第六話〈鬼の悪戯〉
起き上がろうとすれば頭がクラクラして寝床に伏せてしまう。
額に腕を乗せて深い呼吸を繰り返して、速まる心臓を落ち着かせた。
ここはどこだと考えを巡らせると、昨夜の宴を思い出し、何があったのかをぼんやりと認識して悩ましくなる。
――まさか、あの文を拾われているとは……!
確かに捨てた筈なのに。
その時、脳内にドス低い声音が響いた。
“どうだ我のいたずらは”
「一体何をした!?」
“お前が捨てた文を、通りがかったあいつの前に落としただけだ”
「なら、なぜ私が疑われる?」
“さあ。お前の屋敷の前だったからだろう”
「……千景が疑われなくて幸いだった」
“どう見ても男の筆跡だろう、観念するんだなあ”
「バカげたことを!!」
「泰正様、お目覚めですか?」
開かれた襖から千景が笑顔を覗かせた。
泰正は布団から這い出て頬を緩める。
お盆を手にしており、食べ物が乗った小皿が何枚か見えた。朝食を用意してくれたらしい。
部屋の隅にある卓に運んでくれたので、頭痛を我慢しながら千景から料理を受け取る。
卓を挟んで向かいあって座り、言葉を交わした。
「わざわざ駆けつけてくれたのか、すまんな」
「いいえ! 本当は昨夜の内に来たかったのですが、もう遅いし、眠っているからと。なので朝早く来たのですが、早すぎましたね」
「いいや。助かる。いただこう」
「はい。冷めても美味しいように濃いめの味付けにしました」
「ありがとう」
まだ汁粥はあたたかい。
焼き鮭が混ぜられており、胃に優しく染みる。
ようやく頭がスッキリしてきた泰正は、件の男子について確認した。
事は順調に進んでいる様子でひとまずは安心して良いだろう。
今は魔鏡に守られている筈だが、念の為早めに帰るべきだと考え、使用人を呼んだが、他の一族はすでに解散したようで、胸をなで下ろす。
途中で男子に必要な道具を買い込むと話し合い、千景を先に帰らせる。
まだ早朝ではあるのだが、花祭りの期間は夜通し開いている店が多数あり、助かった。
主に仮装行列用の店ばかりだが、目当ての衣装を見つけて購入して帰路につく。
「泰正殿」
「!」
後方から声をかけられて心臓が跳ねた。
顔を見ずとも、それは英心の声だとわかるため、振り向くまで勇気がいる。
そっと顔を向ければ、一人のようだ。
口元を緩めてはいるが、目元が笑っていない。
貴族を迎える準備で忙しいだろうに、何故出歩いているのだろうか。
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