第6話 ギルドをクビになる

「……おはようございます」


 ドアをノックし、ギルド長室に入室する。


「お前も知ってるだろ?」


 ギルドマスターの陣さんは、こちらを見る事すらしない。

 ギラリと光る高級腕時計が俺の存在を拒絶しているようだ。


「ギルド関係の法律が変わり、1つのギルドに所属できる人数の制限が課せられた」


 そういえばネットニュースでそんなニュースを見たような気がする。


「我がギルドに所属するダンジョンバスターは、上限の30人。

 この数字が意味する事が底辺のお前に分かるかなぁ?」


 この時初めて陣さんがこちらを向く。

 眼鏡の奥から覗く目は、道端に落ちているゴミを見るようだ。


「ウチのギルドに、いまさらHランクダンジョンに入り浸るような無能を雇う余裕はねぇ」


「まっ……!」


 待ってください、俺は凄い”ユニーク”を手に入れたんです!

 Hランクダンジョンでも何百ポイントものスキルポイントが貰えるんです!


 そう言おうとして思いとどまる。

 底辺ダンバスな俺を気にせずギルドに置いてくれた先代。


 その先代をなかば陥れ、ギルドを陣さんは、先代のお気に入りだった俺の事をことさら嫌っていた。

 ギルドで請け負ったダンジョン退治を俺にだけ回さなかったり、嫌がらせを受けたことは一度や二度ではない。


 荒唐無稽な”ユニーク”の事を言っても、信じてもらえないだろう。


「先ほどCランクのダンジョンバスターから加入したいと申し出があった。

 つまり、お前はクビだ」


「さっさと出ていきな」


 ガチャン!


 あっさりとギルド長室を追い出され、俺は”無所属”になった。



 ***  ***


「やばい」


 歩いて自宅に向かいながら、俺はダンバスアプリを開く。


 ======

 ■個人情報

 明石 優(アカシ ユウ)

 年齢:25歳 性別:男

 所属:無所属

 ランク:-

 スキルポイント残高:5,820

 スキルポイント獲得倍率:お@な&%

 口座残高:915,800円

 ======


 スキルポイントと現金の残高に余裕はあるが、問題はダンジョンバスターのランクだ。


 日本の法律ではダンジョンバスターはどこかのギルドに所属することが義務付けられており、無所属のダンバスは”野良”となる。

 装備を買う事も出来ないし、スキルポイントの取引も出来ない。


「”闇”に手を出すわけにはいかないし……」


 もちろんこれは正規ルートの話で、スキルポイントや装備を取引可能なブラックマーケットは存在する。


「そんなの、リーサに顔向けできないじゃないか」


 犯罪に手を染めるパパは絶対にNGである。


 ……とはいえ、貯金をはたいても半年分くらいの生活費しかない状態だ。

 早く次のギルドを見つけなくてはいけないが……。


「うっ……!」


 ダンバス専用の求人サイトを開いた俺は、思わずうめく。

 ギルドの所属人数に制限が出来たせいなのか、募集要項が厳しくなっている。


「こちらはCランク以上?。

 要Bランクのダンジョンクリア実績?」


「……無理だ」


 Sランクダンジョンのクリア実績のある俺だが、あれは”非公式”の成果、フェリナさんの立場を考えると公にはできないだろう。


「やべぇ……詰んだかも」


 バイトするしかないのか……俺は頭を抱えながら家に帰るのだった。



 ***  ***


「そんなの、わたしが食べさせてあげるっ♪」


 家に帰ると、天使がいた。


 学校から帰ったばかりのリーサが、ランドセルを背負ったまま満面の笑みでこう言ったのだ。


「わたしは1年間、ユウの”見習い”だから」


「そうか……!」


 後進の育成という名目で、”見習い”ダンバスには迷宮掃除人管理局から定期的にダンジョンの”斡旋”がある。


「ユウはほんとうに凄いひと。

 絶対その間に良いギルドが見つかるよ」


「リーサ……!」


 何とよくできた娘なのだろう。

 リーサにばかり甘えるわけにはいかない。


 求人サイトがなんだ!

 色んなギルドに直接俺を売り込んでやる!


 さっそく隣町にあるギルドからだ。


 ピリリリ


 家を飛び出そうとすると、タイミングよくスマホが着信音を奏でる。

 このアイコンは……フェリナさんだ。


『ご無沙汰しています、ユウさん。

 実はこの度、ノーツ家で新たにダンジョンバスターギルドを立ち上げることになりまして。 ぜひユウさんをスカウトしたいのですが、大丈夫でしょうか?』


「んなっ!?」


 ノーツ家はダンジョンバスターの仲介業で業界トップのシェアを持つ。

 その娘であるフェリナさん直々のスカウトとは……!


「ふふっ、ほらね。

 ちゃんと見てくれている人はいるんだから」


 柔らかな笑みを浮かべるリーサにサムズアップ。

 さっそく彼女の元を訪れることにしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る