第二話〈隠せぬ嫉妬〉

「英心殿、こちらで休まれよ」

「す、すまない」

「なんの。随分と顔色が悪い。まずは眠られたほうが良い」 


 そうは言われても、泰正が気がかりでとても寝る気になどなれない。

 意識が朦朧としてはいたが、泰正があのふざけた男によって、異空間に閉じ込められたのは理解している。


 晴明に頼み込み、何があったのかを訊いてもらう事にした。

 空腹は覚えないが、喉の乾きがひどい。

 察した男子の式神から、水で満たされた竹筒を手渡され、勢いよく飲み干す。

 軽くむせながらも永響について、泰正が捕らわれた事実について語る。


 晴明は神妙な面持ちで耳を傾け、息を吐くと声をかけてきた。


「私に考えがある」

「はい」

「道満、盗み聞きしているならば入って来い。お前にも協力してもらおう」


 呼びかけに答えた道満が、戸口を開けて顔を出す。

 眉間に皺を寄せているが、どうやら断りはしないらしい。


 晴明から話された術について、英心はいささか複雑な心境となった。

 泰正をすぐに救い出さず、気配を消して様子を伺えというのだ。


 英心は納得できず口をとがらせる。


「何故だ? 泰正はあんな得体のしれぬ男の傍にいるのだぞ!」

「おや。嫉妬かな微笑ましい」

「んなっふ、ふざけた事を!」

「はははっ」


 英心がついむきになると、晴明はわざとらしく笑い、道満はいやらしく笑う。


 ――ま、まったく……! かまっていられん!  


 ため息混じりに語気を強めて吐き捨てる。


「晴明殿の話す、その方法とやらを早く教えてくれ」

「そうだなあ……」


 そっと片手を翳した晴明の手に、いつの間にか茶色の衣が乗っていた。

 それを、ふわりと頭から被せられる。

 何やらくすぐったくて、鼻がむず痒い。


 ――動物の毛でできているのか……?


 一体なんの毛であろうか。

 晴明は微笑を浮かべるだけで、答えてはくれなかった。


 結局、仮眠をとった後に、晴明によって開かれた異空間に渡る流れとなる。

 巨大な鏡から異空間に繋がるという光景は、なかなかに幻想的であった。


 言われた通りに衣を頭から被り、無言で晴明と道満に視線を送ってから、鏡に向かって足を踏み入れた。


 ――決して声を出さず、息をひそめ、様子を見守ること。


 英心の心身が限界になる前に己の鏡を使って、異空間から晴明に合図を送り、引きずり出してもらう。


 ――よし。


 異空間に足をつけた英心は、目の前の光景に口をあんぐりと開いた。


 ――ガラクタの、山。


 先には、壊れた鳥居が見える。

 泰正を思い、鳥居の方角へいると感じて歩を進めた。


 程なくして、建物が見えた。

 立派な屋敷が、暗闇にぽっかりと浮かび上がり、淡く光っている。

 門は開け放たれており、壊れていた。


 英心は警戒しつつ、門をくぐり、泰正を捜し始めた。



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