第30話 競争
「本日はゲルサス子爵家のオークションにお集まり頂きありがとうございます。これよりオークションを始めます」
ステージに現れた司会は、派手な燕尾服で大袈裟な動きで挨拶と共にルールを説明する。
ルールは簡単で、それぞれのテーブルに置かれている数字の札を上げると落札の意思表示になる。価格は基本的に司会が提示する価格になるそうだ。基本的に貨幣を一つずつ増やしていくようになるらしい。
ここは闇市の一つで、選ばれた者だけが入れて、ここからしか手に入らない商品も多く、中には闇市ならではの、決して表には出ない珍しい商品も多く出るらしい。もちろん違法な商品も。
それからいくつかの宝石類が出てきて、セリナさん曰くどれも珍しくて手に入らない宝石ばかりだそうだ。それは貴婦人のような格好をした女性が大量に購入していた。
「あの方は恐らくエンブレイム家の夫人だと思う。あまり詮索はしない方がいいけど、一応覚えておいて」
こういう場所で繋がりを持って商売の相手が見つかることだってある。だから顔を覚えておくのは非常に大切なことだ。
宝石類が終わって、今度は魔物の素材の販売が始まり、商人の人がこぞって札を上げている。セリナさんも時々札を上げて値段を競うが、最終的には全て負けてしまった。
「ん……ブルージャイアンの瞳なんて珍しい素材……欲しかったわね……」
ダンジョンでドロップするならいつかアリスと共に狙いに行きたいくらいだ。そのためにももっともっと強くならないと。
「それではこれから最後の売り物――――
奴隷という言葉が響くと、会場にいる多くの人の雰囲気が変わった。
「これが本番ね。それにしても例の物は売りに出されなかったけれど……ふむ」
「そもそも奴隷って何ですか?」
「奴隷というのは、亜人族や魔物を
「っ!?」
「人族を奴隷にするのは王国法上では違法になっている。でもそれはあくまで人族だけ。亜人族は法に当てはまらない。ただ大っぴらに奴隷を認めていないのもあるので、こういう場所で取引されたりするわ。取引される程の人材だけだけれど……」
ステージに最初の奴隷が上がる。屈強な体を持つ獣人族の男は、片目が傷で塞がれているし、全身に多くの傷の跡があり、強さの風格を漂わせている。
すぐに次々札が上がり、銀貨を越え、金貨にまで突入した。
最終的に落札したのは、商人風のふくよかな中年男性。
「恐らく護衛のために奴隷を欲しがっていたのね。護衛を雇うならああいう自分の命令に絶対になる奴隷の方がいいからね」
「そう……なんですね……」
「ええ。ダンジョンの中だけでなく、街の中でも外でも商人は荷物を狙われて襲われたりするからね。私もアレンくんたちが守ってくれるからとても心強いわ」
セリナさんが普段動いている時間帯を明るい時間帯にしているのはそういう理由があったんだな。
迷宮都市内だとまだ衛兵が多いので、白昼堂々と人を襲ったりはできないはずだ。
それから次々奴隷たちが現れては落札されていく。
亜人とはいえ、自分たちと姿が違うだけなのに、どうしてああいう扱いを受けるのは、少しだけ腹が立った。でも、僕だって【絶望の銀狼団】にいた頃から奴隷に近い生活を受けていた。
給金を貰ったこともなければ、寝床は最悪と言ってもいいし、早起きから雑用まであらゆることを頑張って、最終的には何も教えてもらえず、ダンジョンで落とされる。それが僕達に決められた運命だったのかもしれない。
そう考えると、今の僕が生きていられるのはアリスのお父さんのおかげだ。いつか必ずアリスさんの役に立つようにもっともっと強くなりたい。
「では次の奴隷で最後になります! ここ最近では珍しい亜人となります!」
「よし、多分大物ね」
セリナさんの言葉が終わり、直後現れたのは――――美しい金色の長い髪をなびかせて、悲しみに染まった表情の女性が現れた。
首輪と質素な服からでも彼女の美しさは際立っており、道行く男性なら必ず振り向く程に美しい。そして、一番気になるのは――――綺麗な髪から外に出ている尖った耳だ。
「エルフ……」
「こちらはエルフ族の奴隷になります! まだ処女であり、精霊も使役できるので護衛としても
司会の言葉に眉間にしわを寄せる彼女。きっと普通の方法で奴隷になったわけではなさそうだ。
直後、札が一斉に上がる。
値段が金貨に突入しても札が降りることはない。
金貨が二桁に入るとちらほら降りる札はあるが、最終的に二人の貴族風男たちが札を上げたままの状態になっている。降りないという意思表示だ。
その時、セリナさんが札を上げ、大声をあげた。
「金貨五十枚!」
会場が一気にざわつく。
金貨五十枚ともなると、お店を持てるくらいの金額だ。奴隷に金貨が十枚を越えただけでも凄いのに、一気に跳ね上がってしまった。
「おっと~! 五十枚という破格な価格提示ありがとうございます! では五十一枚の方は~はい! 十九番様!」
札を上げた男性がこちらを睨むつけるが、セリナさんは何一つ構わずにさらに声と札を上げた。
「六十枚!」
「六十枚頂きました~! 六十一枚の方はいますか~!」
競っていた男二人がセリナさんを悔しそうに睨みつける。僕とアリスが左右に分かれて守るように睨みつける彼らの視界を遮る。
「では金貨六十枚で落札となります!」
会場が一斉に拍手が響く。
それにしてもセリナさんがこれ程お金を持ってきているのに驚いたけど、奴隷一人に六十枚も使うとは思いもしなかった。
こうして僕達は特別ルームに向かうこととなった。
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