第17話 誤解

 素早い動きで水色スケルトンの攻撃を避けた彼女に、後ろの大蛇との射線が開くのが見えた。


 迷うことなく杖を向ける。それに反応するかのように彼女はより大蛇が見えやすくなった。


 素早く撃つだけなら〖フレイムバレット〗でもいいのだけれど、今回撃つのは〖アースランス〗連射は効かないものの、弾速はこちらの方が優位で威力も高い。


「〖アースランス〗!」


 彼女にも何をするのか伝えるために、普段はしない魔法の名前を口に出す。それと同時に杖からアースランスが放たれて、戦っている彼女達を通り過ぎて、後ろから近づいてくる大蛇に刺さった。


 僕も彼女たちを通り抜けて大蛇に向かって走り込んでは、もう一撃〖アースランス〗を放ち当てるも、何故か大蛇は倒れなかった。


(〖フレイムバレット〗なら四発で倒せたのに〖アースランス〗二発で倒れない!?)


 幸い、大蛇は〖アースランス〗が当たった反動によって少し距離が取れたので、そのまま〖アースランス〗を連発してみると、さらに二発当ててようやく倒せた。


 それとタイミングを同じくして、彼女もまた水色スケルトンを倒した。そんな彼女と目が合った。


「助けてくれてありがとう」


「い、いいえ! そ、その……遅れてすいません…………」


「…………一つ聞くけど、横取り・・・のつもりじゃないのよね?」


「横取り……ですか? それってどういうことですか?」


 彼女の薄い紫がかった綺麗な瞳がじっと僕の瞳を覗いてくる。


「ごめんなさい。誤解のようね。貴方って強いわりに冒険者としての常識はあまりないみたいね」


「あはは……ダンジョンで生活しているので、あまり冒険者のことはわからなくて」


「それなら一つ教えてあげる。横取りというのは、他の冒険者が魔物と戦っていて、その冒険者が負ける・・・のを持つ行為を指すわ。負けた冒険者から身ぐるみをはがすためにね」


「えっ!? 一体なんのために……?」


「そりゃ、楽して人の装備を手に入れるためでしょう。だから多くの人はパーティーを組んで行動するわ。一人でダンジョンに来るなんて、貴方も余程物好きか常識知らずなのかしらね」


「あはは……」


 彼女の言う通りなので何も言い返せない。本当ならミハイルさんたちのパーティーで一緒に狩りたい。


「それはそうと。はい」


 そう話した彼女は自分が倒した水色スケルトンからドロップした【魔石の欠片】と【水色の骨の欠片】を僕に渡してくれた。


「えっと、ごめんなさい。それはどうしてですか?」


「危ないところを助けてくれたからね。正直あのまま逃げても良かったけど、貴方がそこにいたらから逃げられなかったのだけれど……それも言い訳になるし、素材ならまた手に入れればいいから」


「それなら僕のせいでもあるんですから、それは貰えません。僕は自分が倒した分で十分ですから」


「…………そう。ならいいわ」


 少しだけ、人に対して冷たい気持ちを向ける人なんだなという印象を抱いた。


 こんな美人さんは見た事もない。それに対して性格が良ければいいなと幻想を抱いてしまったのは僕のわがままだ。


 アンガルスの彼女であるヘリスも優しさを装っていた・・・・・。やっぱり女性はどこか怖い生き物なのかも知れない。


 ふとクナさんとサリアさんを思い出して、みんながそうでないとすぐに気づいたので首を横に振る。


「? 私はこれで行くわ。今度は迷わず逃げてしまうから、巻き込まれないように気を付けてね」


「は、はい」


 少し冷たい印象だったけど、でも僕が巻き込まれないように逃げなかったのなら、それは彼女の優しさなのではないかな?


 背を伸ばして前を向いて歩く彼女の背中は、何かに迫る緊迫した気配を感じた。


 僕は仕方なくダンジョンに落とされて迷宮都市に戻れずにこういう生活を続けているが、彼女は何かの目的があってダンジョンで活動しているんだろうと思う。


 気にはなるが、これ以上彼女との関係も持つはずもないので、僕はもう一つの分かれ道を歩き進み、水色スケルトンと大蛇をできる限り倒して奈落に戻った。




 ◆




 ダンジョン五層に到達してから三日が経過した。


 【聞き耳のルーン】【忍び足のルーン】【瞑想のルーン】がそれぞれレベル1から4に上昇した。〖聞き耳〗と〖忍び足〗はレベル1に比べて随分と性能が上がった。忍び足は狩りにも効果が出るくらい良い性能となった。


