二章完結第十六話〈迫る憎悪〉


 蓮は狭い部屋に閉じ込められ、息を潜めて暗がりに目を凝らした。

 何かがうごめいているのを感じた。

 確かに息遣いが聞こえている。


 ――何がいるんだ?


 ろうそく一つ灯されない部屋には、窓もなく、手探りで前へと屈んで進むしかない。

 やがて息遣いが呻き声と分かり、恐怖心で身をすくめてしまう。


 ――僕以外の人が、閉じ込められている!


 それも、数十人にはいるようだ。

 蓮は、この牢獄から早く出なくてはと焦る気持ちと、彼らを助けなくてはという想いに気持ちが囚われた。


 ――どうすればいいんだ……!  


 この部屋に閉じ込められた時の記憶が曖昧で、頭の鈍痛がひどくなる一方だ。

 ふいにガタリと音が響いて、光が差し込み、瞳を閉じた。


「まぶし……!」

「出られよ、魔鏡師……いや、異界の男子よ」

「あ、あなたは……」


 蓮は、彼が何者かが分かった。


 佐々斬一族の陰陽師!


 何度か天照の屋敷周辺で、顔を見かけていたのだ。


「蓮、早く出てきなよ」

「……先輩?」

「帝は、己等にお前を預けるそうだ」

「道満も」


 蓮は牢獄からゆっくりと外に歩を進め、自分を見る彼らを見つめた。

 久遠先輩、道満、佐々斬……いったい、何を企んでいるのだろうか。


「お前が堕落する様を見届けてやるよ、蓮」

「……久遠先輩」


 憎悪に満ちた瞳を向ける先輩に、蓮は唇をかみ締めた。


 ――馬鹿な人だ……! 僕の為に、自分の人生を台無しにして!


 叫びたい衝動を抑え込み、瞳を伏せた。


〈二章【愛憎の果てに】了〉

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