第7話 ホワイトギルドへ移籍する

「このたびは、急なスカウトに応じて頂きありがとうございます」


「は、はい。

 こちらこそよろしくお願いします!」


「お、お願いするますです」


 緊張のあまり、声が裏返る。

 ぴょこんと一礼したリーサも口調がおかしくなっている。


「ふふっ、そんなに緊張しなくて大丈夫ですから」


 グレーのスーツをぴしりと着込んだフェリナさんは、俺達の様子を見て柔らかく微笑む。とても先日のSランクダンジョン騒ぎでアワアワしてた彼女と同一人物には見えない。


「こんなオフィスを与えられても、しょせんわたくしはお飾りですもの」


「……え?」


 そうなのだろうか。


 ここは関西の一大ターミナルである大阪駅を見下ろす巨大ビル。

 その35階に広大なオフィスを構えるノーツ財閥。


(ノ、ノーツ財閥ってこんなにデカかったのか……)


 フェリナさんのギルドと契約を結ぶために指定された住所を訪れた俺とリーサは5分ほどぽかんとビルを見上げていたくらいだ。


「マクライド……義父(ちち)の方から急にギルドを運営しろと言われまして。

 わたくしも管理局から引っ越してきたばかりなんです」


 ……大財閥の娘ともなると、やはり色々ありそうだ。


「……こんなお堅い話はおしまいにして、契約の話に参りましょう♪

 お茶とケーキもありますよ?」


 少しだけ憂いのある表情を浮かべた後、一転笑顔になるフェリナさん。

 テキパキとお茶の準備をしてくれる。


「ケーキ……!」


 これは噂のギンジマロール!

 漂う香りを聞きつけたリーサの耳と尻尾がぴくんと動く。


 ……貧乏であまりお菓子を買ってやれなくてすまん。


「そちらがリーサさんですね、なんて可愛らしい」


「そうでしょう?」


「はうっ」


「「ふふっ」」


 口の端にヨダレを垂らしかけたリーサのお陰で、和やかに契約手続きが始まったのだった。



 ***  ***


「え、ノルマもランク縛りもないんですか?」


「はい、わたくしのギルドは利益を目的としておりませんので。

 ユウさんの好きなように活動して頂ければ」


「マジですか」


 しかも、ギルドの取り分は10%……とんでもない好待遇である。


「ユウさんの活動データをウチの研究所ラボで解析させていただくことが条件になりますが」


「なるほど」


 俺の”ユニーク”はいまだ分からないことだらけだ。

 業界でもトップクラスと噂されるノーツの研究所で調べてもらえるのなら、願ったりかなったりだ。


「……いかがでしょう?」


「はい、むしろこちらからお願いしたいくらいです」


「よかった!」


 電子契約書を交わし、契約手続きが完了する。


 ======

 ■個人情報

 明石 優(アカシ ユウ)

 年齢:25歳 性別:男

 所属:F・ノーツギルド

 ランク:F

 スキルポイント残高:5,820

 スキルポイント獲得倍率:お@な&%

 口座残高:915,800円

 ======


 さっそく俺のダンバスアプリの情報が書き換えられる。


「あと娘を……リーサをパートナー登録させてください」


「はい、大丈夫です」


 見習い期間のダンジョンバスターは30人の制限外となるのだが、フェリナさんのギルドに所属しているのはまだ俺たちだけ。

 特に問題なく承認される。


「よろしくお願いします。 フェリナさん」


 少し緊張しつつも、ケーキのおかわりを貰おうと、すすすとお皿を差し出すリーサ。

 こう言うちょっと図太い所もリーサの魅力だ。


「ふふっ、もっと楽に話して構いませんよ?」


 そんなリーサの様子にフェリナさんも好感を抱いたようだ。

 ケーキのおかわりを卓上冷蔵庫から取り出してくれる。


「それじゃ……」


 とてててっ、と彼女に近づき手を握るリーサ。


「よろしくね、お姉ちゃんっ♡」


「……はうっ」


 あ、フェリナさんが鼻血を吹いて倒れた。

 ピンと伸びていたエルフ耳がぴくぴくしている。


「えへへ~♡」


 追撃のすりすり攻撃を敢行するリーサ。

 他人には基本的にクールなリーサだが、たまに見せるあざとさに耐えられる者は地上にいないだろう。


「リーサ、そのくらいにしとけ?」


 あまりに急速にリーサ成分を摂取すると、オーバードーズの危険がある。

 フェリナさんが落ち着くまでに、10分以上要したのだった。



 ***  ***


「それじゃ、これからよろしく、フェリナ」


 結局フェリナさんの方が年下(19歳)という事で、敬語は使わないでとお願いされた。


「はい、ユウさん」


 にぱっと浮かべた満面の笑みからは、年相応の幼さも感じられる。


「フェリナは……”ネイティブ”なんだね?」


「はい」


 ダンジョンが出現し始めた後、生まれるようになったエルフや獣人などの亜人族。


 フェリナはその第一世代という事になる。


「幼少期には色々ありましたけど」


 ダンジョンの事もあり、大混乱に陥っていた世界。

 ファンタジー世界の住人としか思えない種族が生まれるようになったこともその混乱に拍車をかけたと聞く。

 最初の方は色々な差別があったそうだ。


「フェリナお姉ちゃん、こんなに綺麗なのに」


「ふふ、ありがとうリーサちゃん」


 リーサはそれらのゴタゴタの後に生まれたので、その時代を知らない。


(まあリーサは色々特別なんだけど)


「ひとまず、好きに活動してもらって構いませんので。

 数日に一度のペースでミーティングをしましょう」


「……また遊びに来るね♡」


「はうっ!?」


 またリーサがすりすり攻撃を仕掛けている。


「……ほどほどにな?」


 とりあえずこれからの方針だが……ダンジョンのランクを上げつつ色々試してみるのがいいだろう。


「帰る前に……ウニバのナイトパレードを見に行こうか!」


「!! やった~、ユウだいすき!!」


 そのまえに、まずは家族サービスである。

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