第二話〈扇子を広げた友〉


 清太呂は英心の元を訪ねていた。

 やはりまだ、泰正は渋っているぞと伝えたら、苦悶に満ちた表情で座り込んでしまう。

 二人がいる部屋は、泰正の部屋として用意されたらしい。

 調度品は全て新品であり、おそらく英心が見立てたのだろうというのは、見た目でわかる。


 が、それよりも英心の落胆する様がどうにも解せない。

 清太呂の記憶では、英心は泰正を嫌っていたはずであるが……。


 ふと、思い出した事件についてふきだしてしまい、慌てて口元を塞ぐ。

 案の定、英心に気づかれて詰め寄られた。

 怒りの形相である。

 英心は昔から冗談が通じぬ男だ。

 清太呂はどう取り繕うか悩み、ただ顔を振る。


「な、なんでもないぞ、単なる思い出し笑いだ」 

「私を見ていたのだから、私に関わった話だろう。教えよ!」

「ま、まあ、お前というかなあ、泰正だ!」

「は? な、何故、私を見て泰正の記憶を」

「……英心よ、まさか本気で言っているわけではないよな?」

「……っ」


 顔を赤くした様子を見て、ため息をつく。

 少し考えればわかるだろうに。

 こやつが覚えているかどうかはわからないが、一つ、話してみるとするか……。

 清太呂は、英心に座るように促し、向かいあって茵の上に腰を落ち着ける。

 もったいぶって扇子を広げてやると、あからさまに眉間に皺を寄せたので、ひそかにクスクス笑う。


「おい、話さないなら帰れ」

「まあまあ、一緒になる相手の面白い話なんて興味しかないだろ……あれ、そう言えばお前達は、どちらが妻なんだ」

「……っな、何をいうか! 当然、泰正だろう!」

「そうなのか?」

「ああ!」


 ヤケになっていないか………?

 だとは訊けずに、とりあえず話はしてやるかと、語り始めた。

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