第4話 誕生日の前に 梓

 あずさは誕生日の前の晩。大学時代から親友の三村玲子みむられいこに電話をした。

「久し振り。玲子」

「あら、あずさ。めずらしい。電話くれるなんて。嬉しいわ。元気にしてる?」

「うん。相変わらずって感じだけどね」

「そう。沖本おきもと君とはうまくいってるの? 沖本秀人おきもとひでと君」

「……」

「どうしたの?」

「それがさあ……恵人君。覚えてる?」

「うん。梓のこと好きだったね」

「え? でも、あなた沖本君じゃないの?」

あずさは少し困ったような感じで口籠くちごもる。


「恵人君がさあ。私の誕生日祝ってくれるの」

「ああ、そういうこと……」

玲子はあずさが言いたいことを理解できた気がした。


あずさ、よくないよ。それ。優しくないよ……」

「そうだよねぇ。……なんか、言い出せなくて」

梓が困ったような口調で言う。

「あなたねえ。恵人君をキープしておこうとか、そんな気があるわけでもないんでしょう。ただ優しいから、断れないみたいなんじゃない?」

「まあ」

「それ、あずさの方が優しくないよ」

「タイミング逃しちゃった感じ……」

「難しいよねタイミング外しちゃうと……」

「うん」

「でも、梓、はっきり断ってあげた方がいいと思うよ」

「そうだよね。なんか今回はいろいろ準備してくれてるみたいだから……タイミング見て言うよ」

「そうね」

梓は電話を切った。そして、溜息をついた。

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