三章完結〈すれ違う想い〉



 泰正は、目の前に広がる光景に唖然とした。


「なんだこれは」


 ガラクタの山が現れたのだ。

 破壊された鳥居や、砕けた岩、汚れた人形やてまり。

 そんな捨て置かれた物が、負の空気をまとう場所に、泰正は立っていた。

 永響は、泰正の肩を抱いて優しい声音で語る。


「ここは、棄てられた存在が集う場所だ。想いも同様に」

「想い……?」

「例えば、あそこの男子を」


 手で示されたのは、破壊された鳥居の前であり、確かに男子が佇んでいた。

 狩衣姿の男子には見覚えがある。

 その顔をじっくりと観察した泰正は、驚愕した。


「わ、私なのか」

「そうだ。報われぬ想いを抱いた、幼き日のお前だ」

「……っ、その、想いがなぜここに」


 永響はゆっくりと泰正の手を引いて、男子の前へと進む。

 幼い泰正は俯いて何も見ようとしない。

 泰正の胸中は切ない想いに囚われる。


 ――英心に勝てない、英心にかまわれない……師匠に認められない、父上と母上の期待に答えられない。


 大人になるにつれて、感情の制御を覚えた泰正は、暴走することもなく、鬼神を抑え込んでいた……だが、結局、都を混乱に陥れてしまった。


 英心を巻き込んで……。


「や、泰正……!」

「!」


 呼び声に周囲を見回す。

 彼は、少し先に立っていた。


「英心!」


 虚ろな目で泰正を見据えて、何事かを呟いているのが聞こえてくる。

 永響から離れ、英心の傍に歩み寄り、声をかけた。


「大丈夫か? 怪我はないか……?」

「……せ、ない」

「英心?」

「おまえ、を、わたしは、愛せ、ない」

「……っ」


 泰正の胸はキュッと締付けられる。

 唇が震えて、拳を握りしめたら、幾分、落ち着けた。

 瞳を伏せてどう答えるべきかと悩む。


「泰正、私ならお前を愛してやれる」

「……永響」


 振り返ると、彼は両腕を広げていた。


「私と共に在るならば、異空間を閉じよう」

「異空間を……?」


 ――それは、都と異空間が切り離されるという意味であろう。


 数多の魑魅魍魎が、都になだれ込むのを防げるのだ。


 泰正は頷いて、英心に向き直る。

 彼は冷たい瞳で見つめていた。


「……後は、頼む」


 英心から離れて、永響の元に戻り、手を掴んだ。


「泰正、嬉しいよ」

「永響」

「お前を思う、千景の祈りが、私を導いたのだ」

「千景が」

「さあ」

「……」


 泰正は永響に抱きしめられて、瞳を閉じる間に、英心が背を向けて、立ちさる姿を見送った。


 ――英心……いっときでも、共に過ごせて幸せだったぞ……。


 想いと共に、涙が溢れ出た。


〈三章【変わる世界】了〉

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