第5話 誕生日

 あずさの誕生日パーティの日。結局、梓は誕生日を祝ってもらい、後日、本当のこと、本当の気持ちを伝えることにした。

 誕生日の日は金曜日だった。梓は仕事を終えてすぐに恵人けいとのアパートに行くことにした。その日は慈代やすよ、恵人の同級生の大島良太おおしまりょうた、そして、慈代やすよの同級生の川内優香かわうちゆうかが来ることになっていた。


 当日、お昼ごろに慈代やすよは恵人の部屋に行った。慈代もお菓子と果物を買って持って行った。少しして良太から電話がかかってきた。『急用ができて行けない』という電話だった。優香からも具合が悪くなって行けないという電話だった。なんだか本当に来れなくなったのか、変な気を遣っているのかわからない感じだった。

 三時を過ぎた頃、慈代は恵人に「何かDVD借りて来ない?」と促してみた。まだまだ時間はあったし、時間が潰せるものが欲しいところだった。近所にレンタルショップがあったので、一緒に行って話題の映画のDVDを二、三本借りた。

 お菓子を食べながら二人で見る。恵人にとって、これまで、いろいろ相談に乗ってもらっていた慈代は、何かただの先輩という感じではなかった。ベッドの上に並んで座ってみる。映画のクライマックスのシーンで主人公とヒロインの女性がキスをする。隣で見ている恵人は、そのシーンを見ながら何かそわそわしている感じだった。慈代の方にも、それが伝わり何かドキドキしてしまう。

 恵人にとって慈代は、あずさが卒業した今、同じ演劇部の中で一番美人な先輩女子だった。しかも、何かと気に掛け優しくしてくれる年上の女性だ。


 ふと時計を見ると五時過ぎだった。梓から電話がかかってきた。

「ごめん。恵人君。ちょっと残業になって……本当にごめん。ちょっと遅くなりそう」

「いいですよ」

「また、連絡するね」


慈代は会話の内容を理解できた。

「遅くなりそうなんだ」

「うん」

「でも仕事じゃ、仕方ないね」


二人の間に少しの沈黙が流れた。

「ねえ、恵人君。ちょっとシャワー借りてもいい?」

「え? あ、どうぞ」

「ごめんね。今日はみんなで泊まっていく予定だったから……あ、私、泊まっていってもいいんだよね」

「いいですよ。全然」

「よかった」

「シャワー借りるね」

バスルームに向かう慈代。

「あ、ごめん。バスタオル借りていい?」

「あ、どうぞ」

慈代はタオルと自分の持ってきた袋を持ってバスルームに行く。

緊張する恵人。バスルームの音が気になる。

しばらくして慈代が出てきた。

「ありがとう」

「恵人君もどうぞ。恵人君の部屋だけど……」

微笑む慈代がかわいらしく、色っぽかった。

恵人もシャワーを浴びる。ついさっきまで慈代が使っていたバスルーム。心臓がドキドキしている。


バスルームから出てくると慈代が果物をいていた。

「一緒に食べよう。梓さん遅くなりそうだし」

二人で果物を食べる。特別な時間だった。

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