第8話 挑戦

 〖ワープ〗でダンジョン二層にやって来た。


 ダンジョン地変によって形を変え続けているため、地形を覚えることはできない。しかも地変の頻度も決まった頻度で起きるわけではない。さらにいうなら地変が起きれば必ず地形が変わるわけでもなかったりする。


 少し幅広い洞窟を進んで行くと、二層の主要魔物の【ホブゴブリン】が現れる。ゴブリンというのは緑の小鬼として有名だが、ホブゴブリンの場合、人族と同じ身長があり、知能や戦闘力も通常ゴブリンとは比べ物にならない程に強い。


 特に女性冒険者にとってゴブリンは天敵だったりする。らしい。


 視界にホブゴブリンが入った瞬間に間髪入れず〖フレイムバレット〗を発射する。今までならホブゴブリンを倒すのに二発撃たないといけなかったが、〖ブレッシング〗による魔力上昇を鑑みて試してみる。


 僕の手から放たれた〖フレイムバレット〗は、レベルが1だった頃とは比べ物にならないくらい大きくなっている。【フレイムバレットのルーン】のレベルが上昇すればするほどに大きさはますます大きくなり、レベル9のいまは拳くらいの大きさとなっている。


 もちろん見た目だけ変わったわけではない。ホブゴブリンの胸元に直撃したフレイムバレットは、そのまま貫通して消え去った。


 それと一緒に直撃したホブゴブリンがその場に倒れて、灰となって消えていく。その跡地に紫色に輝いている綺麗な宝石を拾う。【魔石の欠片】と呼ばれる宝石は僕にとって一番大切な収入源だからね。




 旅商人のセリナさんの情報によると、魔物というのは大きく分けて二種類あるそうだ。分け方は至ってシンプル。ダンジョンの魔物かそうでない魔物か。


 どうしてその二つに分かれているかというと、魔物の仕組みが変わっているからだ。ダンジョン内の魔物は倒された時に身体が消えてその場に残らない。が、ダンジョン外の魔物は倒れても消えずに残るのだ。


 どちらも長所短所があり、ダンジョン外の魔物の場合、魔物の身体がそのまま素材となったり、食用にもなれる。ダンジョン内の魔物の場合、魔物の身体そのものは残らないのだが、代わりに【ドロップ品】というのが残る場合がある。その代表例が【魔石の欠片】と【ルーン】。特に【ルーン】に関しては多くの人が欲しており、才能関係なく装着するだけでスキルを使用できるので、より強いルーンを求める人がダンジョンを訪れているのだ。


 それにもう一つは、【経験値】だ。


 経験値は、魔物を倒した時に得られるもので目に見えるものではない。けれど、経験値が一定値を超えるとレベルが上がる仕組みになっている。経験値は全員が平等に必要なもので、戦いで神々が制定した貢献度で倒した時に獲得した経験値を全員で分配するらしい。僕はずっと一人で戦い続けているので分配も何も全てが独り占めだ。




 ホブゴブリンを何体か倒しながら進んでいると、前方で戦っている音が聞こえる。恐らく他の冒険者だ。


 それと出くわさないように壁面を歩いて通り過ぎる。もしも【絶望の銀狼団】の場合、まずいことになるのでいつも気を付けて歩いているのだ。


 ダンジョンの中ではわりと冒険者と会うことも多く、殆どの冒険者が仲間と共に潜っている。それらをパーティと呼んでおり、当人たちがパーティのメンバーだと認識すれば、経験値の分配がされる。


 三人構成のパーティで、正面の優しそうな男性が盾で敵を止め、後方のローブを着込んだ女性が魔法を放って戦うメンバーのようだ。もう一人の女性は服装からして回復魔法系統の才能持ちのようだ。


 通り抜ける時、ちらっと目が合ったが気にすることなく通り抜ける。何故なら彼らは何度も会っているからだ。二層で数十日間も狩りを続けていると顔見知りの冒険者も増えてくるものだ。


