第七話〈蓮の秘事〉

 蓮は佐々斬に監視される生活を余儀なくされていた。

 久遠も一緒だが、蓮よりも自由に行動できている。

 帝は佐々斬を通して蓮の正体を探ろうとしているらしい。

 回りくどいやり方には、辟易してしまう。


 蓮は久遠とどうしても話しがしたいので、佐々斬の目をごまかす為、忠行からもらった札で、気配を消した。

 屋敷の奥の部屋で休んでいた久遠を見つけて滑り込んだ。


 久遠は笑いながら蓮に向き直る。


「なんだ蓮君か。なに、僕と遊びたいのかなあ?」

「からかわないでください! あんまり時間はないので、さっと話しますよ」


 久遠を見下ろす形で蓮は、たまりにたまった感情を言葉に変えた。


「どうして、ここに来ちゃったんですか? “学校の転移システム”には僕以外は触れる事もできないはずなのに!」

「フン。お前は僕を見くびりすぎだ」


 蓮はため息混じりに話しつづける。



「あのシステムはまだ未完成で、僕が確かめるまでは誰も使わないという約束だったんです」 

「僕も携わっていたのに、解せないなあ」


 久遠は陰鬱な目つきで蓮を見た。


 “高校”に入学してから、久遠のいびりはひどくなる一方で、先生達は何かと蓮を気にかけてくれてはいたが、結局無意味で、歯止めは効かなかった。


 蓮はあの運命の日を思い出していた。


 学校は国から支援を受けて、時空管理システムの維持と監視を担っている。

 システムには蓮の能力が不可欠であり、定期的に研究室にて実験やら、時空の監視を行なった。


 蓮の能力は血筋からくるもので、久遠も同等の能力を持っている。

 だが、その特異性故に、久遠は敬遠されていたのだ。


 学校側はあくまでも、蓮をシステム管理者として推薦しており、それが気に食わない久遠は、システムを自分の物にしようと目論み、学校内で噂が流れていた。


 蓮は、性格上、他者とは適切な距離をとり付き合う事が多く、ズカズカと人の心の内に入り込む久遠は苦手だ。


 ある日、システムを監視していた先生に呼び出され、ある平行世界の異変を捉えたと話され、驚く。


「それは、パラレルワールドですか?」

「差異はあるが、同じと考えて構わん……お前の力で干渉してみてくれないか」

「はい、分かりました」


 蓮は、早速狩衣に着替え、システムと繋がった陣の中で意識を集中させる。

 すると、誰かの声が脳内に響いてきた。


(たすけて……さまを、あの時の……泰正様を……)


 ――やすまさ、さま?


 強烈な引力の中、蓮の目の前に広大な世界が広がった。

 建物の形状は見覚えがある。

 平安時代……平安京?


 蓮の意識は引きずり戻され、目を開けると、先生に報告した。

 渋ってはいたが、認めざる負えまいと、平行世界の平安京を監視下に置くこととなり、蓮はシステムの傍に常駐するようになった。


 システムは、蓮が認識した平行世界の平安京の位置を記録しており、長期的にズレが生じなければ、政府に報告する事となる。


 高校を卒業したら、システム管理者として働くつもりだったので、研究室にこもり、平行世界を監視するのは良い機会だと思っていた。


 それから三月後、研究室に侵入した者がいると警告があり、蓮は仮眠室から、メインルームへと走り込んだ。

 そこには、久遠が佇み、今まさに、転移装置を使おうとしていたので、止めに走ったが、間に合わず、笑う久遠は時空の中に溶けこんでしまった。


「先輩! なんで!」


 戻れない可能性が高く、転移中に命を落とす可能性もあるのに!

 蓮はかけつけた先生に事情を話し、しばしの間、研究室は立ち入り禁止となり、政府に経緯を報告した結果、システム自体の破棄と研究の凍結が決まった。


 世界には正式に発表していない研究だったのもあり、火種を消したいのだろう。

 久遠は行方不明として処理され、警察も手を出せなくなった。


 蓮は、久遠を助けに行きたいと考え、システムを使う計画を考えた。


 平行世界の平安時代にて、平安京でとらえたあの声や、時空の記録の詳細を、蓮はひそかに端末に移していた。

 違法ではあるが、先生は見て見ぬ振りをしてくれていた。


 久遠がシステムを使った際の座標位置、地点を計算した結果、やはり件の平安京に飛んだと考えて間違いなさそうだ。


 蓮は学校からシステムが移設される前に、深夜に忍び込むことに成功した。


 そして、無事にこちらの世界にたどり着き、あの声は千景であり、千景の思いに答えた神が、システムに介入したのだと確信した。

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