 口座残高:5,710,*)0円(+1,800,000)

 称号:ドラゴ?スレイ&%ー

 ======


 ヴンッ


 ステータスが僅かにぶれ、一部が変な表示になる。


「……なんだ?」


 だがそれも一瞬で、すぐに正しい表示に戻った。


「ユウ、どうしたの?」


「大丈夫だ、すぐ行く」


 電撃を食らったからバグったのだろう。

 そう判断した俺は、リーサと一緒に家路につくのだった。

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