 というのも、実は水色スケルトンこと、アクアスケルトンは視覚ではなく聴覚で獲物を見つけるらしく、レベル3の段階で〖アースランス〗の範囲に入ってギリギリ襲い始めるので、恐らくレベル4になった今なら〖アースランス〗で先制攻撃できるはずだ。


 〖聞き耳〗も魔物が動く音を聞き分けることができるので、大蛇が地面を這いずる音を聞き分けることができる。これに関しては〖探知〗があるのであまり役に立たなさそうだけど、〖探知〗では分からない人の気配を耳で分かるようになるのは大きい。


 ここまで強い魔物がいるなら、そろそろ【絶望の銀狼団】のメンバーと鉢合わせになるかも知れないので、常に聞き耳を立てて誰かが戦っているのを避けている。


 そして最後の【瞑想のルーン】。


 実は新しいルーンの中で、レベルが上昇して最も恩恵が大きかったのは、この【瞑想のルーン】だ。


 スキル〖瞑想〗というのは、眠らない状態で目を瞑っていると自動的に発動する。発動した際の効果はレベル1の時は全く感じられないものだった。道端に捨てられるくらい安いルーンだと、セリナさんがボソッと言っていたくらいだから。


 しかし、レベルが2に上昇しただけで恩恵が現れ始めた。


 その一番の恩恵。魔素の回復時間の短縮・・だ。


 これは最初気のせいなのかなと思っていたが、【絶望の銀狼団】で鍛えた体内時計を使い計った時間で減少しているのが分かった。


 魔素の自然回復は、魔素を最後に消費してから六時間が必要だ。それがレベル2になって少し早まった。さらにレベル3になってもう少し早まった。まだレベル4は試せていないが、レベル3だと瞑想を五時間かからないくらいで魔素が全回復できるのは、今までの狩りの頻度から考えて相当大きなものとなる。


 特に五層での戦いは一体の魔物に使用する魔素量が多いので大助かりだ。


 それと、もう一つ分かった事がある。


 僕が普段から使っている〖フレイムバレット〗と〖アースランス〗のことだ。


 〖フレイムバレット〗はレベル9、〖アースランス〗はレベル6の時点で、二つの威力の差・・・・というのは、単純に二倍の差である。恐らく同じレベルならその差は三倍になる計算になる。弾速、連射速度、消費魔素などを考えれば、それぞれ光る場面があるということだろう。


 では魔物によって威力が違うように感じたのはどうしてか。それは単純に魔物の属性耐性・・・・のせいだった。


 例えばアクアスケルトンの場合、火属性耐性と水属性耐性を備えているので〖フレイムバレット〗で八発も掛かるのだが、逆に〖アースランス〗の場合は耐性にも弱点にもならないので、二発で倒すことができる。それに魔法は単純に僕の魔力やスキルレベルだけでなく、速度や当たった部位によっても威力が分かっていくのを知った。


 例えばアクアスケルトンの場合、〖アースランス〗で頭部を貫いた場合、一撃で倒せたりする。大蛇の場合、逆に土属性耐性があるので〖アースランス〗の効き目は非常に悪い。代わりに火属性弱点・・を持っているので〖フレイムバレット〗で簡単に倒すことができるのだ。


 それに気づけたのもあり、五層での狩りもスムーズになって、【瞑想のルーン】もレベルが4となり、恐らく四時間もあれば魔素が回復できるので狩りのペースがより早くなるはずだ。




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 名 前:アレン・ティグレンス

 才 能:make progressLv.4

 レベル:51


 状 態:〖ブレッシングLv.6〗


【能力値】

 体 力HP:D   魔 素MP:D-

 筋 力:E+  耐 久:C

 速 度:E+  器 用:E

 魔 力:B   知 力:C-

 耐 性:D+  運  :B-


【ルーン】

・フレイムバレットのルーンLv.9

・アースランスのルーンLv.6

・ブレッシングのルーンLv.6

★小経験値獲得のルーンLv.6

★回避のルーンLv.6

★探知のルーンLv.6

★聞き耳のルーンLv.4

★忍び足のルーンLv.4

★瞑想のルーンLv.4


【魔法】

〖フレイムバレット〗〖アースバレット〗

〖ワープ〗〖ブレッシング〗


【スキル】

〖探知〗〖聞き耳〗〖忍び足〗


【マスタリー】

〖小経験値獲得〗〖回避〗〖瞑想〗


【ルーン倉庫】

・ワープのルーンLv.9

・投擲のルーンLv.1

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