第十話〈久遠の想い〉

 三人は、それぞれ恋文の返事を書く事に決めた。

 どう届けるかを悩んでいたのだが、どこからともなく、鷹の姿をしている晴明の式神が庭に降りたち、文を託せたのでひとまずは安心だったが……次なる出来事を想像すれば、皆、寝付けるはずもない。



 久遠は、布団に横になっていたが落ち着けなくて、とりあえずその上に正座して座っていた。

 蝋燭の明かりは消している。

 一応、この時代の事情は頭に入っているので、驚きはしたが、拒絶するつもりはなかった。


 ――あいつ、何を考えてるんだ!?


 あんな手紙を寄越すだなんて、晴明に説得されたに違いない。


 瞳を閉じて呼吸に集中していると、かすかな足音を耳が拾った。


 ――まさか……!


 急激に心音が速まる。

 戸口がゆっくりと開かれ、月明かりを浴びた彼が姿を表す。


 うっすら見えた顔は、確かに蓮であった。


「先輩? 眠ってないんですね」

「……っあ、ああ」


 思わず返事をすると、蓮が傍に近寄るので、布団の上から這い出る。

 蓮が手を伸ばしたので、軽く振り払うとため息をつかれた。

 ため息をつきたいのは、久遠の方だ。


「どういうつもりだ? あの手紙!」

「僕の想いをそのまま書きました」

「……そんな、わけあるか! あ、あんなラブレターだぞ!?」

「はい。そうですよ?」

「なっ」

「先輩、良いって返事をくれましたよね……?」

「ち、近寄るな!」


 そう叫ぶと彼は拗ねた。

 久遠は蓮が理解できない。


 ――僕を嫌がっていたくせに! いったいなんなんだ!


 蓮が口をとがらせて迫ってくる。


「だいたい僕が危険をおかしてまで、この場所にやってきた理由を考えればわかるんじゃないですか?」

「わ、わかるか! お前の気持ちなんて分かりたくもない!」

「本当に余裕がないですね……これじゃあ、本番は駄目かなあ」

「ほんばん、だって?」

「じゃ、これなら良いですか?」

「!」


 ズイッと顔を突きつけられて、固まった。

 目を閉じて……明らかにキス待ちだ。


 ――あああ!! 


 久遠はもうどうにでもなれ! と、勢いよく唇を押し付ける。


 ぶに!


「「むぐう?」」


 お互いに間抜けな声を上げて目があうと、さっと顔を離す。

 久遠は胸を手で押さえて呼吸を整えた。


 ――い、いま、したよな? 


「勢いあり過ぎですよ、先輩のキス」

「や! やかましい!」

「これ以上は、無理ですか?」

「……っ」


 月明かりが照らし出す生意気な後輩は、困り顔だというのに、やけに雄の顔をしていて……目が離せなくなる。


 ――な、ながされないぞ!


 そっぽを向くと吐き捨てた。


「当たり前だろ!」

「……ですよね、すみません」


 申し訳なさそうに謝るくせに、後ろからだきしめてくる。

 久遠はもう何も言えず、ただ黙って蓮の温もりを感じていた。


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