第二話〈扇子を広げた友〉
清太呂は英心の元を訪ねていた。
やはりまだ、泰正は渋っているぞと伝えたら、苦悶に満ちた表情で座り込んでしまう。
二人がいる部屋は、泰正の部屋として用意されたらしい。
調度品は全て新品であり、おそらく英心が見立てたのだろうというのは、見た目でわかる。
が、それよりも英心の落胆する様がどうにも解せない。
清太呂の記憶では、英心は泰正を嫌っていたはずであるが……。
ふと、思い出した事件についてふきだしてしまい、慌てて口元を塞ぐ。
案の定、英心に気づかれて詰め寄られた。
怒りの形相である。
英心は昔から冗談が通じぬ男だ。
清太呂はどう取り繕うか悩み、ただ顔を振る。
「な、なんでもないぞ、単なる思い出し笑いだ」
「私を見ていたのだから、私に関わった話だろう。教えよ!」
「ま、まあ、お前というかなあ、泰正だ!」
「は? な、何故、私を見て泰正の記憶を」
「……英心よ、まさか本気で言っているわけではないよな?」
「……っ」
顔を赤くした様子を見て、ため息をつく。
少し考えればわかるだろうに。
こやつが覚えているかどうかはわからないが、一つ、話してみるとするか……。
清太呂は、英心に座るように促し、向かいあって茵の上に腰を落ち着ける。
もったいぶって扇子を広げてやると、あからさまに眉間に皺を寄せたので、ひそかにクスクス笑う。
「おい、話さないなら帰れ」
「まあまあ、一緒になる相手の面白い話なんて興味しかないだろ……あれ、そう言えばお前達は、どちらが妻なんだ」
「……っな、何をいうか! 当然、泰正だろう!」
「そうなのか?」
「ああ!」
ヤケになっていないか………?
だとは訊けずに、とりあえず話はしてやるかと、語り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます