9話


 流石に馴れ初めは後日ということで勘弁してもらった。主に僕の精神状態のために。

 だが、今度は違う話で千夏達四人は盛り上がっていた。


 じゃあ作戦会議ね!


 藤堂さんのその一言で、三人とも頷くあたり、千夏は仮面とか言っていたけれど、何だかんだできちんと関係を構築していたんだなと僕は思った。


「まずは佐藤……佐藤は女の子にもいるし、佐藤くんもいるから、ハジメくんで良いかしら? …………え、千夏、その顔はだめなの?」


 藤堂さんが話を始めようとして、呼び名に触れた後に千夏に向けてあきれたような顔をして言った。

 それに隣の顔を見ると、何だかむくれたような顔をしている。


「うちだって、ハジメ呼びになるまで結構かかったのに……お母さんと言い、早紀といい、あっさりと。…………いやね、いいんだけど、いいんだけどさ」


「これは絶対良くないやつだ…………ああ、千夏ちゃんが可愛いよ! これはスクショ案件!」


「……なるほど、佐藤さんはこの千夏さんを独占しているのですね。私は恋愛というものはよく分かっておりませんでしたが、何というか羨ましいという気持ちはわかったかもしれません」


 全然話が進まなかった。そしてやっぱり帰りたいです。

 ただでさえ可愛いと言われる同じクラスの女の子四人と男一人で同じテーブルに座っていて、尚且つその一人には腕を組まれるように隣同士。

 店員さんとか、オーダーやお皿下げるために通りかかるたびに視線を感じる。


 いや、僕でも多分店にこんなお客さんいたら見るけど。


「いいわもう、佐藤は佐藤呼びで。とりあえず噂対策ね」


「ありがとう藤堂さん、なんかごめん。……でも、噂なんて対策できないよね、付き合ってるって事を隠さないとしても、あえて宣言するのも変だと思うし」


 対策という言葉に、僕がそう疑問の声を上げる。


「……あんたもあんたで自覚ないわね。正直、全然絡んでなかった今までならともかく、学校であんた達の感覚でにしてたとしても、目撃されたら翌週にはほぼ全てのグループに共有されてるわよ。断言できるわ」


「…………」


 呆れたような声で藤堂さんにそう言われて、そして千夏を見て、自分の行動を自覚するとそうかもしれない、と思った。

 同時に、それって自分のことながらヘイトが溜まるのではとも思う。その疑問を告げると、藤堂さんは自信有りげに首を振って言った。


「大丈夫よ、大体ね、噂は怖いけど、より強い影響力があるのなら、それで吹き飛ばしちゃえばいいのよ。そしてあんたの彼女の千夏はうちの高校ではかなりの影響力を持ってるわ、そしてそこにうちらも協力したら、大分勝ち目はある」


「ごめん、言ってることはわかるけど、正直イメージが湧かない。…………千夏はわかる?」


「…………え? うん、うちは何となく、というか、もしもいつかバレるなら、そうしたいと思ってた考えもあるし」


 千夏は当たり前のようにそう言って、櫻井さんや法乗院さんも当たり前のように頷いているのを見ると、女の子の間ではそう言うグループごとの力関係とかは当たり前のような暗黙の了解なのだろうか。え?女子怖くない?


「まぁ佐藤に関しては、わからなくても仕方ないか、あんたって何ていうか、全然コミュニティに興味ないもんね…………あれ? 考えてみたら、誰かと特別仲がいい感じもないし、部活入ってないしそれでいて何かの委員でも無いし、かと言ってオタク趣味全開とかぼっちで浮いているわけでも無いし、何か不思議な立ち位置ね。別にこうして話している分に、どもったりもしないし喋るの苦手ってわけでも無さそうだし…………んー?」


「えっと、藤堂さん?」


「あ……ごめんごめん、ちょっと思考が。とりあえずはさ、一息に女子グループと言っても色々あるわけよ。わかりやすく言ったら、ギャル系メイク好きだったりする子たち、アイドル好きだったり、部活関連繋がりだったり、うちらみたいに同じクラスで馬が合って、とか同じ中学から来た集まりとか。まぁうちのクラスの男子は何ていうか、不良もいないし、部活系のノリかそうじゃないか位みたいだけどさ」