 また道を進み、分かれ道が現れても悩むことなく進む。仮に危なくなっても僕には逃げる術があるから。


 進んだ道で黒い狼三体が僕を見つめて威嚇し始めた。二層主要魔物二種類目はダークウルフだ。基本的に三体が群れて動くために一人で動くのは危ないと言われている。


「まあ、三体いても関係ないんだけどね」


 手を伸ばし〖フレイムバレット〗を三発放って、それぞれのダークウルフに当てる。何度も使っているから当てるのもお手の物だ。


 というのも実はコツがあったりする。魔物が動く前に・・こちらから魔法を撃てば当てやすいのだ。まあ、たまに避けられる時もあるので、油断は禁物だ。


 その日も魔物を沢山狩りながら進んで行くと、微かに地面の揺れを感じた。


(この揺れ……遂にか!)


 僕は跳ね上がる心臓を感じ、右手で左胸を抑える。二層で狩りを続けて既に何十日も経過しているが、その一番の目標は安定した狩りを行うことではない。とある目的・・を待っていたのだ。


 揺れからして、この道の先にいそうだ。奪われる前に全速力で走って行く。道の幅は変われど壁の形が変わることはないので同じような風景が足早に通り過ぎる。速度【E+】ではそれ程速くは走れないけど、【F-】だった頃から比べたらずっと速い。


 微かな地面の揺れがどんどん強くなっていく。そして、僕の前を阻むのは――――――身長二メートル程の巨体の歩く岩だ。


「やっと会えた…………二層のフロアボス。ロックゴーレム!」


 壁と同じ灰色の岩でできた巨体を持つロックゴーレム。


 【フロアボス】というのは、各フロアに一日一体だけ出現するレア魔物を指し、強さは普通の魔物よりも遥かに強い。


 僕と対峙するロックゴーレムは非常に高い防御力を誇る。もちろんそれだけでフロアボスが強いはずもない。


 ギャアアアアアア!


 僕を捕捉したのか、大きな咆哮を放つ。音圧だけでも相当強いのが伝わってくる。だけど、僕もずっと君に挑戦したかったからね。勝負だ!


 両手に〖フレイムバレット〗を集中させる。魔法は本来一つしか発動できないんだけど、〖フレイムバレット〗に限っては両手に撃つことで利点がある。その利点というのは――――連射力だ。


 元々〖フレイムバレット〗の良さというのは火力ではない。その連射力にある。片手で連射した場合、一秒に二発しか撃てない。が、両手で交互に使えば、一秒で四発撃つことができるのだ。ただし、両手に集中しているので集中力を多く使うデメリットはある。


 僕の両手から放たれた無数の〖フレイムバレット〗がロックゴーレムに直撃する。


 しかし、それに止まることなく僕を目掛けて走ってくる。


(これで止まらないのか!)


 思っていたよりも速い。ロックゴーレムに追いつかれて大きな腕が振り下ろされた。見た目とは反してアクロバティックな動きを見せるロックゴーレムの攻撃を何とか真横に全力で飛び込んで避ける。


 地面を叩く強烈な音が聞こえてきて肝が冷える。


 しかし、これで終わりなはずもないので、急いで体勢を整える。ロックゴーレムもすぐに僕を見つめてまた走ってくる。


(強いとは聞いていたけど、こんなに俊敏に動くなんて聞いてない!)


 それでも手を止めずに〖フレイムバレット〗を撃ち続ける。まだまだ残弾数はたくさん残っている。火属性に対して相反する属性は水属性だ。ロックゴーレムは土属性のはずなので、全く効いてないないことはないはず。


 ノーモーションで飛び込んでくるロックゴーレムから全力で横跳びで避けながら〖フレイムバレット〗を当て続ける。


(頼むからこのまま倒れてくれ!)


 まるで狂犬のように暴れ狂うロックゴーレムの動きを見切りながら全力で避けつつ攻撃を緩めない。その時、ロックゴーレムの腕に不思議な気配を感じ取った。


 背筋がゾッとした瞬間、ロックゴーレムの手から放たれた大きな岩が一瞬で飛んで来て視界を埋め尽くした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る