第二話〈千景の危機〉

二話


 泰正は英心にそっと抱きしめられて、瞳を閉じた。


 ――最近、英心は私を頻繁に求める。


 おまけに監禁されているも同然だった。


 あんなに、人と対話をするようにと言われていたのに、今はなるべく人とあわず、外にでるなと言われているのだ。


 泰正を頼る者達は、英心や、晴明が代わりに請け負っているらしく、泰正は蚊帳の外である。


 ――貴族が絡んでいるのは、明白だ。


 不満は募るが、英心を信じて、しばし様子を見ようと考えていた。




 英心は己の屋敷にて、清太呂とあっていた。

 そもそも、彼が“泰正が貴族に狙われている”と、告げたのだ。

 英心は、結縁に結界を張らせると、向かいあって座り話を進めた。


「それで、泰正をどう誘おうと目論んでいるのだ?」

「私が探ったところ、やはり陰陽師としての役目を果たすようにと、話を持ちかけるようだ」

「泰正には、誰にもあわぬように伝えてはいるが、私も四六時中一緒にはいられない」


 蓮は久遠に魔鏡師としての指南で忙しく、外出が多い。

 道満は気まぐれで、何をしでかすかわからないし、晴明も奴には困り果てていた様子だった。


 それに式神の使役にも、限界はある。


「千景殿に、しばらく屋敷にいてもらうのは?」

「……」


 その発言を咎めるべく、睨みつけると、清太呂は押し黙った。

 英心はため息をつくと、顔をふる。


 ――いつまでも、泰正を閉じ込めるわけにはいかぬ。


 皆に協力を仰ぎ、よからぬ事を企む貴族達を掃除しなければ。



 その頃、泰正は誰かが部屋の前にたたずむのに気づいて、戸口に向かって声をかけていた。

 開かれた戸口から、童が顔を出した。

 手には文が握られており、そっと泰正に差し出す。

 この童は、晴明の式神の一部であり、普段は都の掃除を担っている。


 泰正は文を広げて目を通し、驚愕に身を震わせた。


「そんな、まさか」


 文には、千景を預かった旨と、ある場所へと誘う言葉が記されていた。


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