第18話 SSランカーと陣の屈辱

「シロー・ヤマダとレミリア夫妻ですね。

 海外での大型案件が片付いて、日本に帰国されたそうです」


「当面は日本におられるそうですよ」


 フェリナの言葉に頷く。


 俺たちのギルドが参加する事になった大規模プロジェクト。

 そこで一緒に仕事をすることになるSSランクのダンジョンバスター。


「やべぇ、全てのダンバスの憧れだよ」


 日本初の世界ランク1位。

 世界で初めて鉱山マインを発見。

 ”災厄”と言われたSSランクダンジョンの討伐……などなど、数々の伝説を持つ。


 シローさんは30代半ば、レミリアさんは20代後半でともにダンバス初期から活動している。


「しかも……なんだよなぁ」


「ふえ? 転生者ってこと?」


「ああ」


 興味が湧いたのか、ベッドから降りて来たリーサを抱きしめる。


「シローさんは俺が転生した世界とは別の世界に転生して。

 レミリアさんを恋人として異世界から連れて帰ったらしい」


「ろまんちっく!!」


 リーサがこちらの世界に転生した10年前。

 以前説明したように、異世界からの転生者の出現で日本中が大騒ぎになっていた時。


『ウチのレミリアも転生者なんだ』


 とカミングアウトしたのがシローさんだ。

 当時から日本トップクラスのダンジョンバスターだったシローさんが動いてくれたことで、他の転生者も名乗り出てきて、リーサの戸籍も認められた。


「実は一度だけ会ったことはあるんだけど」


 異世界からの転生者にも戸籍を与える、そう発表された時にリーサの保護者として呼ばれた俺。

 あの時はまだ15歳だったし、リーサも転生したばかりで赤ちゃんの時。


 少し言葉を交わしただけなので、向こうは覚えていないだろう。


「でも、楽しみだな」


 SSランクのダンジョンバスターを間近で見れることも楽しみだけど、ある意味俺とリーサの恩人と呼べる人。


 かつてない大型案件に緊張もするけれど、楽しみの方が大きい俺なのだった。


「それより現場まで少し遠いなぁ……やっぱ車を買うか!」


「はいはいはい! リーサ4WDのSUVがいい!

 出来たら赤いやつ!!」


 さっそくタブレットで自動車メーカーのサイトを開くと、気になるクルマをアピールするリーサ。


「ふふっ、燃料費はギルドの経費で落としてもらっていいですよ」


「なんというホワイト!?」


 明石家には間もなく車がやってくることになりそうだ。



 ***  ***


「ふ、ついに掴んだな。

 大型国家プロジェクトである”大阪湾海底トンネル工事”へ参画だ!」


 東兵庫第25ギルドの執務室でギルドマスターである陣は喜びに打ち震えていた。


 陣の手元にあるのはギルドの審査合格書。

 公共案件に参加するために必要なものだ。


 複数のギルドを運営する大手企業の孫請けではあるが、参加ギルド一覧に名前が載る。


「儲けは少ないが、今後に繋がるからなぁ!」


 この実績があれば、地元の自治体などから仕事を受けやすくなる。


 ピッ


 元請けの企業から、ダンジョン警備指示書が届く。


『東兵庫第25ギルド殿

 担当エリア:B及びC工区

 担当時間:平日および日曜18時~24時』


 このような巨大工事現場では、いつどこでダンジョンが出現するか分からないため、24時間交代での警備が求められる。


「……まあ仕方ねぇ」


 我がギルドはこの規模の案件に初の参画である。

 皆が働きたくない時間を担当してこそ、アピールになる。


『特記事項:Cランク以上のダンジョンを発見した時は触らず工事本部に通報の事

 勝手にダンジョンを攻略することを固く禁ずる』


 つまり、美味しいダンジョンには触るなと言う事だ。

 下請けの悲哀が身に染みる。


「はっ、本部の方々はどんなメンツで……」


 大体が大手企業傘下のギルドか、”コネ”を持ったギルドだ。

 自分のギルドにはまだそんなものはない。


 忌々しげにリストを開く陣だが……。


「至高のシローに理のレミリア、だとぉ!?」


 先頭に表示された名前に驚愕する。

 少し前に帰国したとニュースになっていたが、この案件に参加していたとは。


 どこかで顔を売る機会があるかもしれない。

 そう計算した陣はリストを進めていくのだが。


「…………はぁ!?」


 信じられない名前を見つけて驚愕する。


 明石 優と娘のリーサ。


 陣が首にしたアイツがいつの間にかCランクになり、サブチーフのダンジョンバスターとして記載されてるではないか!


「オレのギルドが、コイツらの……雑用係なのか?」


 上位ランクのダンジョンはチーフクラスのダンジョンバスターが狩る。

 陣のギルドはいわば彼らのための掃除役。


「ぐっ……ぐぐぐぐっ」


 何故オレが……屈辱に震える陣なのだった。

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