「うん、それはわかる」


 他のクラスは知らないが、うちのクラスで言うと、そこまで目立つ男子がいないこともあって、悪く言えばバラバラ、よく言えば揉めるほどの階層もない。だからこそ余計に千夏達のグループが目立っているというのもあるが。


「で、これは千夏は気を悪くしないで聞いて欲しいんだけどさ」


 そして千夏の方を見て念を押すようにして藤堂さんが言って、続ける。


「千夏の相手がうちのクラスの佐藤で、そして千夏がベタ惚れだって情報は、女子のどのグループにとってもな情報なわけよ。だってさ、千夏はうまくやってるけど、実際千夏狙いな男は多いし、そしてその男狙いな女の子も一定数はいるわけ…………うちらがいるから、って言うと調子に乗ってるかもしれないけど、確かに千夏一人だったら、彼氏がいないのは悪目立ちしてたでしょうね」


 確かに、と少し僕も思った。

 千夏は物凄く可愛いと僕は思うけれど、藤堂さんはきっとそれに並んでも遜色ない美人だ、それもタイプが違う。

 そして櫻井さんと法乗院さんも、それぞれ外見が整っているし、何というかこの4人は4人で華がある。勿論千夏がバランスを取っていた事もあったのだろうが、悪目立ちしないという意味ではその通りだった。


 そう納得している間に、藤堂さんは更に続けた。


「だからさ、それこそ放課後とかにガツンと目立たせて、その後少し騒ぎになるだろうけど、女の子達には情報回して。…………そうね、多分マジで千夏に惚れてる男子とか、空気読めないヤツ以外は味方につけれるわ。流石にその全員が絡んでは来ないでしょうし、それに既に相手がいる男子は彼女越しに中立には出来るはず」


「……なるほど」


 正直、僕はそう言うしか無かった。

 え? 女の子ってこんなに、どう行動したらどう影響するって考えて行動してるの?


「本当は、影響力ある男子、それこそバスケ部の佐藤くんとかが動いてくれたら万全かもしれないけど。まぁそこは佐藤が頑張るしかないわね」


 藤堂さんがそう締めくくると、ちょっと櫻井さんが反応したものの、何も言わなかった。

 正直、佐藤くんならお願いできるかもしれないけれど、そこまで頼るのは色々と申し訳ないと思った僕は、うん、そこは頑張るよ、と告げる。


 そんな僕に満足したように藤堂さんは頷いて、後はなにかあるかな?と櫻井さんや法乗院さんにも水を向けた。


「そうですね……後は、私が思うのは、佐藤さんの何かわかりやすい長所でも目立たせるとかでしょうか? 人は皆、目に見えるものと、複数から聞いたもので人を判断しますので」


「玲奈ちゃん流石、それ良いね。絶対に一週間くらいは、何かと話題に上がるし見られると思うからその間に何か、佐藤くんって実は凄い、みたいなのがあれば完璧かも。千夏ちゃん…………に聞くのは物凄く不安、なんだけど、佐藤くんの良いところって…………優しいのは凄いよく分かるからそれ以外で」


 法乗院さんが考えてそう案を出すのに、櫻井さんが補完しつつ、千夏に聞こうとして物凄く躊躇うようにして、そのまま聞いた。


「どういうことよ? うちだってちゃんと、ハジメの良いところいっぱい言えますー」


「いやそうじゃなくて、今の千夏ちゃん見てると、良いところしか言わなさそうというか。今必要なのは惚気ではない事実と言いますか」


「ふふ……」


「何でハジメがそこで笑うのよ!?」


 櫻井さんの言い方に僕がふふっと笑ってしまったのを見て、千夏がそう言ってくる。


「……ほんとに良かったなって思って、その、千夏がちゃんと話せて。後、千夏の友達が皆いい子で、そしてこんなに真剣に考えてくれて嬉しいし、その中で千夏が自然体でいるのに何かホッとしたら、ちょっと笑っちゃった」


「「「「…………」」」」


 女子達の視線が集まった。


「……こういうとこ」


「うん、わかったけどそれ以外でお願い」


 何かが女の子達の間で定まったらしい、千夏からの腕にかかる力が強くなって、藤堂さん達からの視線がより生ぬるくなった気がした。


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