第十三話に〈帝に文を〉


 英心の後に続いた泰正も、声がした方へ足早に駆けつける。

 屋敷の前には民ではなく、身なりを整えた陰陽師が数人いた。

 彼等は、官人陰陽師である。

 泰正の顔見知りも含まれていた。

 頭分が、ぶしつけに問いかける。


「忠行殿はおるか!?」

「……奥におりますが」

「ならば、聞いているのだな!」

「何をですか」


 泰正は彼らの形相に不穏さを感じてはいたが、不安が増していった。 

 ふいに肩を軽く叩かれて、英心が彼らに声を張り上げた。


「今は混乱している状況です! 師も怪我を負っている故、落ち着きましたら出向きますので、どうかお引取りを!」

「ならぬ! その様子では、忠行殿はお前達に話しておらぬようだな! 急ぎ文をしたためよ!」

「文を?」


 思わず口を挟む泰正に、頭分の者は仰々しく言い放つ。


「お前達の身に何が起こったのか、今回の件と、数年前に起きた都に嵐が吹き荒れた件について、包み隠さず書き記せと、帝の命である! 晴明殿は私が連れて行く!」


 その一方的な申し伝えを聞いて、泰正は眉根をひそめる。

 英心を見ると、彼も怒りをあらわにした顔つきになっていた。


 監視役が屋敷の外で見張る最中、屋敷には、泰正、英心、忠行が残された。

 異空間やこの屋敷での騒動を、官人陰陽師達は察したのだろう。

 当然、帝も把握した筈だ。


 文をしたためろと言われたが、どのように記すべきだろうか。

 泰正は、応急処置をされてあぐらをかいている師に話しかける。


「師匠、帝と会われたのですか」

「……うむ」


 泰正はそっと近寄り、小声で会話を交わす。


(なんと話されましたか)

(……帝は、晴明がどこで何をしているのかはご存知であった、そしてお前が鬼に取り憑かれている事実を……なぜ、お前を殺すように命じず、わざわざ封じたり、晴明を監視するように指示をされたのか……)


 その事実を聞いて、唾を飲んだ。

 帝はいったい何を考えているのか……複雑に考えて、妄想してはいけない。

 泰正はため息をつくと、師からはなれようとするが、声をかけられて足を止めた。


「帝には、お前の想い人については話しておらぬ。安心するが良い」

「……師匠」


 泰正は、我に返る。

 師は、頑なに泰正を庇ったばかりに、立場が危うくなっているのではないかと。


 ――いかん! 師匠の身が危ない!



 それに、連れて行かれた蓮や晴明も心配だ。

 もとはといえば、都が数年前に荒れた件は、泰正に取り憑いた鬼神も原因のひとつなのだ。

 異空間には、道真のような怨霊や、魑魅魍魎が闊歩しているのだ。

 そんな危険な場所と、都が繋がる切れ目をいれてしまい、結果的に晴明が身を張って守る羽目となった。


 ――皆が、私のせいで巻き込まれている!


 泰正は帝に想いを打ち明けて、己のみに罰を与えてくださるように文に記した。



 英心は、文をしたためる泰正を横目で見つめて、己も筆を走らせる。

 帝に気持ちが伝わるのを祈りながら。

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